第45話 思わぬ風
今年も全学年参加のボート大会が近づいてきた。
レオは作戦を練る意気込みだ。
ガイルもオリバーも、それぞれの役割を確認する。
順調に進むと思ったレースだったが、思わぬ風が三人を襲う。
計画通りにはいかないハプニングに、オリバーの魔法が思わず暴走。
転覆してびしょ濡れになりながらも、三人の気持ちは少しずつまとまっていく。
成長と学びのひとときに、どうぞお付き合いください。
―― レオの作戦――
「いいか。今回の作戦をもう一度確認するぞ。」
レオがガイルとオリバーの頭を寄せて、円陣を組む。
「前半はひたすら漕ぐんだ。ガイルと俺で。」
「まかせろ」
ガイルが頷く。
「オリバーは、向こうの奴らが何か仕掛けて来るだろうから、それに備えててくれ。」
オリバーが静かに頷く。
「で、後半はオリバーも漕ぐ。俺かガイルと交代だ。休んでいる方が魔法担当。」
「わかった」
オリバーがさらに小さな声で言った。
「じゃあ、今度はこちらが確認させて。向こうが風で来るだろうから、その時は風をぶつける。水球を投げてきたら、こっちも投げる。」
「そうだな」
レオは力強く頷いた。
「研究者みたいだな」
ガイルが感心して呟く。
「完璧な作戦! よっしゃあ、いくぜ!」
「おう!」
三人で拳を突き上げた。
――スタート――
順番が来た。
ボートを並べ、三人で乗り込む。
ピストルが上を向く。
パアーン!
一気に漕ぎ出す。
スタートダッシュはいい感じだ。
「いち、に! いち、に!」
レオとガイルが声を揃える。
オリバーは後ろで風を水面すれすれに滑らせる。
水が押され、ボートがすっと前に出る。
いいぞ。先頭だ。
だが、その瞬間――
ドカン!
後ろから風がぶつかった。
ボートが大きく揺れる。
「狙ってきたな!」
レオが叫ぶ。
「いきます!」
オリバーが風を撃ち返す。
ドカン!
相手のボートもぐらついた。
だが――また風が来る。
「え?」
オリバーが振り向く。
二人だ。向こうは二人で魔法を撃っている。
「やばい!揺れすぎだ!」
ガイルが叫ぶ。
「転覆するぞ!気をつけろ!」
レオも大きい声を出す。
――思わぬ風――
……今年、みんなで頑張ってきたのに。
去年と同じはイヤだ。
風、強く吹け。
吹け。
そう思った。
思った――と思う。
胸の奥が、ぎゅっと熱くなる。
気がついたら、ボートの周りで風が渦を巻いていた。
水面が盛り上がる。
風がその周りを包む。
まるで見えない膜が、
ボートを持ち上げたみたいだった。
しまった。
こんなつもりじゃ――
止めないと。
止めないと。
どうしたらいい?
レオがこっちを見る。
……止め方、わからない。
言いたくても声が出ない。
首を横に振る。
ごめん。
その瞬間――
ボートが大きく傾いた。
「うわっ!」
ザバーン!
三人は湖に投げ出された。
――水の中――
冷たい。
顔を上げる。
「ぷはっ!」
オリバーが息を吸った。
「おい!大丈夫か!」
レオが水をかきながら叫ぶ。
「大丈夫!ボートつかまれ!」
ガイルが笑っている。
三人ともびしょ濡れだ。
岸の方から声が聞こえる。
「転覆だー!」
「大丈夫かー!」
先生たちも見ている。
でも、危険ではない。
ただの大騒ぎだ。
レオがボートを叩いた
「くそー!」
そして、ぷっと笑った。
「やっちまったな!」
ガイルも笑う。
「今年も派手だなあ!」
オリバーだけ、笑えなかった。
――俺たちやるじゃん――
岸に戻ったあと。
ガイルが腕を回す。
「はあああ。まじ疲れた」
レオも笑いながら言う。
「しゃーない。俺たち頑張ったよ」
少し沈黙。
オリバーが言った。
「……ごめん」
レオとガイルが見る。
「自分のせいで転覆した」
言葉が重く落ちる。
ガイルは首をかしげた。
「え?」
レオは少し黙ってから大きく息を吐く。
「ふーーー」
そして顔を上げた。
「来年はもっといい作戦立ててやる!」
オリバーが驚く。
「もっと上の順位になってやる!」
ガイルが拳を上げる。
「おう!当たり前だろ!」
レオも拳を出す。
「俺たちだもん!」
三人の拳がぶつかる。
また円陣ができていた。
……助けられた。
レオは絶対気づいていた。
風が暴走したことに。
でも、何も言わなかった。
オリバーは黙ったまま、レオの背中を見つめた。
――独り言――
「感情が高ぶると、強い風が起きるのは、まだ仕方ないですね」
ノア先生が小さく呟く。
「……風、ですか」
ふいに後ろから声がした。
振り向くと校長が立っている。
湖を見ながら言った。
「少し違う気がしますがね」
湖面を渡る風。
トンボが飛んでいる。
ナツアカネはいつの間にかアキアカネに変わっていた。
太陽の光はまだ夏のようでも、
季節は確実に進んでいた。




