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戦争推理  作者: 神風
5/7

総理と決定的証拠


200X年 10月 14日 土曜日


午後10時15分





新潟市内で大規模な爆発事件が起きた後、首相である安塚は残る訪韓の日程を全てキャンセルして緊急帰国の途に着いた。


今は大韓共和国首都カンジョウの国際空港で日本政府専用機の離陸準備を待っている所だ。


待合室で安塚は日本のテレビ局が放送する新潟の被害現場の映像に食いついていた。


「なんてことだ……」


被害は予想以上だった。


ミサイルと思われる飛翔物体は時速4万キロのスピードを維持したまま買い物客と下校途中の中高生で溢れる新潟駅周辺に突入。


着弾と同時に大規模な運動エネルギーが強い衝撃波を生成し当たり一帯をなぎ払った。


アスファルトや駐車されていた車が破片となって吹き荒れる。


その破片に多くの通行人が巻き込まれた。


重大な被害は着弾地点から半径300メートルまでだった。


「死者は最低で百人は下りませんね」


安塚の秘書であり、側近の藤沢がため息を漏らす。


「予想以上に大事だぞ、これは…」


と、その時。テレビの画面がスタジオに切り替わる。


画面の中心に座るキャスターが興奮交じりにカメラを見つめながら口を開いた。


『えー、今回の新潟での爆発事件ですが…政府はテロであるとも事故であるとも断定しておりません。詳細は不明と雪野官房長官は記者会見で話しておりましたが、ここで今回の事件が「偶発的な爆発事故」ではなく、「人為的で意図的なテロ」であると断定できる証拠をわがエキスプレス・ニュースが入手しました』


「?!」


ニュースキャスターの思わぬ発言に安塚は身を乗り出した。


「どういうことだ?」


驚愕する安塚にニュースキャスターが遠慮するわけも無く、番組はさっさと次のステップに進んでいく。


安塚の横で、藤沢は慌てるわけでもなく冷静にテレビ画面に視線を送っていた。


『まずはこちらの映像をご覧ください』


キャスターが促すと、画面が切り替わる。


切り替わった画面は先ほどと同じく被害現場を映していた。


しかし、先ほどの映像と違って救助にあたる救急隊員の姿は無く、さらに画素が極めて荒かった。


それに音質も酷い。


『これは事件発生直後、現場に駆けつけた市民の方が携帯電話で撮ったものです。問題は次の場面です。そう、ここ、この場面です』


その場面は、撮影者が炎が立ちこめる被害現場に転がっていたある鉄板の破片を映しているものだ。


『この鉄板です。焼け焦げていてよく判別できませんが、よく見てください』


画面が鉄板の破片の度アップに切り替わる。


そしてそこに映っていたのは…


『北東共和国のラウンデル(国籍マーク)です』


安塚は目を丸くした。


確かにそこには北東共和国人民軍が使用しているラウンデルがペイントされていたのだ。


つまりそれは…


『今回の事件が北東共和国からの攻撃であることを意味しています』


キャスターが決定的な結論を導き出した。


『すでにわがエキスプレス・ニュースが被害現場周辺で実施したインタビューに、多数の市民がミサイルらしき飛翔物体が市内に突入したのを目撃したと答えています。これらから察するに市内に突入した飛翔物体は北東共和国が発射したミサイルと思われます。ラウンデル付の鉄板は恐らくミサイルの残骸でしょう。つまり今回の事件は北東共和国による攻撃であると…』


「なんてことだ…」


安塚が顔を青ざめながら言う。


「まぁ、だいたい予測されていたことです」


藤沢はあっけらかんと受け流す。


対照的に安塚はかなり衝撃的な様子だ。


確かにこの結論は予測されていたし、緊急閣議でも飯井畑が声高に叫んでいたことだ。


今更驚くには値しない。


しかしそれでも決定的証拠をまざまざと叩きつけられると、安塚にはショックだった。


安塚には少し繊細なところがあるのだ。


「さて、これからどうします?マスコミは狂乱すると思いますが…」


「…とにかく、日本に着いたらまた緊急閣議だ。それから、…それからのことは向こうについてから…だな」


安塚に元気は無かった。


新任早々大事件に巻き込まれたのだから、無理も無いかもしれない。


就任以前から言われていたことだったが、安塚は人気だけが先行した経験不足の政治家だった。


このプレッシャーに耐えれるだろうか?安塚と長い間一緒に仕事をしてきた藤沢にも、それは不安なことだった。


藤沢は最も安塚の欠点を理解している人間の一人だ。


「総理。すぐに調子を取り戻していただかないと…日本についてからもそれでは困ります」


「ああ…分かってる。分かってるよ」


だがやはり、安塚に元気は無かった。

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