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悪夢に苦しむ皇帝の寝間着を繕ったら、夢の中へ!?特別な侍女になった私の秘密の恋  作者: 久遠翠


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第12話「夜明けの誓い、ただ一人の后」

 皇太後一派の断罪は、迅速に行われた。

 首謀者である皇太后とその腹心たちは国の法に則って厳罰に処され、長年、宮廷の奥深くで根を張っていた膿は一掃された。

 先帝陛下暗殺の真相が明らかになり、若き皇帝・龍瑛心の手腕と決断力は改めて臣下たちに示されることとなった。父の無念を晴らし、国を揺るがす大罪を暴いたことで、彼の威光は以前にも増して輝きを放つ。

 紫龍帝国に、ようやく真の夜明けが訪れたのだ。

 全ての騒動が落ち着いた数日後、瑛心は後宮の最も見晴らしの良い楼閣に、玲花を伴って訪れていた。

 ここからは、きらびやかな後宮の瓦屋根もその向こうに広がる帝都の街並みも、全て一望できる。


「……終わったのだな」


 眼下に広がる景色を眺めながら、瑛心が静かにつぶやいた。


「はい。……長かったですね」


 玲花が、隣でそっと寄り添う。

 あの事件以来、彼女の立場は完全に変わった。皇帝の命の恩人であり、国を救った立役者として、後宮の誰もが彼女に敬意を払うようになった。かつて彼女を蔑んでいた妃たちでさえ、今では恐縮して道を譲るほどだ。

 だが、玲花自身は何も変わっていなかった。ただ、愛しい人の隣で穏やかな日々が戻ってきたことを、心から喜んでいるだけだった。


「全て、お前のおかげだ」


 瑛心は、玲花の肩を優しく抱き寄せた。


「お前がいなければ、俺は今も闇の中を一人で彷徨っていただろう。父の仇も討てず、いつか皇太后の傀儡として人生を終えていたかもしれん」


「そんなことありません。陛下は、お強い方です」


「強くなどない。……ただ、守りたい光がそこにあっただけだ」


 瑛心は、熱のこもった瞳で玲花を見つめた。その真摯な眼差しに、玲花の頬が熱くなる。

 彼は、玲花の柔らかな髪を優しく撫でると、懐から小さな箱を取り出した。


「玲花。これを、お前に」


 箱を開けると、中には息を呑むほど美しい蝶の形をした髪飾りが入っていた。透き通るような白翡翠はくひすいに、繊細な金の細工が施されている。


「これは……?」


「俺の母上の、形見だ。俺が生まれてすぐに亡くなったので顔も覚えていないが……父上が、母上のために特別に作らせたものだと聞いている」


 それは、本来であれば正室である皇后に受け継がれるべき、特別な品だった。


「そ、そんな、大切なものを、私なんかが……いただけません!」


 玲花が慌てて首を振ると、瑛心は悪戯っぽく笑った。


「なぜだ?俺の、たった一人の女にこれを贈って、何か問題があるか?」


「で、でも……私の身分では……」


「身分など、関係ない」


 瑛心は、きっぱりと言い切った。


「俺は、慣習やしきたりに縛られるつもりはない。俺の隣には、お前が必要だ。お前以外の誰もいらない」


 彼は、玲花の髪にそっとその髪飾りを挿してやった。白い翡翠が、彼女の黒髪によく映える。


「……きれいだ」


 思わず漏れた、瑛心の呟き。それは髪飾りに対してか、それとも彼女自身に対してか。

 玲花の瞳に、じわりと涙が浮かんだ。お針子として後宮の片隅で、ただ静かに生きていくだけだと思っていた。まさか天子様の隣に立つ日が来るなんて、夢にも思わなかった。


「陛下……」


「瑛心、と呼べ。二人きりの時は、そう呼ぶことを許す」


「……瑛心、さま」


 はにかみながら名前を呼ぶと、彼は満足そうに頷き、彼女の涙を優しく指で拭った。

 そして、彼は玲花の両手を取り、その前にひざまずいた。


「なっ……陛下!おやめください!」


 皇帝が人前でひざまずくなど、前代未聞のことだ。玲花は慌てて彼を立たせようとするが、瑛心は動かなかった。

 彼は、地上で最も高貴な男でありながらただ一人の女性を見上げ、真摯な声で告げた。


「李玲花。俺の、皇后になってくれ」


 それは、プロポーズの言葉だった。


「俺と共に、この国の未来を歩んでほしい。お前という光で、俺の人生を、そしてこの国を、照らし続けてほしいんだ」


 涙が、あとからあとから溢れて止まらない。

 玲花は、何度も何度も強く頷いた。


「……はい。喜んで。不束者ですが……あなたの隣に、いさせてください」


 その返事を聞いて、瑛心は安堵の笑みを浮かべ、立ち上がると玲花の体を強く、優しく抱きしめた。

 楼閣を吹き抜ける風が、二人の髪を優しく揺らす。

 孤独だった皇帝と、名もなき針子。悪夢の中から始まった二人の恋は幾多の困難を乗り越え、今、ここに結ばれた。

 これは、新しい伝説の始まり。

 後宮の片隅で芽生えた小さな愛が、やがて国中を照らす大きな光となる物語の、輝かしい第一歩だった。

 空はどこまでも青く澄み渡り、二人の輝かしい未来を祝福しているかのようだった。

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