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花火  作者: マポリー
1/5

01

 どうもどうも、新しく中編を連載させていただきます。マポリーです。


 稚拙な文章ですが、楽しんでいただければ幸いです(*´∇`)


 それではごゆっくり……

「ねぇねぇ、久しぶりに花火見に行かない?」


「……はぁ?」


 何の脈絡もない提案。たまらず気の抜けた声を出す。


「いやだってさ、最近遊んだりとかできなかったじゃん? 三人とも忙しくて」


「まあ、そうだな」


「だから久しぶりに、さ」


 やけに楽しそうだ。そんなに遊びたかったなら素直にそう言えばいいのに。


「まあ、俺は別にいいけど……どうする?」


 俺だけでは決めかねるので、隣でコーヒーを口に含みながら外を眺めて黄昏ている奴に声をかける。


「え、あ……なにが?」


 気の抜けた返事。たまらずため息が漏れる。


「聞いてなかったのかよ……。花火見に行くんだってよ、だから三人で一緒に行こうって話」


「あぁ〜……」


「なんだよ、そのやる気の無い返事」


 こいつは昔からこんな感じだ。何を考えてるかまるで分からない。


「いや……。そうか、もう花火の季節か……」


 こいつは俺達から目を離すと、また店の外へ視線を移した。











「おぉ、やっぱ凄いなここの花火!!」


 遠くの空で上がる花火を見上げ、俺は感嘆の言葉を漏らした。


「もう……全然乗り気じゃなかったのに来たらこれだもん」


 そうやって呆れたようなことを言いながらも、顔は楽しそうに微笑んでいた。


「まあまあ、お前ももうちょっと落ち着け」


「お前が落ち着きすぎなんだよ!」


 一瞬黙り込んで……皆で笑い合った。


 こんな他愛ないやりとりも、久しぶりだ。三人とも高校を卒業してから別の道へ進み、普段あまり会うことも無いのでゆっくり話せることなんかほとんどなかった。


 俺達三人が言葉を交わす間にも、いくつかの花火が大きな音を立てて打ち上がる。


「……俺さ、こうやって三人でなんでもない会話してるのが一番楽しいわ」


「あたしも」


「俺もだな」


 三人とも、考えていることは同じらしい。少なくない時間を一緒に過ごしただけはある。


「……あの時もさ、こうやって喋ってたじゃん?」


 悩みながらも、少し低めのトーンで切り出してみた。


「そうだね。あれから一年しか経ってないんだよね……」


 物思いにふけるように、こいつは花火を見上げた。


「でも、もう一年経ったわけだ」


 と、反対側の奴が二人の会話に少し明るめに割って入ってきた。普段は暗いから、少しギャップを感じる。


「そうか、『もう』一年経ったんだ。……あの時はずっとあのままなんじゃないかって思ったけどな」


「……ごめんね、二人には迷惑かけて」


 微笑んで首を振って、「別にいいよ」と示す。俺の隣の奴も


「俺達は俺達がやるべきことをしただけだよ」


 という言葉で返事をした。たまにこういうキザな言葉を吐くのは、見ていて飽きない。


「……ありがとね」


 昔にも聞いた言葉だ。ちょうど、一年前のこの日……











 すーっと、首筋に汗を伝う昼過ぎ。


「あっぢぃ……」


 そんな言葉を吐きながら頭上を見上げた。


 空はとんでもないくらい晴天。強い日光を遮るものが何も無いのは、今が夏真っ盛りであることを俺に思い出させた。


「ほんとね、これは暑すぎ……」


 俺に同意してくれたのは、俺の隣にいるこいつ、カナ。


「ちょっと前までは涼しくて良い感じかなーと思ってたのにさ、二ヶ月も経ったらすぐこれだからな」


「うわ、汗すごいね……」


 俺が額の汗をぬぐった腕を見せると、わりと大きめのリアクションを取った。まだそれほど疲れてはいないらしい。


「テスト終わった後なのによくそんな元気でいられるな……」


「え? あぁ……まあ元気だけが取り柄だから」


 そんな感じでにこやかに返してくる。


「確かに、カナから元気を抜いたら何も残らなそうだよな」


「ん〜、そうだな!」


 カナの反対側にいるタカに同意を求めると、瞬時に反応してくれた。


「もう、フミもタカも酷い!」


 口を膨らませて、不機嫌そうな顔をする。


「ごめんごめん」


 笑いながら、適当に流す。


 そんな感じで帰り道を三人で歩いていく。


 ……きた。いつものT字路。ここで三人は別れる。


 じゃあ、と声を出そうとしたところで、カナが口を開いた。


「ね、ちょっと話があるんだけど」


「ん、なんだ?」


「あのさ……今度、三人で花火見に行かない?」


「花火ぃ〜?」


 タカがすっとんきょうな声を上げる。


「嫌……?」


「いや、嫌ってわけじゃないけどさ、俺が人混み苦手だって知ってるだろ?」


 うつむいて、うーんと唸っている。


「……フミはどうする?」


「俺か? まあ俺は別にいいよ、見るの好きだし」


「やったぁ!」


 カナが飛び跳ねて喜ぶ。


「タカはどうするの?」


 カナが面白いものを見るような目でタカを挑発していく。


 タカは気まずそうにして、俺に助けを求めるように目線を向けてきた。面白そうだったので無視してみる。


「お……俺も行くよ……」


「ホント!? ありがとー!」


 カナがタカへ飛び付く。よほど嬉しいんだろう。普段から三人で遊んでいるのにここまで喜べるのはよく分からないが。


「お、おう……」


「じゃあ決まり! 次の花火大会は三人で行きましょう!」


「了解!」

「分かった……」


「じゃあ先帰るね〜」


 そんな言葉を残してカナは自宅へと走っていった。


 T字路に残された男二人。


「んー、あー……人酔い大丈夫か?」


「なんとかして克服するよ……」


 タカの辛そうな声が、よく耳に残っている。






 ……あのなんでもないような日から、全ては始まっていた。


 平凡な日常が、俺の手から逃げていく前日のことだ。


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