第43話 それぞれの形
晩夏の熱は、まだ本気だ。
汗を流しながら、それでも手を止めない理由は、人それぞれ違う。
同じ課題に向かっていても、
同じ形になるとは限らない。
それでも――
同じ輪を、くぐる日がある。
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――合格前の意気込み――
最近、放課後の校庭に残る生徒が増えた。
砂地のグラウンドは、まだ真夏の熱を抱えたままだ。
夏あかねが群れで飛ぶ。
今日は風がない。
立っているだけで、自分の吐く息さえ熱く感じる。
汗だくになりながら、水球を作る。
西陽が砂を照らし、照り返しが目に刺さる。
「クソ。暑い。」
レオが額の汗をシャツで拭う。
「俺たち何でこんなに真面目?」
ガイルは目に入る汗を肩でこすった。
「そうはいってもさ、上手になったじゃん」
砂の上に置いたフラフープに入れることは、三人とも出来るようになっていた。
秋までに出来ればいいと言われた課題。
だが明日の授業で、立てかけたフラフープに通せば合格だ。
「もう出来る気しかしないけどな」
レオは得意げだ。
「俺も。」
「ガイルはどうかな?」
レオが冷やかす。
「まあ、出来なくてもまだ夏だから!」
ガイルが快活に笑った。
見た目は空中を派手に移動させる方が難しそうなのに、
本当に難しいのは、砂すれすれを一定に運ぶことだった。
出来た水球を風で包み、
お椀に乗せたまま揺らさず運ぶように。
シュッ。
スーッ。
「なあ、オリバー。どんな感じでやってる?参考までにさあ教えてよ」
少し考えてから答える。
「んー。お椀で運ぶんだけど、自分は……お椀を針の穴に通す感じかな」
「ごめん。なんもわかんないや。お椀を針の穴?」
……混乱させてしまった。
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――自分の水球が嫌いだ――
レオの水球はきれいだ。
表面はなめらかで、形も崩れない。
それに比べて、自分のは。
表面がわずかに波打ち、
どこか歪んでいる。
何度やっても、同じ形になる。
どうしてレオは、あんなに整っているんだろう。
どうして自分は、こうしか出来ないんだろう。
ぽつりと、こぼす。
「……レオは、きれいだよな」
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――形は関係あるのか――
「え?水球って形とか関係あるの?」
ガイルが本気で驚いた顔をする。
「フラフープに入ればいいだろ?」
レオが吹き出す。
「ガイル、いいこと言うなあ」
「だろ?」
「俺、まだ覚えてるぜ。ポヨンってなったオリバーの水球。あれ俺、何回練習しても出来ないんだ。」
「なんだよ。無い物ねだりか?」
三人で笑う。
違う形。
でも、同じ課題。
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――合格するんだ――
「俺が先だ」
レオが水球を作る。
きれいな、整った球。
ふざけた表情はない。
真剣そのものだ。
……そーっと。
水球は静かに進み、
そのままフラフープを通り抜けた。
「やりい!」
大きく跳ねる。
三人とも、無事合格だった。
抱き合って跳ね回る。
汗なのか涙なのか、もう分からない。
レオが突然泣き出す。
そんな奴じゃないはずなのに。
勝ったのに、それだけでは足りなかったのだ。
本当は、別の形を掴みたかったのかもしれない。
……泣きたいのは、こっちだ。
ガイルがオロオロしながら二人の背中をさする。
けれど自分まで泣き出してしまう。
三人が騒いでいる。
その横でノア先生が、
オリバーの水球を少し見る。
表面が少し揺れている。
先生は小さく呟く。
「……やっぱりか。」
でもそれ以上は言わなかった。
晩夏の風が、ひとつ吹いた。
三人の水球は、それぞれ違う形をしている。
けれど、同じ輪をくぐった。
自分の水球が、これでもいいのかもと思えた。
その日から、レオは時々聞くようになった。
「なあ、それどうやってる?」
オリバーはうまく説明できない。
それでもレオは、最後まで聞こうとする。
夏あかねが、静かに空を横切った。




