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勇者しょうかん  作者:
5/6

勇者の少閑(あるいは小閑)

「暇だ……」


 勇者は、突然ぽっかり空いた時間に戸惑っていた。


 召喚されて三日目から始まった、この世界についての学習は、二か月たった今では、朝起きてから夜寝るまでぎちぎちに詰まったメニューになっていた。

 例えばある一日はこうだ。


 朝、起されて着替えと洗顔。

 それが済むと朝食。同席者(ちなみにこの日は宰相だった)に昨日までに習ったことをおさらいされる。ちなみに勇者には難しい考え事をするときに爪を噛む癖があるので、食事時にそれをやると厳しく注意される。

 食事が終わると座学の時間。この日はこの世界の地理を教わった。とはいえ、元板世界ほどくまなく調査されているわけではないので、地図上の空白地帯は多い。もしかしたらこの世界がどこかの惑星上にある、かどうかもわからない。(もしかしたら世界は平べったくて。世界の端は奈落に続く瀧になっているかもしれない)が、宇宙にまで出向く必要はなさそうだから、その辺は考えないことにする。

 座学が済むとお茶の時間。軽く軽食と一緒に頂く。

 ちなみにこの世界では(というか、この国周辺では?)食事は朝夕の二回で、その代わり、休憩の時間ごとにお茶と軽食が振舞われる。

 陽が高くなってくると鍛錬の時間。この日は天気が良いので、かどうかはわからないが、馬に乗って長距離を駆ける。やっと駆け足ができるようになった勇者には試練だ。

 鍛錬が終わると、汗を落として着替え、午後の座学の時間。遠出で遅くなったこの日は、お茶会兼マナー講座。マナー講座はそのままダンス練習(勇者としては必要性をあまり感じないのだが)に流れてゆき、夕食の時間までみっちりしごかれた。

 夕食の前に、本日三回目の着替え。

 夕食は正餐で、隣の席にマナーの先生が就いて食べ方をチェックされる。

 豪華だけどあまり味わった気がしない夕食の後、歓談という名のおさらい会があって、次々に投下される質問に答えなくてはならない勇者にとっては、寛ぎの時にはならない。

 就寝前に入浴をするかどうか聞かれるがこの日は乗馬とダンスで疲労困憊なので断り、何とか寝間着に着替え、ベッドに倒れこむ。

 ざっとこんな感じ。

 日によって鍛錬の時間が魔法の練習になったり、座学の時間に王子(十一歳)や王女(十三歳)が「お忍びで城下に行くから付き合え」と乱入したりするが。

 (ちなみに、勇者の前に召喚された『魔王(自称)』も、このカリキュラムにひと月は耐えたそうだ)


 それが。

 鍛練の教師が身内の不幸で城を離れたのを皮切りに、一般常識の教師が体調不良で、マナーの教師(ちなみに三人いて、何やら複雑なローテーションを組んでいる)さえ、「急に用事ができたので」と言って、今日の授業を休んだのだ。

 いったい何があったというのだ。それともただの偶然か。

 何か良からぬ事の前触れでなければいいが。


 勇者は魔王との長い付き合いで、楽天的な思考とは遠ざかっていた。

しょう‐かん【少閑・小閑】


少しのひま。


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