第40話 レオの白鳥祭り
祭りの夜は、にぎやかで。
笑い声と太鼓の音と、甘い匂い。
でもレオは、
ひとつだけ、見てしまいました。
姉の、知らない横顔を
――仕方ないからみんなで――
結局今年は、俺と姉ちゃんと、オリバー、ジャック、ガイルで行くことになった。
なんでガイルが一緒かはわかんないけど。
来たいなら、くればいい。
ジャックは姉ちゃんになついてる。可愛い。
俺もこんな弟が欲しいくらいだ。
ヤンチャで手がかかるけど、目が離せない。
――おかしいだろ――
でもさ。姉ちゃんも、ほんと外ヅラいいよな。
ジャックには、優しい。
ウチの中とは大違いだ。
俺、確かに世話になってるよ?
でもさ、あんな顔、向けられたことないぞ。
「姉ちゃん、ジャックには優しいな」
そう言ったら、
「ジャックは可愛いもんね」だってさ。
フン。
祭りだからって、めかし込んじゃって。
髪の毛もリボンと一緒に編み込んである。
ずいぶん前から練習してたの、知ってるぜ。俺。
オリバーまで姉ちゃん見て、なんかいつもと違うし。
ガイルなんて「手、つないでもらっていいですか?」だと?
何だよお前ら。
よく見ろよ。
――男のロマン――
あ、山車だ。
今年の白鳥の飾り付けもきれいだな。
父さん達、がんばったんだな。男のロマンを感じるぜ。
太鼓隊が来た。
腹に響く音。
これ、シビレる。
――屋台でチェロス――
「姉ちゃん。なんか食べたい」
「何がいいかなあ」
「あれ。チェロス。美味しそう」
「ひとり一個なら足りるね。買おっか」
パリッ。
甘い匂い。
みんなでかじる。
悪くない。
――風――
ふわりと風が吹いた。
姉ちゃんの羽飾りが揺れる。
その瞬間、オリバーと目が合った。
姉ちゃんも、一瞬だけ、オリバーを見る。
……なんだ?
次の瞬間、ドッと夏の風が林を揺らした。
強い。
羽飾りが大きく揺れて、
ふっと、空へ浮いた。
「あっ」
オリバーが手を伸ばす。
けど、風は逆に流れる。
羽は、するりと別の方向へ。
結局、走って拾う方が早かった。
なんだよ。
さっきから、目線だけが行き交ってる。
「ジャック、美味しい?」
姉ちゃんは、もう何もなかったみたいな顔だ。
――花火――
ヒューー……パァン!
夜空に花火が開いた。
赤。黄色。青。
みんな一斉に上を向く。
「わああ!きれい!」
ジャックの声。
色が、みんなの頬を染める。
でも。
姉ちゃんは、少しだけ横を見ていた。
遠いほう。
誰だ?
俺は花火を見ながら、
つい、そっちを探してしまう。
でも次の花火が上がって、
もう分からなくなる。
――眠いよ――
「お兄ちゃん……」
ジャックが目をこすった。
「俺がおんぶするよ」
姉ちゃんから受け取る。
「いいのに。かわるよ」
「疲れたらな。俺のほうがチカラあるし」
背中に、あったかい重み。
オリバーは俺の隣で、ジャックの寝顔を見ている。
いつもの顔だ。
ガイルは、なぜか姉ちゃんの隣。
……この野郎。
まあ、姉ちゃんが誰といても、いいけどさ。
いいはずなんだけど。
胸の奥が、チリッとする。
俺たち、まだ小学部だ。
先のことなんて、分かんない。
でも。
なんか、納得いかない。
夏の風が吹いた。
遠くで太鼓が鳴る。
星が、瞬いていた。
姉ちゃんの横顔は、
俺の知らない顔だった。




