101.中◯病って見てるこっちがいたたまれない
ペイさんが中央で両手を掲げ右足を上げてYの字ボーズ。
アスカさんとハヤトさんが左右に並び片膝をついてしゃがみ斜め上へ前習えするように両手を掲げている。
アテンタンドスピリットの3人もそれに倣うように前に出てマスターと同じ位置で同じポーズをとっている。何気にワンダーさんが辛そうだ。(犬?だけに)
「かっこいいのです!」
「グッグッーッ!」
「おー」
ララ達が何故か感嘆するように声を上げている。いや、僕らはやらないよ?そんなこと。
「えーと………。アテスピ団(仮)ってパーティー名なの?それ」
このゲームでは固定パーティーをつくった時なんかは、パーティーに名前を付ける事が出来るらしい。
臨時ぱーてぃーの時なんかも仮に名前を付けられるけど、すぐに分かれるのでそっちはあまり意味はないみたいだ。
なので僕がその意味で聞いてみると、意外な答えが返ってきた。
「いえ、パーティー名じゃなく、いずれ作ろうと思ってるクラウンの名前です!」
先程の決めポーズから立ち上がり、クルリと1回転して目元にピースサインを右手で作りビシッと再度ポーズを決める。………うん、はい。
クラウン―――――他のゲームじゃギルドだったかな。を作り上げるには、たしかギルドランクBかCで5人以上のメンバーで準備金がかなりかかるって聞いた覚えがある。
まぁ、何にでも目的とか目標があるのはいーことだしモチベーションも上がるもんな。
しかし、すでに名前を決めてるあたり、本気?なのだろう。たぶん。
でも――――
「何でアテスピ団(仮)なの?」
僕はちょっと疑問に思った事を口にする。
「はいっ!アテンダントスピリットのアテンダントスピリットのためのアテンダントスピリット大好きPCの優し楽しいクラウンを作りたいと思ってこの名前を付けましたっ!!」
マッシュルームへアーを掻き上げババンと左手を掲げて先制するかの様にペイさんが声を上げて叫ぶように言って来た。
思わずバイト先の大佐の仕種を思い出してしまった。くっ。
どうやらペイさんが言い出しっぺだなこりゃ。
3人はどうやら幼馴染らしく、以前からやってみたかった【アトラティース・ワンダラー】を運良くHMVRDを手に入れて始める事が出来たらしい。
らしいというのは、3人がそれぞれ矢継ぎ早に次々と話し掛けて来て理解が追っつかないからだ。
どこでスイッチが入ったか分からないけど、まるで憧れのアイドルにあった熱狂的なファンと相対している気分になってくる。(なんのこっちゃ)
「スト―――――ップなのですっ!みなさんっ!!」
ララが声を荒らげて叫ぶと、3人はピタッと話をやめる。
うむぅ、どっからあんな大きな声が出るのやら。
ララは腰に手を当てほっぺを膨らませて、3人を注意し始める。
「マスターは1人なので、3人一遍にお話は聞けないのです。お一人づつ判りやすくお話ししてなのです」
右手を上へ下へと振り振り3人に説教をするララ。対して3人はちょっと俯きつつ顔をニヤけさせていた。
「俺、妖精さんに怒られてるよ。すっげ」
「これじゃ、スクショ撮れない〜」
「………のほ〜」
小声でそんな事を言っていた。何ともめげてない。ララ、小っちゃいし、迫力ないしな………。
ちなみにウリスケは僕の側で大の字で、アトリは頭の上で「zzz」と寝ている。
ララがムフーって顔で満足そうに下がったので、僕は仕切り直しとして再度アテンダントスピリットの為のクラウンなのか聞くことにする。
「どういう訳でアテンダントスピリットの為のクラウンを作ろうと思ったの?」
「「「俺達
あたし達
僕達 」」」
「「「…………」」」
3人が同時に話し出したので、ララがキッと眦を上げたのを見て黙りこむ。はぁ……、仕方ないので僕が発言者を指定することにする。
「じゃ、ハヤトさんから」
「あ、ハヤトでいいです。俺は2巡目の時間帯にログインしたんだけど、西の門から入ってゴールに向かって走ってたんだけど、途中路地の方でなんかチカチカしてるのが見えたんだ。俺ナビって苦手だから断ったんだけど、替わりのヤツくれる可能性があるって言われてたから、もしかしてって思ってそっちに行ったんだ。結局そっちのイベはダメだったんだけど」
えー、そこから話すんかい。んー長くなりそうだなぁ。
「あたしはペイとおんなし時間だったんですけど。バラバラでここに来て、そしたら皆が一斉に同じ方向に走りだしたんで、慌ててあたしもそっちに向かって行ったら、大っきな壁と門があって、あたしは東門の方から入ったんですけど、そしたら右の方からチカチカしてるんで気になって行ってみたら、しーちゃんがいたんです」
ハヤトが一旦言葉を止めた間隙を縫うようにアスカさん、ちゃんでいーか。が矢継ぎ早に言葉を繰り出してくる。
「僕も東門から入って途中の路地に進んでいくと木の上にいたワンダーを見つけたんです。僕、初めて木に登りました」
ペイくんは簡潔にまとめて話してくれた。何となく性格が垣間見えるなー。
「ゴッ!」「アーちゃんのおかげ」「サンクっス、ペイさん」
そんな3人にアテンダントスピリットの3人が礼を言っている。それに3人は親指をグッと出して応えている。
アスラーダさんはよく分からんけど、意思疎通は出来てるみたいだ。
まぁ、要するに。
「アスラーダがかっこ良くて
しーちゃんが可愛くて メロメロになった!
ワンダーがモフモフで 」
というよく分からん理由でアテンダントスピリットのいるPCのクラウンを作ろうと思ったということだった。
彼等が同時に喋り出すのも、仲が良いという事なのだろう。
またララに説教食らってるけど。
大体の話を聞き終えたところで、アスカちゃんが別の話を振ってきた。
「あの良かったら従「ラギね」……ラギさんもあたし達のクラウンに入って貰えませんか?アトリちゃんいるからバッチリですし」
手を胸の前に組んでこちらをうるうるした瞳で見てくるが(他の2人も……男はやめて、それ)、僕は姉やラミィさん達とつるんでいるので、こういったグループには入らない様にしようと思ってる。
それに話を聞いてると、ジェネレーションギャップがあり過ぎてついていけそうに無い感じだ。
「んー、ごめんね。僕、他にに一緒にプレイしてるPC達がいるから無理だと思う」
「ごめんなさいなのです」
「グッ!?」
「ごめ」
ララがペコリとお辞儀をし、ウリスケは今起きたらしく「何なに?」って顔をして辺りを見回し、アトリは頭の上なので声だけが聞こえる。
「「「ですよねぇ~~」」」
ダメ元で言ってみてやっぱりねぇ~って表情をして少しだけ残念そうにしている。
「じゅ………ラギさんが入ってくれれば、いい宣伝になると思ったのになぁ~」
「だよね~」
「100人くらい余裕で集まったよね~」
3人でそんな事をひそひそ話している。何気に怖いよ、どんだけ広まってるのか………。ってかそういう話は本人のいないところでやって欲しいと思う。
「ところで皆さんは薬草採取に来てるのです。ほっぽいといて良いのです?」
ララが向こう側を指差したので見てみると、ちょっと先の方に草の山が3つ出来ていた。
「あっ!いっけね。クラウン作る為にゃ、ギルドランク上げなきゃだからな」
「うん、小さなことからコツコツとっ!」
「目指せ僕等のアテスピ団(仮)!」
「ゴッ」「おー」「オーっス」
PC3人とアテンダントスピリットの3人は掛け声をかけると、それぞれ自分の決めポーズらしきものを取る。
「かっこいーのです」
「グッ!」」
「おー」
………いや、だからやんないよ?ほんと。
3人が作業を始めたので、僕等もそれに倣う様に採取を始める。
とは言っても、僕は【鑑定】スキルを持ってないので、ララとアトリにどれを採ればいいのかを聞きながら採取していく。
どの道【調薬】スキルはないので、冒険者ギルドへ常時依頼扱いで買い取って貰うしかないだろう。
ある程度採取を終えて立ち上がると、いつの間にか3人が側に立っていた。びっくりした。
「な、何かな?」
彼等に相対して何か用があるのかと問いかけると、3人がもじもじしながら互いに何かと牽制し合ってる。
「トイレなのです?」
ララが首を傾げてそんな事を言ってる。いや、トイレはないですし。
3人がなかなか言い出さそうにないのに堪らず焦れたしーちゃんが、ついと目の前にやってきて話し始めた。
「あの!従「ラギね」ラギ様とフレンド登録をお願いしたいんですっ!!」
しーちゃんがペコペコ頭を下げながらお願いしてきた。
黒髪のショートヘアーに左側面にドクロのチャームを付けている。どことなくフーちゃん3号を彷彿させる。
さて、どうしようかと思案してると、ララがフォローするように囁いてくる。
「マスター、この方達なら大丈夫だと思うのです。ちょっと中◯病っぽいですが、マスターを敬ってる感じなのです」
あー、ララってストレートに物を言い過ぎだろうと思いつつ、まぁこういうのお有りかなと思い直し、3人に向き直り返事をする。
「いいよ、フレンド登ろ……」
「「「じゃあ、送りますっっ!!」」」
僕の言葉に被り気味で、すぐにフレンド登録申請のホロウィンドウが3つ現れる。
僕はそれぞれに了承して登録を済ませる。
「連絡してくれてもいーけど、僕はあんまりいないかもしれないんでよろしくね」
「「「いえいえ、そんな滅相もない」」」
3人が揃って左右に手を振り否定してくる。え?じゃあ、何の為にフレンド登録したんだ?
「マスター多分なのですが、ファンがサインや握手を貰ったりする感覚なんじゃないのかと思うのです。だから連絡する様な事は恐れ多くて出来ないって事だと思うのです」
ララがどこでそんな知識を得たかも気になるが………。僕はただのPCであってアイドル的なものじゃないんだけど………どうしてこうなった!?
「マスタ。あいどる」
アトリがトドメの一撃を与えてくる。ぐふっ。
僕が精神的ダメージを受けて軽く俯いてると、今度はてててとアスラーダさんがやって来て、身振り手振りで何かを訴えて来てる。
「ゴッ!ゴゴゴッゴゴッッ!!」
何を言ってるのかさっぱり分からない。だけどウリスケの時のようにララがふむふむと側で話を聞いていて通訳をしてくれる。
「マスター。スクリーンショットを撮ってもいいですか?と言ってるのです」
この3人は今度はしーちゃんがやったことに味をしめてアスラーダさんをを使う作戦に出たようだ。ったく。
あー、そういやギルド職員さんがよくウリスケ相手にやってたよな。
僕はあんまり写真とか動画は苦手なので、断ることにする。
「僕は×で、ララやウリスケ、アトリは本人と話して了承したらって事で」
僕は指で×を作ってそう言った。最初はあぁーと愕然としていたが、その後はニヘーという笑顔を見せてララ達に了解をとってパシャパシャ撮り始めた。
ララ達とアテンダントスピリット同士で並んだり、絡まったりしてる姿を撮影している3人は口元をだらしなく弛め、にへら〜って感じで何とも酷いことになっている。なんて似た者達か。
ただウリスケはボディビルダーのポーズをいろいろとっていた。そんなのどこで覚えてくるんだか、謎だ。
3人がやりきった感まる出しの満足そうな表情を浮かべて撮影を終えた様なので、僕達はみんな一緒にプロロアの街に戻ることにする。
入った時と同じような感覚を受けながら、いやしの原を抜け出る。
さてと、東へ向けて歩き出そうとすると、意義の方からガサガサと何かが近付く音がしてくる。モンスターかと身構える。
「見つけだぞ!お前等っ!!」
現れたのはさっき僕達が撒いたPC3人組だった。確かユッキーだっけ?
「ゆっきーず」
「ゆっきーと愉快な仲間達なのです」
アトリとララが適当なパーティー名を付けている。
「お知り合いなんですか?」
それを聞いてたアスカちゃんが後ろから覗きつつ聞いてくる。
「「ぜんぜん」」
アトリとララの答えがむべもない。確かにその通りなんだけど。
ゆっきーと思しきPCが、僕達に会話等聞いておらず自分の世界に入った様に変な台詞を口走る。
「ふふっ、いよいよ俺の真の力を開放する時が来たようだな。今こそ俺の技でお前等の全ての力を奪ってやるぜっ!!」
右手を目の前に掲げ、左手で抑える様な仕種をしてそう叫ぶ前髪で右目が隠れている朱色の髪の少年。
なんか変なモノでも食ったんだろうか。言動が色々おかし過ぎる。
「ふっふっふ。俺はこのゲームに愛されているが故にっ!最凶のスキルを手に入れた。アテスピの使役アイテムをいただくぜっ!!」
「いっけぇ!ゆっきー!」
「ゴー、ゴー、ゴー」
「ゆっきーゆうな!!」
右手を僕達の前に何かを掴むように伸ばしてそう叫ぶ。
後ろの2人は、囃し立てるように応援している。あまり緊迫感が感じられない雰囲気だ。
そういやアテンダントスピリットの使役アイテムなんてあったんだろうか。不思議に思ってメニューを開こうとすると、ララが声を掛けてきた。
「使役アイテムなんてものは無いのですマスター。多分あの方は自分の思い込みで勝手に自分で設定作ちゃってるみたいなのです」
「「「いたたた〜〜」」」
アテスピ団(仮)の3人が額に手を当てて痛々しそうにそんな事を言っている。
君等もベクトルが違うだけで充分あれだと思うけど、言わぬが花か。
あれ?そういやウリスケはどこ行っちゃったんだ?
ってな事を考えているうちに、ユッキーが僕に向かって右腕を伸ばし手のひらを広げ叫ぶ。
「“スティー―ル”っっ!!」
し――――――ん。
特に何のエフェクトも起こらないまま少しの時間が過ぎていった。
僕とアテスピ団(仮)の3人が何?とつい首を傾げてしまう。
「馬鹿なっ!何故盗れないっ!?スキルは完璧のはずだっ!!」
「「「「………………」」」」
どゆこと?彼は一体何がしたいんだろうか。
「“スティール”!“スティール”っ!“すてぃ〜〜〜〜〜ぃぃぃるっっ”!!」
何度も何度も同じ言葉を繰り返すゆっきー。何なんだろう。
「マスター、あれは【盗取】というスキルで、モンスターなどから持ってるものを盗み取ることが出来るものなのです」
ふんふん。RPGじゃよくあるヤツだな。“ぶんどる”とか“うばいとる”なんかは定番だろう。あれ?
「ララ。それってPCやNPCにも効果あるの?」
「|アトラティース・ワンダラー《ここ》ではPCに対して危害を加える事は出来ないシステムになってるのです。なのでスキルの効果はモンスターに限定されるのです」
じゃあ何で?と問おうと思ったがララのさっきの言葉を思い出し納得する。
コンピューターゲームというものはある意味システムに準拠した中で、プレイヤーは様々な方策をその世界の中で汲み上げて行く。
モニターの中であれば、現実との区別が出来てそういうものと理解し納得できるのだけど、VRだとたまに勘違いをしてあたかも自分が万能であるかの様な思考に陥ってしまうらしい。
ある意味VRの弊害と言えなくもないのだけど、システムで出来ることがあれば自身で魔法を放つことも空を飛ぶことも何でも可能になる訳だ。
なので変な予備知識を得た人間がこんな行為に出てしまう事になるのらしい。
以前ミラさんがそんな事を言って対応に苦慮したと話していたことがあった。
説明をくどくやっても、理解も納得もしない人間というのは必ずいるものなのだと。
目の前にいるその際たる人物を見て、僕は思わず溜め息を漏らしてしまう。
常識なのにといってしまうには、あまりにも稚拙である考え方には何と言っていいか分からず考えあぐねてしまう。
ゆっきーの様子を見て、何とも痛々しいい思いに駆られはしたが、所詮赤の他人だし見ず知らずの人間なのでスルーすることにする。
人には出来ることと出来ないこととは無限と有限にあるのだとじーちゃんにしつこく口を酸っぱく言われていたからだ。
「マスタてき。とり10、はち8」
アトリがそう言ってモンスターの到来を知らせてくる。
「グッグ!」
突然繁みからウリスケが現れて何かを言ってくる。ララがその意を汲み取り小声で通訳してくる。
「ウリスケさんがモンスターを釣って来たので、いったんいやしの原へ避難しようと言ってるのです」
おうふ。ウリスケがMPKとかとんでもない事をやってきた。
今の状況では良策としか言いようがないかな。僕は後ろを振り向き皆に声をかけて移動することにする。
「じゃあ、一旦いやしの原に戻りまーす」
「「「え?なんでですか?」」」
本当に息が合ってるなぁー。モンスターが近付いて来てるので、余裕も無いので急かす様に指示をする。
「かなり沢山のモンスターがこっちに向かって来てるので一旦避難します。急いで」
「「「ひへぇっっ!?」」」
疑問で目を剥く彼等を急かせていやしの原へと戻る。無数の羽音が左の方角から聞こえてくる。
去り際に、ゆっきー達にも声をかけておく。
「モンスターがやってくるから急いで逃げたほうが良いよ、じゃあね」
「「えっ?ちょっと待っ……」」
3人が躊躇してるのを尻目に僕達はいやしの原へと避難する。その時アトリが小さく呟くのが聞こえてきた。
「ひとはどうしようもないのに、どうしようもない」
アトリの初めてきいた長台詞は、何とも意味深に感じてしまった。
人は、どうしようも‐ない存在なのに、いとしさ故に切り捨てることも見捨てることも出来ず、どう‐しようもない。
ただ見ているだけ、あまねく人を世界を俯瞰し眺め見る存在。
なーんて深読みしつつ、しばらくしていやしの原から出ると、ゆっきー達もモンスターも居らず僕達は何事も無くプロロアの街へと戻ることが出来た。(アイテムが落ちてなかったので彼等は逃げたのだろう、多分)
その後3人にヒィデーオ食堂に行きませんかと誘われたが用事があるのでと断り、その日はこれでログアウトをする。絶対おやっさんに手伝わされるのが目に見えてたしね。
(ー「ー)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます
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