1. いつもの如く、姉襲来
僕がアパートでP○エンジンの魔キョウ伝説をプレイしていた時、アパートのドアがドバガンと開けられ、僕が振り向くと靴を脱ぎ散らかして女性が突進して来た。
「ギュム――ッ!」
僕の姉、ササザキ サキオが僕の背中に抱き着き変な声を上げる。疲れた顔はやがて蕩けるような表情に変わりほへーっと息を吐き、さらに僕を抱きしめる。
相も変わらずスキンシップ好きな姉だ。こんな誰かれ構わずやっているのだろうか。背中に柔らかな感触を味わいながら少しだけ心配になる。
しばらくすると僕から離れてガッツポーズをして叫ぶ。
「キラくん成分充填完了!」
アパートなんだから叫ぶのはやめて欲しい。いつもの儀式が一段落したのでポーズを解除して、再びゲームを始める。パワーをためてボスグモへと攻撃をする。コントローラーに力が入る。
「相変わらずレトロゲー一辺倒なわけねキラくん」
やっと落ち着いた姉は、冷蔵庫から缶コーヒーを取り出し (勝手に)コクリと飲み干し一息ついて僕に話しかける。
「ゲームなんだしこれくらいがちょうど楽しんだよ。サキちゃん今日はどうしたの?成分補充が目的じゃないんでしょ?」
「VRゲームとかやんないの?今けっこー流行ってるじゃん」
「んー。ってかゲームにそこまで情熱注ぐ気ないし、VRってなんか疲れそうだし面倒い」
「じゃーさ。フツーの奴はどう?MMORPGとか?」
「やったことないから分かんないけど……?モニター越しなら疲れないと思うし、別にいんじゃない?」
この会話の間、姉は僕の後ろに陣取り、僕のお腹へと手を絡めて、右肩に顎を乗っけている体勢になっている。
姉のスキンシップ率が高いのは知っていたが、これは末期の症状なのではあるまいか。
「サキちゃん!近いよっくっつき過ぎだよこれ!!」
無駄な抵抗を試みるも暖簾に腕押し柳に風という言葉の如く意味をなさず、あまつさえ首筋に鼻をそえてくんかくんかする始末。
くっ!ゲームに集中出来ないではないか。あっ!いかん操作をミスった!主人公は一撃を喰らい倒されてしまう。
「ふは―――。キラくんのにほひ―――」
くっ!これではまともにゲームが出来ない。あきらめた僕はゲーム機の電源を切ってていっと姉を振りほどく。
「あ~ん。もっとー」
追いすがる姉をかわし、僕は台所へと向かう。もうすぐお昼になる。
「何か食べる?サキちゃん」
寝転んでゴロゴロする姉にリクエストがあるか聞いてみる。黒髪のロングヘアーが舞い上がり、がばと起き上がると僕を指差し一言。
「オムライス!!」
「了解、りょーかい」
冷蔵庫の中を確認しながら材料を取り出す。ん、ケチャップは切らしてたな。ベーコンとねぎ、ミックスベジタブルと、まー、なんちゃってオムライスか。
フライパンに油をしきベーコン、ミックスベジタブル、刻んだねぎを入れ炒める。そこへご飯を投入、木ベラを使ってかき混ぜ馬油ネギ調味料をチューブから3cmほどニュルルと出してご飯とともにかき回す。チャッチャッとフライパンを躍らせると、美味しそうな匂いがふんわーと漂ってくる。
「むは――――っ」と奇声が聞こえるがスルー。油の焦げる香りとご飯がパラパラになるのを見て取ると、2つの皿に均等に取り分ける。ボウルに卵を3つ割り入れ、生クリームを少し入れ、塩、コショウ少々粉チーズをパラリと入れてかき混ぜる。
卵液を半分ほどバターを溶かしたフライパンへ流し込み焼いていく、固まりかけのところで手際よく右側に整えながらまとめ寄せて、ライスの中央にトロンとのせる。もう1つはゴマ油をしいて同じように焼いて皿へとのせる。
卵の真ん中を包丁でささっと切れば、パカリと割れて、トロリンと周りに広がっていく。レンジでビーフシチューのルーをチンしたものをかき混ぜて、オムライスの上にかける。なんちゃってオムライスの完成だ。
スプーンを添えて居間のチャブ台へと置く。姉は何やらミニPCで作業をしていたのを片付け、長い黒髪をシュシュで纏めていた。
「いただきま〜す♪」
「おっと、水水………」
冷蔵庫からレモンの輪切りの入ったボトルを出してコップに注ぐ。コップを持って居間に戻ってきた時、姉は半分以上を食べ終えていた。いかん、横取りされる前に僕も食べねば。コップを置いて、慌ててオムライスを食べにかかる。
ガツガツ「うまうまっ」と言いながら食べる姉の姿は美人さんなのに何だかとても残念な気がする。
自分の分を食べ終えると僕の皿の方をじーーっと見つめる。溜め息をひとつ吐いて、半分ほど食べた僕の皿を姉の方へとよせる。それを嬉々として受け取りガツガツと食べ始める。
「いらくん。ふぁいぎゃたおー」
「お礼はいいから、食べながら喋らないように」
姉に注意をしながら、食べ終えた姉の皿を台所へ片付けコーヒーを2つ作る。ま、お湯を注ぐだけのインスタントですけどね。コーヒーを持って行くと、姉は僕の分のオムライスを食べ終えると寝っ転がっていた。
コーヒーを置き、空っぽになった皿を持って台所へ。食器を洗って洗いカゴに立てかけていく。全てを終えて居間に戻ると、姉はコーヒーを美味しそうに啜っていた。なんて自由なんだ。まぁいつものことではあるのだが。
テレビをつけて“1時ですよ!エチゼンです”を見る。政治、経済、芸能文化と、エチゼンさんは博識だなーとテレビのMCを見ていると姉がおもむろに話だす。
「キラくん!ゲームのテストプレーしてくんない?」
姉よ。唐突すぎです。
(-「-)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます