108.キラくんの行動を観察する その19
キラくんがキラくんとしてゲームを始めて数日が過ぎて、あたしにとっての素晴らしき日々を慈しみ堪能していた。
でもその間にまたタジマがろくでもない事をしでかした為、その対応に追われることとなったのは痛恨の極みだ。(ってか、Lv高いPCに変なイベント振りこまないで欲しい。あのままやってたらいくらレイドでも詰んでいた。レイちゃんから連絡を受け、本人を拘束した後10万余人分のデータ統計作業をさせてようやく事なきを得た。フラク的には無茶ぶりもいいとこだったが、特に気づかなかった様(多分)なのでセーフだろう。(苦情もなかったし))
そんな感じで、うきうき気分でキラくんとご飯を食べ楽しく過ごしながら、ラビタンズネストについては年が明けてからとミラ達と決め年末を迎える。
そして愛車に乗り込みキラくんのアパートへ。
入り組んだ道路を慣れたハンドル捌きで進んでいき、やがてアパートへと到着する。
前もってメールで連絡していたので、ドアをバタンと開けるとすでに出かける用意を終えたキラくんがララちゃんに留守を頼んでいるところだった。
ララちゃんは相変わらずの様で、明るく返事をしている。
この子もマルチタスクで分散処理をしつつ活動しているが、ある意味大したものだと感心してしまう。
日に何度かデータの統合処理を行っているらしいけど、キラくんの端末にストレ-ジしているので詳細はあたしにはさっぱりだ。
日々進化を遂げているかと思うと、ある意味怖ろしくもある。
けどララちゃんのモットーは〝マスターのおはようからおやすみまでをサポート”なので、ほかの事は一切どうでもいいというスタイルなので安心はしている。
車に乗り込みいざ発進!キラくんちょいビビってるぜ!ふふっ。
車中(2人っきりでもそれだけ!)で年明けの予定を聞きつつ、あーあれ、やっぱやるんだ。ふんふん。
途中止まることもなくスムーズに進み小1時間ほどで家へと到着。
2人とも家にいると思うのだけど妙に静かだ。
キラくんと連れ立って家へと入ろうとすると、突然ドアがパンと開いて何かが声を上げキラくんへと抱き着いてくる。ふぉっ!
キラくんがホールドアップ体勢で声を掛けている。
「ただいま、母さん」
おぅふ、そっか………母さんだったのか。思わず殴るとこだったよ。
そしてその後後ろからやってきた影に、あたしはささっと横へ動く。
その影の広げた両手が空を切り、指をワキワキさせて残念そうな顔をして「10㎝短縮か………」と呟く。
相変わらずな義父に苦笑いしながら挨拶をする。
キラくんと父さんが言葉を交わす間も、母さんはキラくんに抱き着きあまつさえ鼻をクンカクンカさせている。くっ、それはあたしだけの技なのに。なんて事だっ!
あたしがぐぬぬっと歯噛みしてると、母さんがこちらをちらと見やり目をニヤリと細める。うぬぅ!
玄関前でのいろいろも終わり、リビングへと入りひと息つく。
やっぱ久々の我が家だけどいーね。あたしはリラックスしながらキラくんの側に陣取る。
キラくんは若干緊張混じりだ。
父さんがキラくんが出してきたアパートの収支報告書類を眺めているからに他ならない。
あたしも以前は税申告関係を父さんに頼んでいたから、そこら辺は良く分かるつもりだ。(書類やら申告関係になるとやたら厳しいのだ。)
ただあたしの反対側には母さんが陣取り、キラくんの腕を絡めているので変な空気にはなっている。
父さんが何も言わないので、キラくんは諦めてじっとしている。
もちろんあたしもキラくんの腕を絡めながらコーヒーを頂いている。
父さんが書類を置いて問題ない事を告げると、キラくんは安堵した様にふぅと息を吐き身体を弛緩させる。
それを合図に母さんが声を掛け立ち上がり、ダイニングへと皆で移動する。
そこには呆れる程の数々の料理がテーブルにところ狭しと並べられていた。
キラくんは全部食べれるのか?と少し慄きゴクリと喉を鳴らしていたが、たぶんあたし達で充分食べきってしまうだろう。
そしてダイニングの向こう側で人が立ち去る気配がしてる。
おそらく母さんのスタッフの人達か何かなのだろう。
母さんに振り回される姿を想像しつつ、心の中で労っておく。
さっそく乾杯の後、料理に舌鼓を打つ事にする。
相変わらずあたしの舌に合わせた様に美味いし馴染む。
キラくんの料理には敵わないけどねっ!くっ………ぐぬぬぅ。
その日は楽しく和気あいあいと料理と父さん母さんとの団欒を堪能し過ごしたのだった。
翌日はお昼前までまったりと寝て過ごし、部屋着のままでリビングへ降りると(あたしとキラくんの部屋は2階)、父さんがテレビとホロウィンドウを表示して眺めていた。
「おはよ〜、父さん」
「ん、おはよう。疲れはとれたかい?」
父さんの細やかな気遣いに苦笑しつつ、何ともないってな感じで答える。
「まぁね」
あたしはソファーにドサリと座りテレビを見やる。母さんとキラくんは料理をしてるみたいだ。
テレビ画面には6分割されたニュース番組が流れている。
今年は大した事件もなく、概ね平和だったなどとのたまってる。
何言っとんじゃ、このキャスターは。あたしとキラくんが巻き込まれた事件があったろーよ!と声を出しそうになったけど、慌てていかんと口を噤む。
あれ、無かった事にされたんだっけ。
無かった事と言うよリは、報道しないとかそんな感じか。
まぁ、いただく物は貰ったから文句もないけどね。
「そう言えば船上パーティーの時は大変だったね」
あたしがそんな事を考えてると、父さんがいきなり核心に触れてきた。
「?」
あたしが少しばかりとぼけた様に首を傾げると、父さんは苦笑しつつ事件の顛末を話してくる。
「どうやら彼等は誰かを連れだそうと、あのような手段に出たらしいね。どちらかと言うと何者かに唆されたという感じだ」
あたしをちらりと言いながら、そう父さんが言ってくる。どゆ事?
「教義とやらも金の前には無力だということかな。しかも本人に全て潰えさせられた等と彼等も思っても見なかっただろう」
くくくっと面白そうに笑いながら父さんが話す。
ばれて〜ら。知ってるよ、父さん知ってるよ!?ってかなんか爆弾発言してるよ!本人に潰えって………もしかしてキラくんかっ!キラくんを狙ったのかっっ!!
あたしが怒りを覚え歯軋りをぎりぎりしたところで、あたしの勘違いに気づいた父さんが訂正してくる。
「やれやれ、キラじゃなくてサキちゃん、君の事だよ奴等が狙っていたのは。どういう理由かは………まぁ想像はつくけどね」
………って事は、あたしのトレーダーの腕をって事になるのか?確かに日々それなりに稼いではいるけど、名だたる人達に比べればスズメの涙……猫の額ぐらいのものだと思ってる。
商業組体のパーティーに乱入して相対するほどの価値があるとは思えない。
「………もしかして一石二鳥狙いかな………?」
父さんがご名答という風にニコリと笑う。
「何故かあちらさんも大打撃を受けたらしくてね、そうそう大きな騒動は出来ないみたいだけどね」
………たぶんララちゃんがやった事だな。キラくん関わると容赦なくなるもんなぁ、あの子。
「そ〜なんだぁ………」
白々しくも棒読み混じりでそんな風にあたしは答える。
父さんは少しばかり心配そうな眼差しをしつつ言ってくる。
「困った事があったら私達に話してくれていいんだからね。必ず力になるんだから。ま、犯罪に手を染めない限りはね」
冗談交じりにそんな事を言ってくる。も、もちろん犯罪に手なんか染めませんとも。グレーゾーンだけど………。ララちゃん、レリィ―逃げてぇ〜〜〜っ。父さんならAI相手でも容赦しないと思う。
背中にジト汗を感じつつ、あたしは誤魔化すように愛想笑いをする。
「ふふふぅ〜、わかったぁ〜」
てな会話をしつつ、ひなが1日まったりと過ごす。
合間に喫緊の仕事も入ったりもするけど、さくっと済ませてリビングでのんびりと家族団欒を満喫していた。
おせちから始まり、きなこ、あんこ、納豆、海苔と正月の定番の餅料理となんでか我が家定番の鍋焼きうどんと来て、さすがのあたしもお腹の膨らみを無視できない状態ではあったのだけど、美味しさが故に見過ごしてしまった。
そんな怠惰な日々を過ごして年末の歌合戦を肴にしつつ、ポン酒をいただき微睡んでいたあたしに母さんが声を掛けてくる。
せっかく微睡み揺蕩っているあたしをグラングラン揺らしながら、さらに声を掛けてくる。
半分寝ぼけつつ聞いてるとHMVRD………とか聞こえてきたので部屋〜といった所で母さんが消えて、すぐ戻ってきた。
意識がだいぶクリアになってきた所で、何のゲームをするのか要望を聞いてセッティングをして渡す。
ちと引き気味になるほどのはしゃぎようの母さんを横目に、あたしは部屋戻って寝直すことにする。(キラくんに肩を借りて〜、お姫様抱っこが良かったのに………くっ)
ベッドで布団にくるまり惰眠を貪ってると、また身体をゆさゆさ揺らされる。んん〜っ今度はなんですかぁ〜?
「サキぃ〜〜〜サぁ〜〜〜キぃ〜〜〜〜」
目を開けるとそこには母さんがいて、あたしの身体をグラングラン揺すっていた。
「なによ〜、いったい」
「お話があります」
あまりにも真面目ぶった顔で言ってきたので、あたしもムクリと身体を起こし母さんと向き合う。
「あれ、使えるわよね?2人でさっきのゲームやりましょう」
がくっ、何かと思えばと肩をガクリと落とすが、こういう時の母さんには何を言っても無駄なのは分かっているので言う通りにする。
酒も完全に抜けてるし、ライドシフトも問題ないだろう。
あれとはあたしの部屋にある据置型のPCに接続されているHMVRDのことだ。
旧いタイプのものだけど、ソフトをインストすれば充分に使えるものだ。
「そういや、どこまで進んだの?魔女っ娘ゲー」
「ストーリーモードは全クリしたわよ。面白かった〜」
キャッキャと笑顔でそんな事を言ってくる。年を考えて欲しい。
「Easy?」
「んにゃ、ハード。次はエクストリームね☆」
をいをい。あれ、けっこー本格STGだから他のと比べても難易度高いもんなんだけど………。まぁ、母さんだしなぁ。
母さんはあたしのベッドに。あたしはリクライニングシートに腰掛けHMVRDを付けてライドシフト。
互いにリンクしてゲームを起動。
キャラ選択で母さんが赤娘を選んだので、あたしは黄娘を選ぶ。
攻撃力は高くはないが連射速度が高いので、けっこー使えるキャラだ。
赤は一撃必殺。青は貫通力。緑は広範囲。黒はオールマイティ。まぁ、原作通りってやつだ。
すると空間が切り替わり、巨大な魔法陣の中に立っている制服姿の母さんが目の前に現れる。
『チャッピー行くよ!パンピィ・メタモ・ファム・マギカル!!へ〜ん〜し〜ん』
『ウェルディ来なさい。パンピィ・メタモ・フュール・マギカル。魔よ身に纏え!』
キララ〜〜ンとエフェクトをまき散らし光を纏い、魔法少女の姿へと変化していく。(ここはオートなのであたしは何にも出来ない)
アラサーにこの仕打ちはどうなんだろうと思いつつ、何故か楽しくなってきている自分がいるのも確かだ。
ガンズブルーマーに跨がり空へと飛び立つヴィネレッタとサーリー。
そして母さんからの爆弾発言。
「あんたキラくんとどこまで進んだの?」
「ぶほぉっ!!」
何言っとんだ!母さんはっ!!
(ー「ー)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます
ブクマありがとうございます!(T△T)ゞ




