第41話 安定しない正解
揺れています。
まだ、完成していません。
でも、止まってもいません。
第41話「安定しない正解」。
よろしくお願いします。
――新たな試み――
去年は風魔法を学び始めた。
今年は、水と風を混ぜる。
単純に見えて、厄介だ。
「ふーむ。別の方法が良いですかねえ。」
ノア先生は、いつも通りの水球を作った。
透明な球体。
それを地面すれすれに浮かせる。
砂に触れそうで触れない高さ。
そのまま、すう、と横へ滑らせた。
五メートル先のフラフープ。
パシャリ。
正確に、輪の中央。
「この輪の中に入れるようにしてみましょう。」
ざわめきが広がる。
「今までみたいに役割分担じゃないのかよ」
「一人で両方?」
「高さがシビアすぎるだろ」
水と風。
どちらかだけでも難しい。
それを同時に。
しかも、落とさず、揺らさず。
――レオ、やってみる――
「俺、行く。」
レオが前に出る。
水球を作る。
…いつの間にあんなにきれいな形。
地面すれすれまで下げる。
そーっと。
そーっと。
慎重に、慎重に。
グラッ。
砂に触れた。
パシャリ。
水が崩れる。
「おしい。」とガイル。
レオは舌打ちしかけて、やめた。
「これ、今までのとは別の難しさがあるぜ。」
悔しそうに笑う。
止めることはできる。
でも、止めたまま進ませるのは、違う技術だ。
水は重い。
風は気まぐれだ。
――オリバー、やってみる――
水球を作る。
表面を、薄く張る。
膜のように。
先生の膜は厚みがあって弾力もあった。
自分の水球は完全な球体ではない。
ほんの少し、柔らかい。
地面すれすれまで下げる。
低い。
怖い高さ。
そこへ、風を添える。
包むように。
お椀のように。
シュッ。
スーッ。
進む。
揺れている。
わずかに、震えている。
風が、ぶれた。
……あ。
落ちる。
そう思った。
でも。また風が吹いた。
ポヨン。
水球は弾んだ。
砂に触れかけた膜が、しなる。
一度、浮き上がる。
ワンバウンド。
そして。
フラフープの中で、もう一度。
パシャリ。
静寂。
一拍遅れて。
「すげー!今の見たか!?」
レオの声が割れる。
「入っちまったぞ!バウンドだ!」
ざわめきが爆発する。
ガイルが肩を叩く。
強い。
イッタイ。
でも。
顔が、勝手に緩む。
――安定しない正解――
少し離れた場所で。
ノア先生は、目を細めていた。
揺れている。
だが、崩れない。
安定はしていない。
だが、落ちない。
風は止まらない。
止めるものではない。
扱うものだ。
ノア先生は小さく息を吐いた。
「安定しない正解、ですか。」
誰にも聞こえない声で。
――負けたくない――
その日の夜。
裏庭で、水が何度も弾けていた。
レオだ。
完璧な円。
ぴたりと止める。
それを、わざと揺らす。
崩れる。
舌打ち。
もう一度。
「……ぐにゃって、戻れよ」
呟きながら、繰り返す。
できない。
でも。
やめない。
夜風の中、水音が続く。
――安定しないを褒める――
揺れている。
でも、壊れない。
それが、オリバーの正解だった。
まだ未完成で、
まだ安定しない。
胸の奥が、まだ揺れている。
怖さでもなく。
後悔でもなく。
何かが、ほどけるような揺れ。
たまには――
頑張った自分を、
素直に褒めてもいいのかもしれない。
そんな気分は、
本当に、久しぶりだった。
それでも。
完成しなくても、前へ行ける。




