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無色と十二の旅(アルとジュウニのシルシ)  作者: Matyu
* 第三章:碧色の深層(アルのダイブ)
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第3章・第12話  流れの試練

碧い海が渦を巻く。


巨大な水流が、

空間そのものを循環していた。


始祖魚――

エンシェント・アクアリオン。


圧倒的な存在感。


その視線だけで、

空気が震える。


アルは剣へ手を掛ける。


だが。


ミレーナが小さく首を振った。


「待ってください」


静かな声。


「始祖の試練は、

力比べとは限りません」


アルが手を止める。


その瞬間。


始祖魚の瞳が蒼く輝いた。


『汝らは、

流れを知るか』


声が響く。


次の瞬間。


世界が変わった。


「っ――!?」


アルが目を見開く。


足場が消える。


碧い海へ投げ出された。


だが沈まない。


身体は、

巨大な水流の中へ浮かんでいた。


周囲を無数の流れが巡る。


速い流れ。


遅い流れ。


穏やかな流れ。


荒れ狂う流れ。


全てが複雑に絡み合っていた。


その中心で。


黒く濁った流れが渦巻いている。


歪み。


停滞。


侵食。


それだけが、

循環から外れていた。


『断て』


始祖魚の声。


『淀みのみを』


瞬間。


濁流が暴れた。


巨大な水圧が襲い掛かる。


アルが咄嗟に剣を振る。


「――竜閃ドラゴングリント!」


高速踏み込み。


流れを裂き、

濁流へ接近する。


そのまま剣を振り抜く。


だが。


斬撃は濁流だけではなく、

周囲の流れごと断ち切ってしまった。


「っ!?」


次の瞬間。


水流全体が乱れる。


巨大な循環が崩れ始めた。


碧い海が荒れる。


無数の流れが暴走した。


ミレーナが目を見開く。


「違います!」


始祖魚の瞳が静かに細められる。


『違う』


その一言だけで、

空間が震えた。


アルが歯を食いしばる。


「でも、

斬らないと――」


「流れを壊してはいけません!」


ミレーナが叫ぶ。


碧い瞳が、

周囲の水流を見つめていた。


「水は、

止めるものじゃない」


「流すんです」


その言葉と同時。


ミレーナが両手を広げる。


碧い魔力が広がった。


循環導流アクア・ライン


水流が変化する。


暴れていた流れが、

少しずつ整っていく。


濁流だけが、

循環から浮かび上がった。


アルが目を見開く。


「分けた……?」


ミレーナが頷く。


「流れそのものを壊せば、

全てが乱れます」


「淀みだけを、

循環から外すんです」


始祖魚の声が響く。


『見極めよ』


『流れを』


その瞬間。


濁流が再び暴れた。


今度は無数の歪水槍となり、

アル達へ降り注ぐ。


アルが踏み込む。


「――竜閃ドラゴングリント!」


高速移動。


歪水の隙間を抜ける。


だが。


速さだけでは届かない。


濁流は流れの中へ紛れ込んでいる。


斬れば、

周囲まで巻き込む。


アルが歯を食いしばる。


(……どれだ)


(どこを斬ればいい)


その時だった。


クウが肩の上で震える。


「きゅ……!」


小さな身体が、

一方向を見ていた。


アルが目を向ける。


濁流の中心。


そこだけ。


流れが完全に止まっている。


アルが目を細めた。


「……止まってる」


ミレーナも気付く。


「あそこが……淀みの核」


周囲は流れている。


だが。


そこだけが違う。


循環へ逆らい、

停滞していた。


始祖魚の瞳が静かに輝く。


『見えたか』


アルは剣を構える。


周囲を見る。


流れ。


循環。


交わり。


そして。


止まった淀み。


アルが静かに息を吐く。


竜族紋章が微かに輝いた。


「流れを壊さず……」


剣先が定まる。


「淀みだけを断つ」


碧い海が唸る。


巨大な濁流が、

再び二人へ牙を剥いた。


今度は違う。


濁流が、

周囲の流れと完全に混ざり始めた。


境界が消える。


ミレーナが息を呑む。


「見失わせる気です……!」


始祖魚の声が響く。


『流れは混ざる』


『故に見誤る』


『汝は何を以て淀みを識る』


濁流が迫る。


アルは動かない。


目を閉じる。


耳を澄ませる。


感じるのは水流。


循環。


流れ。


全てが動いている。


だが。


一つだけ。


違和感があった。


流れているように見えて。


そこだけ。


“進んでいない”。


アルが目を開く。


「そこだ!」


踏み込む。


「――竜閃ドラゴングリント!!」


斬撃。


今度は違う。


流れを断たない。


循環へ逆らわない。


止まった一点のみを断ち切る。


瞬間。


濁流の核が砕けた。


黒い歪みが崩壊する。


周囲の流れが一気に加速した。


巨大循環。


碧い海全体が、

再び動き始める。


濁流が消えていく。


始祖魚の瞳が、

静かに細められた。


『……見事』


その瞬間。


世界が震える。


巨大な碧い紋章が、

アルの足元へ浮かび上がった。


水流が集束する。


碧い光。


ミレーナが目を見開く。


「これは……!」


光がアルの胸元へ流れ込む。


熱ではない。


冷たく、

優しい流れ。


その瞬間。


アルの無色リングが輝いた。


透明だった輪へ。


碧紋章が浮かび上がる。


水の印。


そして。


その内側へ。


魚族紋章が静かに刻まれた。


まるで。


最初からそこに在ったかのように。


始祖魚の声が響く。


『流れを継ぐ者よ』


『汝に水脈を託す』


碧い海が静かに循環する。


試練は、

終わった。

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