107.アテスピ団(仮)といっしょ
東門を抜けると瞬く間に周囲が灰闇に包まれる。
ただヤマトの時と違い、石畳の街道は淡く白く光って先の方まで明るく照らしている。
「うおっ!くらっ!」
「アスカ。灯り玉よろ」
「おっけー。っっとはい!」
ハヤトくんが右手を額にかざし周囲をキョロキョロ見回して、ペイくんが灯り玉を出すようアスカちゃんに頼むと、アスカちゃんが直ぐ様メニューを操作して灯り玉を使用する。
白い火の玉がフワリ途中に浮かび、アスカちゃんを中心に灰闇を切り取る様に周囲が明るくなる。
さて、これからどっちに向かうかなんだけど………。ハヤトくんに聞いとこうかな。
「ハヤトくん、どう行こうか?しばらく東に進んで北に向かうか、もしくはここから北に向かうか」
街道を歩いてきたので、東門の灯りは向こうに頼りなく見えるだけだ。
「んー、俺はこっから北に向かって東、南って行こうかなって思うが、皆どう思う?」
ハヤトくんが北をビシッと指差しそのまま東へ移し、そして街道へと差し示す。
「おっけ、それでいこっ
おっけ、わかったっ 」
アスカちゃんとペイくんが同時に返事をする。
もちろん僕はある意味お客さんというか外様なので、彼等の指示に従う事に否やはないので首を縦に頷き返事に代える。
「よっし!行くぜっ!!」
「「お――――っ!!」」「ゴッ」「おー」「行くっス」「のです」「グッ」「お」
ハヤトくんが声を上げると、2人が応えアテンダントスピリットの皆とララとウリスケとアトリも応じる。
やっぱり僕もやった方がいいのだろうかと思い、小さく呟く様に告げる。
「おー」
さすがにフィールドの上では決めポーズはやらなかった。(ほっ)
こうして街道を外れ北へとゆっくり歩き始める。
灯り玉で明るくなったはと言え、やはり先々には灰闇の世界が広がっているからだ。
「マスタ。まえ、いぬ5」
そしてアトリがモンスターの接近を知らせてくる。姿は見えないけど紅く灯る5対の光がこちらに向かってやってくるのが確認できた。
アトリの言葉を受けて僕とアスカちゃんが弓を構え矢を番える。ペイくんが真ん中で盾を構え、ハヤトくんが小盾を前に出してハンマーを手に戦闘準備をする。え、ハンマーぁ?剣じゃなくて?
そんな僕の突っ込みを横にモンスターの姿が灯り玉に照らされ何であるか分かる。
前に2体後ろに3体が並んで走るワイルドッグ5体が目をギラギラ光らせその勢いのまま迫ってくる。
弓の攻撃範囲に接近してきたところを射ようとした寸前、ウリスケがストトトと突進しワイルドッグ達へと迫る。
そのままクルリと左横へと回り込み、前にいるワイルドッグの脇腹へとダイブ。
「グギャン!」「ギャン!」
ドガガと音を立てもう1体を巻き込んで横へと吹き飛ばす。
「グッ!」
吹き飛ばされた前衛を見て驚き立ち止まった後衛の1体へストトトとウリスケが取り付くと、そのまま両後ろ足でワイルドッグの下腹をダカンと蹴り上げる。
「ギャブッ!」
上方へと叩き上げられたワイルドッグの身体を、ウリスケが垂直ジャンプしてワイルドッグの上へ跳びクルリと回転して後ろ足で背中を追撃する。
「ギャブゥッ!」
ドブンと蹴られたワイルドッグは地面に叩きつけられ光の粒となって消える。
「ストンヴォルテ!ストンヴォルテ!」
ララが土魔法を唱えると、石の霰がドダダダとウリスケが攻撃した前衛2体に命中しあっさりと倒してしまう。
「…………………」
「「「かっけ―――――――――っっ!!」」」
おー、3人の声がハモってる。
そしてほどなく残りの2体もララとウリスケで仕留めてしまった。
あきらかなオーバーキルである。ワイルドッグ如きでは2人の歯牙にもかけないことは明白だ。
とは言え僕等はアテスピ団(仮)のパーティーに入れて貰ってる立場上、彼等の戦闘の邪魔をする訳にはいかない。
「ララさんとウリスケさんにお話があります」
戻って来たララとウリスケにお話をする。
「はいなのです」
「グゥ?」
ララはビシッと右手を掲げ、ウリスケは直立して首を傾げる。
「アテスピ団(仮)の皆と狩っているので、2人には援護と撹乱をお願いします」
「分かったのです」
「グッ」
ララがビシリと敬礼をして、てへっと舌を出す。確信犯でした。
ウリスケも了解したというように右前足をしゅびっと上げる。
うん、ウリスケは分かってないみたいだ。ある意味天然さんだからな。
「ララさん、ウリスケさんかっきーぜっ!
ウリスケさん!ぐっしょぶですっ!
ララさん!ウリスケさん!うおおっ! 」
「ゴッ」「おー」「やるっス」
アテスピ団(仮)の3人がそう同時に声を上げ、ララとウリスケを讃える。………掛け声でも合わせてるんだろうか。シンクロ率が半端ない。
「勝手に倒してしまってごめんなさいなのです。ララとウリスケさんは援護にまわるので頑張ってなのです」
「グッ!」
ララがキラッ!ウリスケがターンしてバシッとポーズを決めて3人にそう話す。
「「「了―――解っ!」」」「ゴッ!」「おー」「っス!」
あ、またハモった。
こうして仕切り直しではないが、再び探索の為北へと進み始める。
「マスタ。まえ、つのいぬ2。みぎ、いぬ1」
アトリの言葉をハヤトくんに伝える。
「前からホーンドッグが2体。右からワイルドッグ1体が来るよ」
「りょーかい!ペイっ、アスカ!」
「おうっ!
おっけ 」
僕の声にハヤトくんが頷きペイくんとアスカちゃんに声を掛けると、ペイくんはワンダーと並んで盾を前にかざして待ち構える。アスカちゃんは弓に矢を番える。
そして右からワイルドッグがやってくると、アスカちゃんが待ってましたとばかりに矢を放つ。
「ギャンっ!」
狙い過たず矢がワイルドッグの目に命中。けっこーえぐい。
アスカちゃんが矢継ぎ早に2射3射と矢を放ち、ワイルドッグへ攻撃を繰り返す。
一方ペイくんは現れたホーンドッグ2体と対峙している。
「“おらっ、こっち来いやっ!!”」
「“こっち来るッス!”」
何やらアーツを使ったらしく、ホーンドッグの意識がペイくんとワンダーへと注がれる。
そして1体がペイくんへ飛び上がり牙を剥いて襲いかかる。
「今っス!」
「どりゃああっっ!」
飛び掛ってきたホーンドッグに盾を上に少し傾けてそのまま叩きつける。
「ギャバッ!」
ラージシールドを擦りながらホーンドッグがバヒンと跳ね飛ばされる。
「ゴッ!」
「おうっ!でっさああっっ!」
アスラーダの合図と共にペイくんの方へ注意を払っていた1体へハンマーを叩きつける。
「ギャンッ、ガッ!」
頭を叩かれたホーンドッグはその衝撃にふらつく、そこへ振り下ろしたハンマーをそのまま反対側へ横へ薙いで行く。
「ギャヴァンッ!」
ってか何でハンマーなんだろう。会った時は剣だったと思ったんだけど………。
だけどその動きはスムーズで、まるで普段慣れたものを扱うようで不自然さはなく、手に馴染んだ感じが垣間見える。
そんなことを不可思議に思いつつ、もう1つアテンダントスピリットの戦い方も不思議に感じた。
ヤマトの時と違い何故か直接攻撃の回数があまりにも少ないのだ。
ララと一緒に戦った時は、その都度一緒に戦闘をしていたという感覚があったに、今見てるとあまりにもというか1回の戦闘に1度くらいしか無い。
後はフォローというかサポートという形で戦闘に参加してる風に見えてしまうのだ。それに姉達と組んでた時はよく覚えてないので比較しようがない。
「どうしたのです?マスター」
僕のそんな様子に気付いたララが首を傾げ聞いてくる。
「いや、なんか前のララと戦い方が違うな―と思ってさ。見てるとサポートに専念してるって感じがするからさ」
僕の話を聞いてララが納得した様に手をポンと叩き教えてくれる。
「それは今回のアップデートの時に修正された部分なのです」
「はへ?」
ちょっとばかり理解が及ばなかった僕は変な声を上げてしまう。
「この手のオンラインゲームというのは、概ねその都度修正とバランス調整が為されるのです」
ふむ、スタンドアローンというか僕がいつもやってるレトロゲームなんかは、それ自体が完成形というかある意味閉ざされた作品だ。突き詰めれば先がない(言い過ぎか)。
極めれば頂点というものが、必ず存在している。
限界と言ってもいい。それはそれでその世界を楽しむ意味で申し分ないし、制覇するという意味でもありだろう。
それで満足できない人間にとって未知のものを求めるということで、日々更新されるシステムは人間が求める欲求の1つなんだろうか。1番なのは飽きちゃうから、そうさせない為の工夫なのかな。
人の興味というものに際限がないという証左なのだろう。ララが語る話を聞き、ふとそんな思いが胸の中を支配する。
まぁ、所詮ゲームの中のことだし、深く考えるものでもないのかもしれない。
そんな益体もないことを考えつつ、何度か戦闘をしながら東から南へと移動して東街道をまたぎワイルボーアのいる東南のエリアへと移動する。
モンスターの強さ的にはワイルラビット<ワイルドッグ<ワイルボーア<ワイルピジョンとなるので、2番めのランクのエリアになる。
ただ生産ばかりしていた訳でないらしいアテスピ団(仮)の3人も、それなりに戦えてるので特にピンチになることも無くマップの踏破率を上げつつ戦闘を繰り返す。
その道すがら僕が疑問に思ったことをハヤトくんに聞いてみる。
「え?俺がハンマー使ってる理由?ほら俺って鍛冶見習いじゃん、んでハンマーってよく使うんだ。でもって生産系で使ってる道具って利用出来るのが分かって、俺もこっちのほうが性に合ってるんで使うことにしたんだ。」
ほー、てことは生産で使ってる道具は戦闘でも使えるってことなのか。
鍛冶でハンマーっってことは、調理だと包丁になって………。
いやそれって無理だな。ヴィジュアルでもなんか危ない人になってしまう。
首を振りつつワイルボーア相手に戦闘をこなしつつ南へとゆっくり進む。
合間に弓と風魔法のLvが2つ程上がりアーツと呪文が増える。
僕達の他にも狩りをしているPCがいるらしく、所々で灯り玉が浮かんでいるのが見えている。
そこに西の方からドドドという振動音が響いてくる。
その音に皆で振り向き眺めていると、アトリが声を掛けてくる。
「モンスタ。いっぱ、にげ」
アトリがそう言ってくるけど、灰闇の中でも分かるような土煙を見て、どう考えても間に合わ無さそうな雰囲気をひしひしと感じることが出来た。
「なんだあれっ!うおっ!やっばくねっ!?」
「ふほぉっ!逃げますっ?ってかどっちにぃ!?はにゃ〜っ??」
「ラ、ラギさんっ!これって拙いですよね………うわわわ〜」
灰闇の中なので詳しいことは分からないにしても、どう見ても不測の事態であるのは確かだ。
「ララ、アトリ。なんか分かる?」
ララは手をかざし土煙の方をじっと眺めながら何やら視ていて、アトリは頭の上でパタパタ翼をはためかせる。
「ちぇ〜んりんく。ぐうぜん、いっぱ」
アトリの要領を得ない言葉を訳してララが説明を始める。
「マスター、これは偶然と偶然が生み出したモンスタートレインなのです」
ん?モンスタートレインてーと、この前ゆっきーがやって来た時ウリスケがやったヤツじゃなかろうか。
どうやら南西エリアでモンスターと対峙したPCが逃げているうちに次々と会敵したモンスターを引き連れてこっちまで来てしまったようだ。
そのPCは死に戻ったようで、普通ならモンスターはバラけるはずなのに、何故かそのままこっちに向かっているらしい。
何やらMMOあるあるらしいのだけど、巻き込まれるこっちはたまったもんじゃない。
「ララ」
僕は静かに声を抑えララに声を掛け、その思いを言葉にする。
ララはわかってますという様にニパリと笑顔を見せてこちらに応える。
「まかせてなのです」
「グッ!」
ララの言葉を受けてウリスケもそれに応える。
軽く口元を緩めつつ、僕はアテスピ団(仮)の皆に話を始める。
「どこまで出来るか分からないけど、やれるだけやってみようと思う。皆は自分達が出来る事をやって欲しい」
ある意味逃げてもいいよと言外に言ったつもりだったんだけど、3人の言葉はそれと違っていた。
「任せてくれっ!
もうっ、やってやりますよっ!
おうっ、どっちにしてもいー経験ですっ!」
そう声を合わせて行ってきた。うわー、何てポジティブ。僕に1/10でもこんな気持ちがあったら色々違ってたかも………。いや、それはどーでもいー事だ。
「ララ、アトリ、ウリスケ行くよ」
「はいなのです」
「グッ!」
「ごー」
僕は灯り玉を使い周囲を明るくして、土煙へと向かって走りだす。
なーに、どっちにしても死に戻るだけなのだ。やれることは何にしてもやりたいと思ってる。
走りだしてすぐに目の前にモンスターの大群が目に入ってくる。
数は20を超えて、30に足らずと言ったところか。
僕は立ち止まり、すぐさま矢を番える。
「ララっ!」
「はいなのですっ!グランディグッ!!」
ララの土魔法がモンスターの前にぽっかり穴を開けその顎門を晒す。穴の大きさは30cm程でもその数は数えきれないほどである。
突然の地形の変化に対応できなかったモンスター達は次々と転び倒れまろびる。
そこへすかさず魔力矢を番え、次々と僕は矢を放つ。
ウリスケは転ぶのを免れたモンスターへ緋を纏い突進していく。
MPが無くなった後は、僕もウリスケに続けとばかりに突っ込んで行く。
出て来るモンスターはワイルラビット、ホーンラビット、ワイルボーア、スピアボーアの混合部隊だった。
突進してくるモンスターの間をかき分け躱し、殴り蹴りつけ避け躱し屠っていった。
ああ、こんな風に感じるのはいつ以来だろうか。
飛び掛って来るワイルボーアをいなし、ワイルラビットを叩き落とし、ホーンラビットを蹴り飛ばしてるとそんな事が思い浮かんでくる。
じーちゃんにしこたま扱かれ鍛えられた事が懐かしく思い出される。
うん、この力も想いなんてのも、現実でもVRでも変わらないものなのだと実感を得ることができる。
いやー、やっぱVRは面白いわ。
この時の事が何故か広まって灰色の殲滅者なんて名前が付けられることになろうとは思いもよらなかった。
(-「-)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます
ブクマありがとうございます(T△T)ゞ
Ptありがとうございます 嬉しいですっ(((T人T)))




