100.その名はアテスピ団(仮)
ひと目を避けるようにそそそと時計台広場を離れ、北大通りへ向かう。
つい注目を浴びてしまった。以前のようにはならないと思うけど、何事にも用心は必要だ。
とくに誰かに追い掛けられることもなく、スキルショップへと到着する。
バロンさんの店に行くにはイベントフラグを立てなくちゃいけないので、もし叶うのならば挑戦したいところだけど………。
「ありがとうございましたー」
フラグは立ちませんでした。【採取】スキルはあったけど【鑑定】スキルは売ってなかったので、以前のように聞いたけど、すみませんと謝られ、この先の街でなら扱ってると思いますという答えが帰ってきた。
「残念だったのです、マスター」
ララが慰めるように声を掛けてくる。さすがに同じような事をしてイベントが起こることは無かった。だよねーって感じだ。
おそらくどこかの店にフラグスイッチがあると思うけど、そこまでして行こうとは思わなかったので、今回は見送ることにする。
粗方の準備をし終えたので、プロロアのいやしの原へ行こうとララに案内を頼もうと話しかけようとすると、先にララが話しかけてくる。
「残念なお話があるのです、マスター」
何とも神妙な表情でそんな事をララが言って来た。
「ララは従魔になったので、いやしの原の案内出来なくなったのです」
申し訳無さそうに空中で土下座するララ。相変わらず器用だなぁ。
そりゃまーそうだよなぁ。ララがアテンダントスピリットだったからこその場所だったんだから、それも当然と言える。
ん―、なら今日はどうしよっかなぁ。
まずはララに気にしない様声を掛けようかと思ったら、頭をテシテシ叩かれ、てってて〜と空中を歩く様な仕草をしてアトリが目の前に降りてきて、僕の手に乗ってくる。
「のーぷるぶれ。アトリなびる」
そしてピゥとひと鳴き。あっ、そうか。
「そうだったのです!アトリさんがいたのですっ!すっかり忘れてたのです」
いや、忘れちゃダメだろうと思うが、きっと気が急いてたという事にしておこう。
頓挫しかけた問題もあっさりクリアしたので、さっそくプロロアの森へと向かうことにする。
その時僕はララとアトリがチラと後ろを見ていたことに気付かなかった。
もちろん僕らの後をつけているPCがいることも。
西門を抜け西街道をてくてく歩きながら西の街がどんなとこだろうかを僕達は予想し合っていた。
「やっぱドワーフの街だと鉱山とかかなぁ」
「鍛冶屋さんとか建築屋さんがたくさんだと思うのです」
ん?そういやララとウリスケはヤマトと一緒に冒険してたはずだから、第2、もしくは第3サークルエリア迄行ってるんじゃなかろうか。ちょっと聞いておくか。
「ララ達はヤマトとあっちこっち行ったんだよね。西の方は行ってないの?」
「行ってないのです。マルオー村から東街道を通って人族の街カアントで種族イベントをクリアしてからは、エルフの街と獣人の街とを行ったり来たりしてたのです」
ほほ―なる程。やっぱり種族イベントはやった方がいいみたいだな。
西へ行って姉が飽きたら東に行ってみるかな。ちなみに僕の種族であるエルフの街のことを聞いてみよう。
「エルフの街ってどんなとこ?」
「はいなのです。街の中に森があるみたいで、その真ん中にとっても大っきな樹があるのです」
「グッググ―――――ッ!」
ララが説明を始めると、ウリスケがララと僕との会話に混ざるように鳴いてきた。
「ウリスケさんはその大っきな樹に登って枝の上でよく寝てたって言ってるのです」
え?あのでっかい身体で枝とか折れたりしなかったんだろうか。
「その大樹の枝の幅はこの道の2倍ぐらいあるのです。だから余裕で大の字で寝転がれたりしたのです」
僕の考えを先取りしてララがそんな事を説明してくる。もうエスパーでいいよなララは。
「マスタ。そこからひだり」
森に入る手前でアトリが指示してきたので、街道を外れ南へと進路を変える。
前は北の方へと向かったと思うけど、違ったかな。
しばらく南の方へと歩いていると、今度は森の中へと指示されたので入っていく。
西の方角をとりながら、右へ左へと迷走するかの様に森の中を移動する。
「もしかして誰かに尾行されてる?」
僕は小さな声でララに聞いてみる。ララも小さな声でそれに答えてくる。
「なのです。何故かは分からないのですが街の中からずっとつけているのです」
「へえ〜」
今となっては焦ることも逃げ回ることもないので、ついそんな風な返事となってしまった。
特にこのゲームでは、PCに危害を加える行為は出来ないようになってるので(姉で体験済)気にしなくてもいーのだけれど、興味本位でも後をつけられるのは気分は良くない。
「みぎ、そこかくれる」
アトリが指示したところは1部深い繁みとなっていて、僕達が充分隠れられる場所みたいだ。
音を立てないよう気をつけながら繁みの中へと入って、何者かは知らないが通り過ぎるのを息を潜めてしばらく待つ
すると数人の何かを言い合う声が聞こえ、こちらにやってくる。
「ちっ、見失ったぞ」
「どっち行ったの?」
「………分からん」
繁みの隙間から覗くとそのPC達の姿は初心者装備を身に纏っていた。
どうやら僕と同じご新規さんみたいだ。
「っだから索敵付けとけって言っただろうが!ったくよう」
「だったらゆっきーが付ければよかったーじゃんか。人にゆう前に自分でやっとけよ」
「………そうだそうだ」
文句を言ったPCに他の2人が言い返すと、彼は何も言い返さずにぷいと顔を背けて先へと進む。
「………行くぞ」
「あっ、待ってよゆっきー」
「こっちでゆっきー言うな」
「………やれやれ」
おー、こういう人達なんだなぁ〜とよく分かる一幕だった。
「でも、何が目的なんだろうな。あのPC達………」
「マスターは何かと悪目立ちしますから、気を付けるのです」
悪目立ちって………。まぁ、否定はし難いかな。うん。
尾行していたらしきPCをやり過ごし、いったん森を出て西街道を横切り北へと向かう。
そこから森に入りアトリのナビで先へと進むと、靄というか膜の様なものを突き抜けるといやしの原へと到着した。
「到着したのですっ」
「グッグッグ―――ーッ」
ララとウリスケが喜び勇んで辺りを飛び駆けまわる。
モニター越しとはまた違った風景が目の前に広がっていた。
とくに違っているのが木々と草の香りだ。青々としたというか清々しい気持ちになってきて、つい深呼吸を繰り返してしまう。
「ふぅ〜」
「マスター」
「グッグッ!」
そこへララとウリスケが飛び込むように戻ってきた。
その遥か後方には3人のPCがこちらに向かってやってくる。
どうやら先客が来てたみたいだ。
1人は盾を背に腰に剣を佩いた少年。もう1人は弓を抱えた軽鎧姿の少女。最後の1人は棍棒と大きめの盾を背負った背の高い少年。
それぞれ肩や頭にアテンダントピリットを載せていた。
「こんちはー」
つんつん跳ねた赤髪の少年が、人懐こそうな笑みを浮かべこちらに片手を上げて挨拶をしてくる。
「こんにちは」
「こんにちはなのです」
「グッグッグ」
「ちわ」
僕達がめいめいに挨拶すると、3人は見を丸くして驚いていた。
あれ?どこに驚く要素があっただろうか。
「あ、あのっ!従魔使いのコックさんですよねっ!」
少女がかぶり気味にそう僕に聞いてきた。
へぁっ?何その二つ名は!?もしかして僕の事なのか?
僕が何の事なのかさっぱり分からず目を丸め首を傾げていると、あれ?ってな顔で少女が確認してきた。
「あの、プロロアーノ商店街のヒィデーオ食堂で料理作ってましたよね?鳥さんとウリ坊さんと妖精さんが給仕をしてて………」
………たしかにあそこで料理(といっても野菜の皮むきだけなんだが)をしててララ達は店の手伝いをしていた。
「うん、心当たりは在るけども、どこからそんな名前が出てきたんだろう?」
僕は思わずそんな事をつい呟く。
「みんな言ってました。生産系プレイヤーの“先駆者”である従魔使いのコックさんがいるって」
興奮いまだ冷め遣らぬと言う感じで身振り手振りでそんな事を説明してくる少女。
いや、先駆者って………、僕自身特に何かやった覚えがないんだけど……どういう事か聞いてみよう。
「あのー先駆者ナニガシってどういう事なんだろうか?初めて聞いたんだけど………」
少女が説明しようと口を開く前に、赤髪少年が説明を始める。
「戦闘系だとモンス倒せばスキルLvって上がるじゃないですか。でも生産系は物作らないと上げられないんで素材とかないと上がられなかったんですけど、店の手伝いクエで上げられる事が分かったんです。それを先に示してくれたのが従魔使いのコックさんなんで、そんな風に呼ばれてるんです」
運営もそれ位告知してくれてもいいですよねーと何気に運営批判を笑いながら言っている。ミラさんが聞いてませんよーに。
なる程そんな経緯があったのか。僕としては偶然の産物なんだけど………気恥ずかしくはあるが、誰かの為になったのなら嬉しくは思う。
でもその二つ名はやっぱりやめて欲しいので名前を名乗っておくことにする。
「え~と……僕はラギって言います。出来ればそう呼んで貰えると………」
「ララなのですっ。こっちはウリスケさんなのです」
「グッ」
「アトリ。よろ」
僕の名乗りを皮切りにララ達も自己紹介を始めだす。そしてそれに3人も応える様に自己紹介を始める。
「俺はハヤト。でこっちのはアスラーダ。職業は鍛冶師見習い」
「ゴッ」
赤髪の少年が親指で自分を指して、肩に乗ってる兜を小脇に抱えた鎧騎士のアテンダントスピリットを紹介する。
「あたしはアスカです。この子はしーちゃんです。職業は薬師見習いです。よろしくお願いします」
「よろしくです」
水色のロングヘアーで前髪パッツンの少女と黒いローブを纏い鎌を持った小さな女の子がペコリとお辞儀をしてくる。
「僕はペイです。彼はワンダー。職業は裁縫師見習いです」
「どうモっス」
身体の大きな(僕より背が高い)少年が黄色のマッシュルームへアーをなびかせて両手で抱えた子狼とを紹介してくる。
職業が見た目と違ってたので意外な感じがして少し驚く。
しかしアテンダントスピリットってどれだけ種類がいるんだろうか、同じタイプのって見たこと無いんだけど。そんな事を考えてると、3人が整列して1、2、3と掛け声を出して。
「「「3人合わせてアテスピ団(仮)ですっっっ!!よろしくお願いします!従魔使いのコックさん!!」」」
ビシッと戦隊ヒーローの様にポーズを決める3人。
………だから、その呼び名やめて、恥ずかしいんで………。
(ー「ー)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます
Ptありがとうございます (T◇T)ゞ
励みになります
ブクマありがとうございます(T△T)ゞ
モチベ上がります
100話迄続きました
これも皆様が読んでで下さるお陰です
ありがとうございます\(◎△◎)/