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臆病な魔法使いは、失敗しないように生きている 〜小学部編〜  作者: 南山


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第47話 騒がしい秋 ―柿の実習―

今回は、初めての「魔法+調理」の実習です。


柿を取って、切って、乾かして――


ドライフルーツ作りに挑戦します。


まだ難しいことはできませんが、

みんなで悪戦苦闘。


……ただし、風魔法で乾かすとなると、

何も起きないはずがなく。


ガイルの突発行動や、

レオに女子が話しかける場面もあったりと、

少し賑やかな回になりました。



二年生の秋。


楽しい一日です。




次回予告


空気も少しずつ冷えてきました。

北の山がよく見える季節です。



皆さまにも楽しんでいただけたら嬉しいです。


――柿を取りに――



秋の空は透明だった。

高いところでトンビが円を描いている。

麦の穂は乾き、畑はやわらかな黄色に染まっていた。


前期試験が終わった午後だった。

生徒たちの空気は、どこか浮き足立っている。

今日は授業というより、半分お祭りみたいなものだからだ。



「皆さん、お疲れ様でした。

さて、今日の実習ですが……」


「柿だ!」

突然ガイルが叫んだ。

本人も驚いたように口を押さえる。


「すみません。去年、確か……」


ノア先生が小さく笑う。

「ええ。ガイルは、大変張り切っていましたからね」


教室にクスクスと笑いが広がる。


「そう。柿なんです。

今年は二個三個取ってほしいのです。

取って、皮をむいて、切って、乾燥。

家庭科も兼ねたいのです」



――裏庭で――



みんな大騒ぎで裏庭の柿の木の下へ集まった。

校長先生も来ていた。


「皆さん、水球と風魔法の課題は合格しました。

今年は落ち葉がなくても、風魔法で柿を落とせるでしょう」


生徒たちの顔を順番に見ながら続ける。


「ただ、安全には気を配ってくださいよ」


校長先生が柿の木を見上げた。

「この木も、あのころと比べて大きくなりましたなあ」


「……あのころ?」


誰かが聞く。


校長先生は少し笑った。

「昔、ある生徒が柿の実を全部……」


「あ!その話はまた後にしましょう」

ノア先生が慌てて止める。


生徒たちはクスクス笑う。


「先生、絶対なにかやったでしょ」

ガイルが言う。


ノア先生は咳払いをした。

「昔の話です」


校長先生が小さく笑った。

「柿の実だけならよかったのですがな」


「校長先生」

ノア先生の声が少し低くなる。

「……その話は、本当にまた今度に」



レオが小声で言った。

「ガイル。今年は頼むぜ」

「わかっているよ。もう枝ごとなんて取らない」

「そうだ。反省しろ」


レオもガイルもニヤニヤしている。



今年は難なく柿を取ることができた。

去年との力の差を感じる。


(確かに、上達してるんだ)


少し嬉しくなって、思わずつぶやいた。


「ちょっと嬉しいな」


「俺も嬉しい」


隣でガイルが、大きな柿を手にニコニコしていた。


驚くべきことに、調理室に着くころには一つ食べ終わっていた。


柿を抱えたまま、みんなで調理室へ向かう。



――調理室――


みんな悪戦苦闘していた。


オリバーは家で手伝いをしているので、上手に皮をむく。


「どうやるの?」


レオが覗き込む。


教えながらやっていると、レオはすぐにできるようになった。


そこへエマが近づく。


「レオ、上手じゃん。教えてよ」


ガイルも横で聞いていたが、結局はナイフのような手つきで皮を削ぎ落としていた。


ある程度のサイズに切り分け、ザルに並べる。


ノア先生がお手本を見せた。


「太陽に三日から五日干せば、ドライフルーツになります。

ですが今日は、風魔法で乾かしてみましょう」



――柿のドライフルーツ――



「手のひらから風を出す感じです。

ゆっくり、そよ風を送ります」


生徒たちが始める。


最初はガヤガヤしていたが、半分ほどの生徒が風魔法に集中すると、調理室は静かになった。


ザルの上の柿が、少しずつ乾いていく。


ガイルが首をかしげる。


「こんな弱い風で乾くのか?」


柿のそばで手のひらをヒラヒラさせる。


レオが止めた。


「やめとけ。お前、アプリコットの時に――」


「大丈夫だって!」


ガイルが手をザルに向けた。



次の瞬間。


ぶおっ


強風。




「うお! おまっ! 飛んじま――」


「きゃあ!誰?私の柿!」


「やだあ踏んじゃった!」

エマの声が響く。


切った柿が宙を舞う。


レオの頭に


ぺた


ぺた


柿が張り付いた。


「……おい」

レオが怒る。

「いい加減にしろよ」


ノア先生が静かに歩いてきた。

「ガイル」


教室が一瞬で静かになる。


ノア先生は散らばった柿を見回した。


少し考えてから言った。


「フライフルーツですね」


一瞬後、調理室が爆笑に包まれた。



後ろで校長先生がつぶやく。

「懐かしいですなあ」


ノア先生は何も言わなかった。



「ガイルはしょうがないやつだな」

柿を拾いながらレオが言う。


「さ、気を取り直してやろうぜ」


「オリバー、前できたじゃん。アプリコット」

レオが目を輝かせて言う。


オリバーは頷いた。


春、市場で手に入れたアプリコットをドライアプリコットにしたことを思い出す。


「ほう。オリバーは家で?」

ノア先生が言う。


「親御さんは、いい経験をさせてくださっているのですね」


思わず顔が熱くなる。


「俺、上手くできなかったんだよな」

レオがぼそっと言う。


「俺も苦手。全部吹き飛ばしたい!」


「もう飛ばしただろ!」


「あと三秒あれば乾いた」


「三秒で全部飛んだんだよ」


「もっと優しくなろうぜ」


……おいおい。

自分のやったことを棚に上げたな。




――回るザル――



レオとガイルが聞いてくる。


「どうやってるんだ?」


「……レオが教えてくれたんだ」

「細かい風魔法は、針に糸を通すみたいにやるって」


「ああ、それ姉ちゃんが言ったんだ」


レオちゃんが軽く言う。


その瞬間、姉ちゃんの顔が浮かんだ。



伸びた手足。

伏せた目。



心臓が跳ねた。



ザルが少し回り出す。

……風を出した覚えはない。


(いけない)


ここで風が強くなったら――


柿が飛ぶ。


オリバーは慌てて意識を戻した。


レオが怪訝な顔をする。

「大丈夫か?」


「うん。大丈夫」

少し間を置いて言う。

「……ごめん」

言ってから気づく。

(今、自分でばらしたのか?)



――秋の色――



ザルの上の柿が、秋の光の中でゆっくり乾いていく。


……昔、全部取った生徒。


オリバーは少し笑った。


(父さんに聞けば、なにかわかるのかな)


ノア先生を見る。

先生は何も言わず、柿を静かに並べ直していた。




秋の光はまだ強く、影は短い。

柿の表面は乾き、糖がにじんで白く光っている。


控えめな甘い匂いが、教室に満ちていた。


透明な空が――


柿の色と匂いを、静かに秋だと告げていた。




でも、気がつけば、

去年より少しだけ騒がしい秋だった。






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