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104.工房拝見とロボ吉の業

 

 

 まぁ、ただ突っ立っていてもなんので、確認する意味でも工房の中を見てみることにする。ちょっとだけわくわく。

 駐車場の中をてこてこ歩き工房の前まで来る。

 いわゆるスモールハウス、もしくはコンポジットハウスと言われる建物もので、基礎部分―――いわゆるコンクリートや鉄筋で作られた土台部分を省き、非常時の移動に応える事が出来る建造物のようだ。(タイヤついてるし、一種の牽引車両ってことかな)

  かと言ってプレハブのような簡素的なものでないのは、外見からでも容易く見受けられるものだ。


 入口――玄関はちょうど建物の中央部にあり、立派なドアノブの着いた丈夫そうな木製のドアだ。

 そう言えば業者の人は鍵を渡してこなかったけど、どうすればいいんだろう。ってか連絡先聞いてないし………。


『マスター、ドアの中央にあるプレートに触れてなのです』


 僕がどうすればいいのか困惑してドアの前に立っていると、ララがそう声を掛けてくる。プレート?

 僕の目の高さに位置に象牙色の横長のプレートが貼られている。

 僕がそれに触れると、びっという音がして女性の電子音サンプリングボイスが数字を言ってくる。


『“453”』

「?」


 僕が首を傾げ不思議に思っていると端末のホロウィンドウが立ち上がり何かの入力画面が現れてくる。何じゃこりゃ。


『マスター、今の数字を入力してなのです』


 なる。これが鍵代わりってことか。納得しつつ数字を入力する。

 『いらっしゃ〜い』と端末から声が上がりピピッと音の後ガチャリとロックが外れる。………いいのか?これ。

 でも、いちいち入るのにこれやるのは面倒だなぁ、などと考えているとララが先回りして答えてくる。

 

『建物のセキュリティーシステムを把握したのです。マスターが入る時はララにおまかせなのです』


 うん、エスパーララは健在だ。

 ふるふる首を振りつつドアノブに手を掛けてドアを手前に引き開ける。

 入室を感知してライトばパッと灯り部屋の中が明るくなる。


「おー」

『立派なのです』


 床は板張りのフローリングになっていて、靴を脱ぐこともなくそのまま中へ入れるみたいだ。

 僕から見て左側には作業用のデスク2つと3Dプリンターが2台でんと置かれている。仕事はっや―


「EDOGAのX−2かぁ。ふぉ〜すご〜〜〜っ」


 3Dプリンターの前に立ってサワサワコンコンしてみる。

 ガッコーで使ってる奴の2つ程上の機種のものだ。これだと色々やれることが増える。

 大きさ的には1台分が業務用のレーザープリンターを2台並べた程のもので、上部にクリアパーツのフタがついていて中の様子が確認出来るようになっている。


 それが玄関の対面の壁に2台並んで据え付けられている。

 そして左の壁に置かれた、2つある作業デスクの1つにはタワータイプのPCが置かれており、もう1つには固定式の工作機械が設置されていた。(穴開けや切削するためのもの)

 

 椅子はフローティングチェアと言われる机に据え付けられたL字の器具が下に付けられたもので、前後左右に滑らかに動くようになっている。

 これで椅子に座ったままでどちらのデスクにも移動できるものが1脚。

 試しに動かしてみると、まさに宙に浮かんで(フローティングして)るような感じだ。

 

 そして3Dプリンターの右脇に、4人掛けのソファーと小振りなテーブル。何かを収納するスペースなどはないみたいだ。

 くるりと室内を見回して、少しばかり汗ジトとなる。

 これ一体幾らしたんだろう………。分割払いでも何年掛かるのやら想像もつかない。

 そんな事を考えながら室内を見てると、何となく違和感を感じた。

 

 玄関が中央にあるにも関わらず、部屋の間隔が右と左で違っているのだ。

 少しだけ気になったので、右手の壁に対面してよく見てみると、壁というより1枚板―――もしくはパーテイションっぽいことに気づく。


 4枚の板で作られている様に縦に3本の継ぎ目が見える。

 試しに右手で軽く動かしてみると、微かに奥へと動く事が分かる。

 なのでそのまま押してみると4cmほど奥に進んで、そのまま流れる様に右へスライドして行った。


「おおう?」

『隠し部屋なのです』


 いや、ララはセキュリティー掌握したんだから知ってるだろうに、と言う突っ込みはせずに中を覗いて見る。

 こちら側のライトは別系統のようで、薄暗いが中の様子は良く分かる。


「………………」


 なるほど〜、あたしの為とはこういう事か〜。

 縦長の5畳ほどの室内には、僕から見て左側に大振りのデスク1つとワークステーションっぽいPCと幾つかのディスプレイ。やたらとゴツイ社長椅子。

 右側には、2段仕立てのファイル収納棚が置いてある。

 姉はここで仕事する気満々みたいだ。


 いたを戻してちょっと溜め息を吐いて再度室内を見回す。

 ここを姉も使うのであれば、代金を払う為の時間をくれることだろう。或いは僕が家賃を払ってもいいかも知れない。

 ………そういや僕名義で工房登録したって話だったか。………はぁ。


 一旦室内を見るのはやめにして、これからどうしようかと考える。

 今わ9時過ぎだし、それ程音は出さないものの御近所迷惑は避けたい。

 それにおやっさんに大鍋を返しに行かないといけないしなぁ。

 

 でもでも、こんな物見せられてしまったらどうしようも無いよね。

 うん、ちょっとだけ、ちょっとだけやったら止めればいいもんね。

 似非技術者ではあるが、目の前の設備(ゆうわく)に負けて、僕は手元のPCの電源を入れる。

 

 

『マスターっ、もう夜が明けてしまうのですっ!お休みになってなのですっ!!』

「え?」


 ララの声ではっと我に返る。

 時刻は朝の4時過ぎ。………やっちまったぜ。へへっ。

 

 あれからPCを起動させララにデータ転送を頼み、アパートへ行き機材一式を持ち込み軽い気持ちで作業を始めたのだけど、止まらなくなってこの時間まで作業を続けてしまった訳だ。

 

 だって滑らかに表示される3Dデータを、連動している3Dプリンターに送っていけば、その精工さに思わず興奮してしまい、ならあれもこれもとやり続けてしまっていた。

 室内には窓がなく、外の様子も分からず時間が過ぎているのにも気付かなかったのだ。(無理な言い訳)

 

 その甲斐もあってか、1体分のボディと内部機構の幾つかが出来上がっていた。正直自分でもやり過ぎだと思った。

 軽く伸びをして立ち上がり、アパートに戻り寝ようかと振り向くとソファーが目に入ってくる。

 後は組み立てるだけだし、小1時間寝る位ならここでもいいかと思い、ソファーに靴を脱いで横になる。


「ララ、1時間したら起こしてくれる?」

『も〜、………分かったのですマスター』


 少しばかり呆れた様な声をしながらララがそう言ってくる。

 僕は目を閉じて意識を手放す。くかー。

 

 

 

 パチリと目を開けると側頭部に何やらいつもと違う柔らか感触を感じたので、そのままゴロリと体を動かし上を見ると、パチリと姉と目が合う。

 姉はニコリと笑顔をを見せて朝の挨拶をして来た。


「はよ~、キラくんっ!」

「なにゆえっ⁉」


 いきなりの状況シチュに思わず言葉が漏れ出る。

 まだちょっと寝惚けてるみたいだ。


「えーと、キラくんがアパート(へや)にいないんで、もしかしたらと思ってこっちに来たらキラくんが寝てたんで、膝枕してみました♪」


 嬉しそうにリズムを取りながら、姉がそんな事を言ってきた。

 やれやれそういう言う事でしたか、びっくりするのであまりやらんで欲しいんだが、………こんなとこで寝てしまった僕も悪いので文句も言い難い。


「そっか、ありがと」


 僕はそう言って頭がぶつからないように手前に回転してソファーから抜け出る。

 あ~………、という姉の声はスルーして靴を履き軽く伸びをしてから姉に聞く。


「朝ゴハン食べる?」

「んー、まだいいかな。ちょっとひと仕事するから後ででいーよ」


 姉は僕の日課を知っているので、そんな事を言ってくれてるのだろう。ありがたやありがたや。

 そもそもまだ時間も時間だし、朝ゴハンを食べるには早過ぎる。………んー、まだ寝惚けてるみたいだ。


「もうここまで出来たんだ。へぇ~」


 僕が伸びをしてるといつの間にか立ち上がった姉が、作業デスクの前で組み立て前のロボを眺めている。


「んー、ちょっとマシンの試運転も兼ねて軽く作ってみたんだ。材料もあったし………」

「ふ~~ん、軽く(・・)ねぇ」


 少しばかりジト目でこちらを見てきたので、僕は横へと目を逸らす。


『マスターもロボ吉なのです!センセーやゼミの方々と同類なのです!』


 ララがクリティカルな一撃ひとことを放ってくる。ぐふっ、否定したいが全く否定出来ないところが辛い。いや、まぁ自覚はしてるよ、うん。


AI(なかみ)はどうするの?手伝う?」

「そっちはララに頼もうと思ってるから、それに個人々々で仕様変更すると思うんでいいかな。ある程度学習機能も組み込みたいしね」

「そっか、何か手伝うことあったら言ってね」


 姉がロボを矯めつ眇めつしながらそう言ってくる。


「うん、ありがと。AI(そっち)もそうだけど先に動き(モーション)の方を何とかしたいんだよねぇ」


 軽く柔軟体操をしながら姉に返事する。ん、意識が大分クリアになって来た。


「え?既存のモーションプログラムじゃダメなの?」


 不思議そうに姉が首を傾げながら聞いてくる。しかも小指を顎にちょんとと当てて。様になってるのが小憎らしい。

 そう、確かにデモ機に使ったモーションプログラムでも問題は無いのだけど、アレを見ちゃうとどうしてもこだわりたくなってしまうのだ。


「ほら、ラビタンズ達を見ちゃうとどうしてもって感じなんだよねぇ」

「あ、な〜る」


 納得したように姉もポンと手の平を拳で叩く。


「じゃあ、1からモーション組やるの?」


 ロボのパーツを並べつつ聞いてくる。あ〜とか言ってる。


「ウリスケの時みたいにラビタンズの誰かに協力してもらえると助かるんだけどね〜」

「ウリスちゃん?」

「ほらもち搗きやった時に走り回ってたロボいたでしょ?あれ中身ウリスケだったんだよ」

「え?そうだったの!?へぇ〜………」


 何故か目を逸らす姉。もしかして気付いてなかったのか。うん、まぁ餅しか見てなかったかも………。

 動き(モーション)を組み上げる方法は幾つかあるけど、これはゲームや映像などと似た様なものだ。

 

 ひとつはいちいち部品パーツを動かして、動きを設定していくもの。

 凝ったアニメ動画なんかではよく使われるヤツだ。パペットスタイルなんて言われてたりしてる。

 次に室内にカメラと感知機器を設置して演者に発信端子を身体のあちこちに付けて動きを捉える(モーションキャプチャ)システムもある。

 これはゲームや映画なんかによく利用される現在でもポピュラーな方法だろう。

 

 そんで後ひとつがモーションを記録して、その動きを再現させるものだ。

 これはモーションスーツというウェットスーツっぽい薄手のボディスーツを着て普通に行動するというものだ。

 このモーションスーツに行動位置を感知する端子が幾つも付けられていて、それ等を無線、或いは記録端末に集積して後に展開再現させるもの。

  こちらは日常の動きや、個人特有のアクションなんかも記録できるのでスポーツ関係や伝統芸能なんかで利用され始めている。


 このシステムを応用してウリスケにこっちで作ったウリロボを動かして貰いモーションデータを記録し集積した後最適化を行っている。

 これはあまりにもデータ量が膨大なので、ララがいなかったら全くのお手上げ状態だったろう。逆にララがいたからこその成果である。ありがたやありがたや。


 ただそのロボ自体の機構にも、多々問題は山積している。

 ゲーム内の身体と違い可動範囲が狭いので、動きに不具合が出ることもある。(ってかウリスケがフリーダム過ぎるのもある)

 

 後はロボットと3Dグラフィックの基本的な違いもある。

 3Dグラフィックはボーンモデルという骨組みに、ポリゴンを組み付けてテクスチャを貼り肉体を成している。

 そしてロボットに関しては、可動部分にコイルレスサーボを取り付けて動きを担保している訳だ。

 構造的には昆虫やカニなんかの甲殻類に近いと思う。(まれに骨組を組んで作り上げるものもある。センセーが作ってるヤツなんかがそうだ)

 

 そこら辺の齟齬を何とか誤魔化す必要もあると最初は思ってたんだけど、ウリスケを組み込むと何でだか出来てしまった。わんだらー。

 元々、モーション用のプログラムが入っていたからだなと思考停止状態だけど、人に聞くもの憚れる内容だしなぁ。実際。(ララに確認しても何もやって無いのですと言ってたし)

 

「じゃあ、ラビタンズの誰かにこれに入ってもらって動いてもらうって事になるの?」


 ロボの頭を持って姉が聞いてきたので(動きが妖しい)、頷きながら答える。


「うん、許可がおりたら出来ればそうしたいってとこかな、ダメなら僕がモーション作りするし」


 許可がおりなかった時は別の方法を取るだけだし、こういう試行錯誤もまた倒しいのだ。


「ま、大丈夫だと思うけど、ミラには言っとくね。ラビタンズにはキラくんから言った方がいいよね」

「そだね、後で聞いてみるよ」


 ここで話を打ち切って僕は日課のトレーニングをする為アパートに戻ってジャージに着替えて出かけることにする。

 そのあと姉と朝ゴハンを食べ(エッグトーストとポタージュスープ)、まだ少し眠かったので布団へと潜り込む。すやー。


 

 目を覚ますと1時半ちょい過ぎ。………ありゃちょい寝過ぎた。

 

 


(-「-)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます

 

システム周りはニワカシッタカアサヂエなのでツッコミはご容赦願います( T人T) (ハハーッ)

ブクマありがとうございます(T△T)ゞ

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