109.キラくんの行動を観察する その20
姉回です
少しヘビーなところがありますがご容赦を
ゲーム開始早々に何ブッパしてんの母さんわっ!
「にゃ、でょ、でょこにも行ってないわよっっ!!」
動揺しつつありきたりというか、取るに足りない様な台詞 を(かんだ)をつい吐いてしまう。
このゲームのエクストリームモードとは、エディットモードでプレイヤーが設定したものをメーカーが厳選して採用したステージを組み込んでいる。
その数50。アホかとも思うが、ゲームをやりこんだ人間のやる事というのは逆に侮れない。
そしてアニメの設定に準じたものだと言えば、それを喜ばない人間はそうそういないのだ。
それが例え低級魔物のミジンコもどき――ーミジコジィが大量に襲ってくるとかしても。
ひと程の大きさの透明な身体で中身がドクドクンと脈打つ姿はグロテスクかつキモい。生理的に受け付けない人間もいるだろう。ま、あたしは慣れたけど。
目の前にミジコジィの大群がやって来るのを、次々とロックオンして魔法詠唱を奏でドカンドカンと倒していく。
「え〜〜、ちゅ〜もしてないの?」
そんな中でも母さんは溜め攻撃で撃破しながら何でもないような顔をして言ってくる。
くっ、何が言いたいんだ。母さんは?
………いや、こんなとこでこんな話をしてくるのは、何かあるんだろうか。
追求するとヤブ蛇になると理解したあたしは逆に問い返す。
見合いとか見合いとか見合いとかは御免こうむる。
「何でそんな話になるの?そんなんじゃないもん」
嘘だが。
親と子の会話というのはどちらかと言えば子の旗色はかなり悪い。
それでも年を経れば対等になる事もあるだろうけど、あたしの場合はきっと未来永劫敵わないものなのだろうとは理解しているが、それでも納得出来るかといえばそうでもない。
ミジコジィを殲滅しつつ母さんが話を続ける。
「まー見合い話あるにはあるけど………、それは断ってるわよ」
あたしの心の内を読んだように、そんな事を言ってくる。
ことここに至ってようやっと話の根幹を理解する。
要は恋愛関係のことを聞いておきたいと思った訳だ。あたしの反応を見て。
でも、このことに関してはあたしにはどうこう話すことは出来ない。
こればかりはいくら父さん母さん心を痛めていたとしても、精神が拒絶している限り叶うことはないのだ。
親不孝と誹られても、反論はしても肯定は出来ないことだ。
「いやまぁ、原因はほとんどが私なんでどうこう言える立場じゃないのは理解してるし、でも何とかしたいってのは分かって欲しいとも思う」
母さんの放つ必殺ビームがミジコジィを大量に屠っていく。
「母さんのせいじゃないから、そこまで気に病むこともないよ」
あたしはそんな風に気持ちを交え言葉に乗せて母さんへ話す。
そう全ては実父が悪いだけなのだ。
その手のゲームや小説にも題材となっている。もちろん現実でも起きているそんな話だ。
幼い娘に突然現れた実父と名乗る男が襲い掛かって来たことなど。
当時のあたしは同い歳の子と比べても発育が良く、少しませていたこともあって初対面の人のなどは中学生と思われていた。
だから他人から邪まな目で見られていた事は知ってはいたが、こんな事になろうとは理解していなかった。
すんでのところで助け出されたあたしは、その後男を見ただけで恐慌状態に陥ったらしい。
らしいというのはその時の事はすっぽり全て記憶になかったからだ。
ただ、身体が拒否反応を起こすという事は、どこかに記憶はあるのだろう。
それ以後のあたしは男というものに恐怖しか無かったのだ。
かろうじてカウンセリングや催眠療法などで少しだけ回復したけど、そしてキラくんとの出会って忌避感が薄まり会話が出来るまでになった。
中学の頃1度だけ親しげに笑顔で近寄ってきた男を見て、あたしは周囲に轟き響く様な声で叫び倒れてしまった事がある。その時はキラくんが一緒で事なきを得たのだ。(その男はあたしを拉致ようとしてキラくんにボコられたらしい)
現在は色々経験したお陰か握手ぐらいは平気になってる。(じゃないと殴ったり蹴ったり出来ないから)でもそれ以上は無理。
あたしは弱い。今もだけど。
あたしは決してアレを赦す事はない。赦してはいけないと心が訴えている。
ただあたしにはアレの記憶は抜け落ちた様に全くない。幸か不幸か。
まぁそれで男性全てを忌避すべきものであると曲解しないですんだのは、神様のはからいなのかも知れない。
ミジコジィ軍団を全て屠ると、目の前には超巨大ミジコジィ―――ジェネラル・ミジコジィが出現してくる。
これがこのステージのボスになる。なかなか厄介な攻撃をしてくるのでプレイヤーの間では毛嫌いしてるのも多い。キモいしブヨブヨだし透明だしで。
小型のミジコジィを大量に口と腹から出してくるのだ。お前はタツノオトシゴかと。(アレ違ったか?)
キャラ毎に攻撃不可のキャラなんかも出て来たりする。(キャラの設定上)
でも母さんもあたしも臆する事もなく対処して次々とミジコジィを倒していく。
「うん、まぁ何にせよ、あんたはキラくんとしかどうにも出来ないと思うから、私が認めてることを知ってくれればいいわよ」
続々と出現してくるミジコジィを殲滅しつつ、母さんがそう言ってくる。
ある意味娘へのエールなのかも知れないけど、親としてはどーなんだろうかと思う。いや、有り難いんだけど………。くぅー……ちょい恥ずかしい。
「ナユくんも理解ってはいるけど、娘バカだから納得はし難いって感じだと思うけど、まぁ頑張りなさい」
母さんがボスミジコジィを撃滅しつつ、そう話を締めくくる。
どうやらこれが言いたかったらしい。あたしはなんとも言い表しようのない思いを心中に抱えつつ、はいと応える。
分かってる。あたしにはキラくんしかいないのだ。………うん。
そんな母さんのお墨付き?を貰いつつステージをクリアしていく。
結局今の状況がベストなのだと悶々と考え事をしていたら、魔獣戦艦ヴィバノイスの集中砲火を浴びてやられてしまった。ハァ〜ヴィヴァノンノンと聞こえる敵の声が憎らしい。
コンティニューのカウントダウンを眺めつつ、明日―――今日は早めに家を出ることになるのであたしはここでゲームをやめることにして母さんへ声を掛ける。
「母さん、あたしこれで落ちるから。じゃあねー」
「は〜〜い。おやすみぃ〜〜」
ライドシフトを終えて、HMVRDを外してふぅと息を吐き寝ようと思ったが母さんがベッドを占領してるのを見て、毛布を持ってきてリクライニングシートを倒して眠ることにする。やれやれ。
朝、目が覚めると母さんはベッドにおらずHMVRDが枕元に置いてあった。
「…………」
一体いつ寝てるんだろう。あたしが言うのも何だけどパワフル過ぎね?
少しだけ目をしょぼつかせスーツに着替えてダイニングへ向かうと、すでに皆が揃っていた。
7時前なのに3人共とても元気だ。あたしは欠伸をしながらキラくんをチラと見て少しだけ意識してしまう。母さんめっ。
でも目の前に出された料理を前にして、その意識は切り替わる。
朝ごはんの定番の数々にあたしの胃袋がくぅっと訴えてくる。
はよ食べさせよと。
バクバク夢中で食べてるうちにあたしの中のある種の昂ったものが収まり、いつものあたしにシフトしていった。
母さんによってかき回されて気持ちも、母さんによって収められた訳だ。なんだか理不尽だ。むぅ。
お替わりをしつつきっちり食べ終えて、スーツを着直してキラくんへ声を掛ける。
顔を緩ませて和んでいたキラくんを横目に(もっと見ていたかった)あたしは荷物を手に愛車に向かおうとすると、父さんと母さんに小言を頂く。ってかなんで全部キラくん絡みなんだろうか………。くぅ。
車中でゲームの話なんかして過ごし、正月のせいか道もスカスカで詰まる事もなくスイスイ進み、程なくアパートへと到着する。
駐車場でなくアパートの前に愛車を止めると、キラくんはすぐに降りて荷物を持って中は入ると食材やら何やらを詰め込んだカゴを持って出て物置小屋へ向かう。
物置小屋の鍵を開けてるキラくんに何か手伝うことがあるか聞くと。物置小屋にあるビニールシートを敷いてと頼まれる。
あたしは物置小屋に入り棚にある丸められた茶色のビニールシートを取り出し運び出す。
この餅つきイベントはもともとはじーさまが始めたイベントだけど、今はじーさまが亡くなった後キラくんが引き継いで毎年やってるものだ。
ご近所付き合いも兼ねて、アパートの住人も含めてやっているのだ。(キラくんは住んでくれてと感謝の気持ちとか言ってたな)
アパートの住人もじーさまの知り合いらしく、一癖もふた癖もある人達ばかりだ。
物置からちょい離れたところにシートを一旦置いて一息吐いていると、アパートの住人であるコウザシさんが道具を抱えてこっちにやって来た。
「おはようございます。コウザシさん」
「あけましておめでとうございます。ササザキさん」
おうふ。そう言やそっちが先か。
「あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」
じーさまと言うかガモウさんの知り合いらしいゴウザシさんに年始の挨拶をしておく
この人は所属している職場の中で〝カミソリ”と渾名される程の実績を持っているらしい。のほほーんとした顔してんのにね。
臼が汚れない様にいつもやってる所にシートをささっと敷いていく。
ある程度準備を終えると、キラくんからしばらく休憩してと言われ、あたしはアパートでひと寝させて貰う事にする。
手伝うにしてもキラくんは手順を決めてるようで、下手に首を突っ込むと逆に邪魔になってしまうからだ。決してあたしが料理が下手だからではない。
それに螺良ちゃんにも確認しときたいこともある。
部屋に入り即寝室へ上着を脱いで布団に転がりしばし堪能。んふー。
ひとしきり満喫してから起き上がり、ララちゃんを呼ぶ。
「ララちゃん、ちょっといーい?」
『はいなのです、サキさま』
ピコンとホロウィンドウが起ち上がり、ララちゃんの姿が映し出される。
どうやらアパート内の改造を着々と行ってるらしい。いつの間に………。
「最近会社に不法侵入が多くあるらしんだけど、ゲームの方でそんな話あるかな?」
自分でも調べられるのだけど、レイちゃんの次に状況を把握してるのがララちゃんなので、手っ取り早く聞くことにする。
『はい、そうなのです。どうやら改造されたHMVRDを使ってゲーム内部からシステムにアクセスしようとしてるPCが何人かいるのです』
まぁメモリーに容量はあるし、腕がある人間ならやってやれない事はないか。
ある意味この時点でアカ抹消対象なのだけど、相手の目的が分からないうちは下手に手出しするのも良くないか。
キザキのAI達からも報告は受けてるからある程度の警戒は必要なんだけど、どうしよっか。
『彼等の目的は12姉妹の言う通りAIの情報収集もしくは確保と思われるのです。現時点では調査段階と予測できるのです』
ふむ、ならしばらくは会社に常駐して警戒と対策を練った方がいいかものしんないね。
これはミラに要相談ってとこかな。
「了解。餅つき始まる前に起こしてもらえる?ちょっと寝足りなかったから」
『はいなのです』
こうしてあたしはキラくんのかほりに包まれて目を瞑る。くかー。
ララちゃんの起こされて駐車場に向かうと、もち米を臼に入れようとしているのが目に入ってくる。
そそそとキラくんの側に近寄り手伝いを始める。
餅つきはつき手と返し手の呼吸が重要になる。
もちろん返してはあたし以外にキラくんを相手に出来る人間などいない。(断言)
こうしてもちをつき上げる間、何か赤いのがうろちょろしてたけど、何だったんだろう
つき上がったもちを千切りながら、ぬるま湯の入ったボールへと放おっていく。
そして居並ぶ薬味?の数々。
納豆きなこにずんだ。すんだずんだっ。
じーさまの田舎の味で毎年こっちで出してるもので、枝豆の風味と砂糖の甘さが何とも言えず、いくらでも食べられる。
そして秀逸なのが、ローストポークの薄切りでもちを巻いてソースを掛けたものだ。
肉の感触ともちの感触がソースの味と共に口の中でもっちもっちと踊りまくる感じだ。
いくらでも食べれそうなものだけど、今日は大人しくしておこうと思っているので抑えておく。う〜っ。
キラくんに迷惑は掛けられないもんね。汁もち美味し〜。ホッとする味だね。
じーさまが作ってたのとあんま変わんない感じ。うんうん。
昨日に引き続き今日ももちをたらふく頂いてしまった。少しだけ食事の量に気をつけておこう。
正月が来たねーとキラくんとしみじみ話しながら和気藹々と楽しく過ごした。
後片付けをして少し休んだ後、夕ゴハンを食べてから寝室でHMVRDを被りライドシフトの後ログイン。
キラくんも居間でログインしてることだろう。
キラくんを見つけすぐに抱きつく、さっきまで大人しくしてたのでその反動がちょい大きい。もっとバランスを考えたほうが良さ気だ。特にここ数日一緒にいたしなぁ。
ラミィやアンリもやって来て、久々に皆が揃ってプレイとなる。
どうやらラビタンズネストを目指すみたいで、ワイルラビットとかの依頼を請けて南西エリアへと向かう。
あたしも気になってプログラムの解析とかを調べようとログとかを見ようとしたら、レイちゃんにダメ出しをされてしまう。
レイちゃんが言うにはPCは関係者でもゲームの中でちゃんとプレイして欲しいとの事で、ずるはダメですぅ~と言われてしまう。
まぁ、仕方ないわなとあたしも調べるのは諦めたのだけど、キラくんは何か知ってるみたいな口振りだ。
経験者は語るってとこだろうか。
話は簡単でラビット系のモンスターを100以上倒す事だった。
そんな事で果たしてと思いはしたが、映像だけのラビタンズに心奪われたあたしとラミィは、嬉々としながらワイルラビットやホーンラビットをサクサク狩っていった。
そしてキラくんの考察通りに現れたカンムリラビット。
強っよっ!!
なんかキラくんを目の敵する様に攻撃してる気がするけど、ウサギ狩り過ぎてお冠になってるとか。(つまらん)
皆が四方にばらけて、キラくんが囮になりつつようやっと倒す事が出来た。
ギリギリの戦いだったよ。よく死に戻りしなかったもんだ。
なんでかキラくんは王様の称号とか貰っちゃっているし、レイちゃんちょっとはっちゃけ過ぎだよ。あ、あるいはキタシオバラくんの仕業か。
その後エリアボスのビッグスラーミはあっさりと倒してしまい。カンムリラビットとの落差にちょっとだけなんだかなぁーって感じになる。
ラビタンズネストに入ると、アンリがラビタンズのその愛らしい姿を目の当たりにして狂喜乱舞する。
ライドシフト限界時間まで入り浸るほどに。
そして仕事に支障が出て来たと言うことで(有給20日とかバカ言いだす)、1日2時間とか決められ妙にへこんでいるアンリを見て少し笑ってしまった。
ここ数日はラビタンズネストからログインしてラビタンズを愛でていると、キラくんが料理を始める。
ララちゃんとウリスちゃんへのご褒美らしく、ついでと言っては何だけどあたし達もご相伴にあずかりキラくん謹製ステーキを堪能する。
いつも間にか開拓した食堂でスキルLvを上げた料理はめちゃ美味かった。(マルーオ村の時より更に)
ってか開発者が知らない商店街ってどうなのって話だ。ミラは面白いからい~じゃんとか言うし。はぁ。
その中でこれからの予定として西へ行くことを決め、しばらくログインできない間は、自由に行動してもらうことにする。キラくんには悪いけど。
その後は話の流れで、西の円門へ行って称号とスキルスロットをゲットしてログアウトする。
あたしも年始の挨拶回りや、何やかやで忙しくなる。
それにララちゃんとレイちゃん、そしてキザキのAI達からも動きが活発になっていると連絡が来る。
しばらくはミラのとこに詰めている必要があるみたいだ。まったく。
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「行動を開始する」
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