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戦争推理  作者: 神風
3/7

総理と緊急閣議

200X年 10月14日 土曜日


日本時間午後7時30分



官邸の閣議室には内閣を構成する全ての国務大臣が召集されていた。


総務大臣

法務大臣

外務大臣

経済産業大臣

厚生労働大臣

農林水産大臣

国土交通大臣

財務大臣

文部科学大臣

環境大臣

内閣官房長官

防衛庁長官

沖縄及び北方対策担当大臣

金融大臣

少子化担当大臣兼特別安全対策委員会委員長


そして、


内閣総理大臣


計16人の国務大臣と閣僚が顔を並べている。


そしてその中心にいる安塚首相は現在大韓共和国を訪問しているためパソコンのモニターからの参加となった。


『それでは、諸君。全員集まったようだから、緊急閣議を開始するとしよう』


スピーカーから安塚の声が流れ出した。


モニターに移る安塚の口の動きは声の速さに追いついていなかった。


『みんなにも既に連絡が回っていると思うが、本日未明にミサイルと思われる飛翔物体が新潟市内に突入、着弾したとのことだ』


全ての閣僚達が全員、モニターに移る安塚の顔に熱心に視線を送り続けた。


『新潟市内の何処に落ちたのか、死傷者などの詳しい被害状況は不明だ。今回の閣議は言うまでもない、この緊急事態、懸案にどのように対処するかを話し合いたい』


安塚が言い終わると同時に、経済産業大臣である篠山信三(シノヤマ・シンゾウ)が口を開いた。


「ミサイルと思われる飛翔物体と言いますが、それは確かにミサイルなのですか?そしてそうだとしたら、ミサイルが勝手に飛んでくることなどありえませんから、誰が一体何の目的で打ってきたんですか?」


篠山の疑問は当然のことだ。


この疑問抜きにこの問題を論議することは出来ない。


そして、その篠山の疑問に答えたのは防衛庁長官の黒田啓二(クロダ・ケイジ)だった。


「そのことについては、確かな証拠はありません。ですが分析が進めば明らかになると思います。例えば着弾地点からミサイルの残骸が発見されるとか…それから、何処の国が打ったかということは、あれがミサイルかどうかということがまだハッキリしていない現段階ではまだなんとも」


黒田は慎重に、そして丁寧に話を進めたが、その流れを飯井畑が遮った。


「北東共和国に決まっているわ。着弾の前にレーダーにはあの国の方角から飛んでくるのが確認されているじゃない。総理、これは東北共和国によるわが国への戦争行為です!宣戦布告ですよ!」


「アマゾネス」の怒号が響き渡る。


飯井畑の主張はここにいる閣僚達がうすうす気づきながらも、向き合いたくない現実だった。


「ですが飯井畑さん、それはいささか性急な判断では?まだミサイルと決まったわけではありませんし…」


「じゃあ、何なんです?レーダーに確認された飛翔物質は時速4万キロで飛んでいたんですよ?これは北東共和国の保有していると思われる弾道ミサイルのカタログデータに一致していますが?」


飯井畑はアマゾネスのあだ名に負けず、一気にまくし立てた。


それは他社の反論を許さない勢いだった。


しかし、篠山も精一杯反論する。


「もしかしたら隕石かもしれないし…」


「隕石ですって?この非常事態にSF話ですか?」


「……」


それはもはや意見交換ではなくただの一方的な言葉虐めに等しかった。


アマゾネスの勢いによって閣議室には何ともいえない苦い空気が漂った。


安塚でさえ顔をしかめながら気分を悪くしているだけ。


しかし、安塚の右腕である内閣官房長官の雪野忠良(ユキノ・タダヨシ)がそんな状況に一石を投じた。


「飯井畑さん。ならどういう対応をとるべきだと?」


「決まっているわ!報復攻撃よ!」


雪野に聞かれて飯井畑が高らかに宣言し、その声が閣議室中に響き渡った。


その言葉を聴いて、飯井畑の横に座っていた瀬戸川が少し笑った。


再び雪野が口を開く


「それはできません。わが国は文明国であり法治国家です。相手が攻撃してきたという証拠もなしにこちらが攻撃するわけにはいきません」


「証拠なんてすぐに出てくるわ」


「もしそうなったとしてもまずすべきことは国連の安全保障理事会にかけることです。国際社会の承認なしに戦争行為はできません」


「国際社会の承認ですって?攻撃されたのは国際社会ではなくて日本よ!」


三度飯井畑の怒号が閣議室に響いたが、こんどは飯井畑と親しい瀬戸川が口を挟んだ。


「落ち着け飯井畑さん。これが国際政治なんだわ、仕方ないだろう」


「しかし」


「とにかく落ち着きなさい。悔しいのは分かるがね。雪野君の意見は正しいよ」


「……」


瀬戸川に諭されて、飯井畑はようやく大人しくなった。


閣議室のやり取りをモニター越しに見ていた安塚は安堵する。


安塚は飯井畑が苦手だった。


彼女を閣僚に抜擢したのは党内で強い影響力を持つ瀬戸川に進められたからだった。


彼女もそのことを知っている。だから彼女は首相である安塚よりも自分を推した瀬戸川を尊敬しているのだ。


瀬戸川の説得で飯井畑がすんなり大人しくなったのもそういうことだ。


『では、話を続けよう…』


と、その時。官房長官である雪野が再び口を開いた。


「すみません。少し待ってください。今、外から連絡がありました」


今度は何事かと、閣僚達の全員が雪野に視線を送る。


その視線を受けながら雪野は閣議室に備え付けられているテレビを点けた。


勘の鋭い閣僚なら、もうなにが起きたか悟っていた。


電源の点けられたテレビ画面には神妙な面持ちでカメラを睨むキャスターが映し出されていた。


そしてゆっくりとそのキャスターは口を開いた。


『臨時ニュースをお伝えします。今日午後6時ごろ、新潟市内で大規模な爆発が確認されました。爆発が起きたのは新潟駅周辺、死傷者などの詳しい情報は入っておりません。政府からは未だ何の発表もなく、ただ官邸周辺が活発に動いているとしか情報が入ってきておりません。今回の爆発がテロによるものかどうかは依然不明です。繰り返します。今日午後6時ごろ、新潟市内で大規模な爆発が確認されました。爆発が起きたのは新潟駅周辺、死傷者などの詳しい情報は入っておりません。ただ今は通常の放送予定を変更して特別ニュース番組をお伝えしています』


閣僚の誰かがため息をついた。


マスコミが報道したからには国中が大騒ぎになるだろう。


混乱収集という面倒ごとが増えた。


そして安塚が言う。



『…記者会見が必要だな』

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