第38話 浮かぶ水球
オリバーはまだ、水球を完璧に操れない。
でも、少しずつ感覚をつかみ、先生や仲間のやり方を見ながら、自分の風と水球を合わせる楽しさを知っていく。
今日は新しいチャレンジの日。小さな発見と遊び心に包まれて、放課後の時間が静かに広がっていく。
―今日も、浮かべる―
手のひらに、水球を浮かせる。
息を整える。
風を、そっと。
シュッ。
スーッ。
水球は揺れる。
指先で膜の感触を確かめる。
表面は膜なのに、わずかに波打つ。
少なくとも、自分の水球はこの触り心地だ。
でも、先生の水球を見ると、真球だ。
見た目の違いだけで、思わず気後れする。
思わず指をひっこめた。
ノア先生がふっと笑った。
「外から固めるのではなく、中を整えるんですよ」
風が静かに震える。
―紙のアイデアを試す―
オリバーは紙に書いた項目を見る。
「膜の厚さ……均一か……衝撃の逃がし方……包むと押すの違い」
「たくさん考えましたね」
ノア先生も、なぜかうれしそうだ。
深呼吸。
手に風を集める。
浮かべた水球をそっと包む。
シュッ。
スーッ。
昨日より長く、揺れも少ない。
「おお!」
レオが声をあげる。
「なるほど、少し変えただけで安定するんだな!」
ガイルも目を輝かせる。
「ほんとだ、すごく落ち着いてる!」
オリバーは小さく笑う。
まだ完璧ではないけれど、自分のアイデアが形になっていく手応えがあった。
―先生の遊び――
ノア先生はふと、浮かぶ水球に小さな葉っぱを閉じ込めたり、池の水で作った水球を手元まで運んだりして、楽しそうに実験を見せる。
「どうですか、浮かんだ水球も守られているでしょう」
「形は、あとから整います。押さなくていい、包むだけです」
レオとガイルも目を丸くして見入る。
「えっ、葉っぱまで入れられるのか!」
「水って、こんなふうにもなるんだな!」
―守られたお茶――
「喉が乾きましたね。お茶を飲みましょう」
オリバーは、机の上に置かれたコップを見つめる。
小さな水球の中に、ほんの少しのお茶が守られている。
恐る恐る触れると、膜の厚みや弾力が手に伝わった。
「うん……守られている」
微かに笑みがこぼれる。
ちょっと自分の膜とは、少し違う。
厚み、弾力、……微妙で、言葉では表せない感覚。
―今日も、浮かべる――
小さく揺れる水球と、仲間の顔を目の奥で見つめる。
オリバーは心の中でにっこりする。
昨日より少し、上手くなった。
風が、水球を守る。
自由な形。
今、何かを教わっている――。
次に自分の風。
強くなくてもいい。うまく。
もっと遠くまで運んでみたい。
小さな目標が、胸の奥で芽生える。




