第8話 ちょっと遠い
放課後、いつも通り三人で集まった。
初夏の山は、もう実を落としきっている。最近の遊びは、自然とチャンバラごっこになっていた。
細い木の棒を拾って振り回す。ジャックは逃げ回り、叫び声をあげながら笑う。
「待てー!」
オリバーは時々、反射的にジャックを助ける。
――よかった。何も起きなくて。俺まで安心する。
しばらく遊ぶと、オリバーは母さんに頼まれていた仕事を思い出し、家と行き来しながら参加した。
オリバーが来るたび、俺はずっと話しかけていた。
「姉ちゃんさ、また俺の部屋のこと言ってきてさ」
「別に散らかっててもいいだろ?」
オリバーは頷きながら棒を拾い直す。
「……まあ、危ないものがあるなら片づけた方がいいかも」
俺は驚いた。
言葉を選んでる――慎重に返してるんだな。
少しだけ間が空いた。
「へー、そう?」
すぐに次の話題に移った。
三人で草の上に寝転ぶ。空は高く、雲が流れている。
ジャックはすぐに飽きて、また走り回り、棒を振り回す。
俺は横目でオリバーを見る。
「お前さ、たまに先生みたいだよな」
「……そうかな」
オリバーの小さな返事。
別に責めてない。冗談だ。
それ以上、話は続かなかった。
夕方になり、帰る時間が来る。
オリバーは、母さんといるとき、父さんといるとき、先生の前、クラスの子たち――
場面ごとに少しずつ違う対応をしている。そう見える。
――じゃあ、俺の前では?
なんだか、言葉を選んで、正しいこと、無難なこと、間違わないことばかり。
以前より慎重さを感じる。その慎重さが、少し距離を作っている気もした。
答えは出ない。
ただ、前と同じではない、という感覚だけが静かに残った。
でも、それは――より慎重だから、としたら。
臆病なオリバーが、起こしている変化なのだとしたら。
――なんとなく、少しだけ、オリバーのことを理解できた気がした。
いや、理解できたわけじゃない。
でも、今ここにいる彼の、安心できる場所を知った気がした。
その横で、ジャックが木の棒を振り回して叫ぶ。
「レオ兄ちゃん、来てよー!」
顔を見合わせて笑う俺とオリバー。
オリバーも少し肩をすくめて、でも苦笑い。
静かなやりとりと、遊びの声が混ざって、三人の空気が自然に整った。
――今は、このままでいい。




