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臆病な魔法使いは、失敗しないように生きている 〜小学部編〜  作者: 南山


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第30話 立っているだけ


雪合戦以降、クラスメイトが少しずつ話してくるような感覚がオリバーにはある。


「オリバー、宿題やってきた?」

「よく分かんないんだけど、教えてよ」

「お昼、うちらと一緒に食べないか」


話しかけられるたびに緊張する。

背中や目の奥にビシッと電気が走る。


隣のレオが「おう。宿題?やってきたぜ」

「俺もよく分かんないんだけど、どこまでできた?」

「昼飯。いいねえ。ここで食べる?」

などと返事を受け持ってくれる。


正直、助かる。

自分だけなら、あ…。とか、う…。とか言ってるだけかもしれない。

緊張はするけど、気恥ずかしい位で済んでいる。

自分がクラスに馴染め始めているのか と錯覚しそうだ。


2時間目は体育だ。みんな体育館へ移動する。

途中まで歩くが忘れ物を思い出した。

「レオ。ちょっと行ってて。すぐに戻るよ」


教室には誰もいないはずだった。

でも、ルーカスが キョロキョロしながら教室の前の方にいた。



なんだろう。

胸の奥が、ざわりとする。


何か、悪いことのような。


見てはいけないもののような。



自分の口を押さえて咄嗟に隠れた。


だめだ。

ここにいてはいけない。

本能がそういった。


そっとダッシュで体育館へ向かう。

「どうしたの?オリバー。これから体育なのにもう走ったの?ものすごく息が荒いよ」と言われたけどハアハアと頷くしか出来なかった。


それ以降の授業は何をしたのかまるで思い出せない。


ただルーカスが、何をしたんだろう?何か良くないことだったならどうしよう。そればかり考えていた。


授業の最後にさようならの挨拶をした後、ノア先生が机の引き出しを見てつぶやいた。「あれ?給食費がありませんねえ。おかしいなあ」

そう言って教室を出て行った。


教室が静かになる。

その次に ザワ…ザワ…と 話す声。


喉がかわく。

給食費? ルーカスが?まさか。でも。


そばにいるルーカスは下を向いている。

そっと「大丈夫?」とささやくが、ルーカスはうつむいたまま。緊張した顔をしているだけだった。


言えないのか…そう思うと自然とオリバーまで下を向いていた。


「誰も教室にいなかったのは、体育の時かなあ」誰かが言った。

急にみんながこちらを向く。


誰も何も言わない。

目線だけが向けられている。


疑われている。


さっきまでの賑やかな雰囲気はどこかに消えた。

重苦しい空気があった。


ガイルが「オリバー?違うだろ?」と一笑にふす。

レオは「何だよ。みんなそんなふうに思っているのか?」とやや感情的な声を出す。


「何とか言えよオリバー。」


自分じゃない。でも、それを言ったらルーカスが。

ルーカスが、とは言えない。

何か理由があってのことだろう。


震えている。

声を出せば、きっと裏返る。


それでも、足だけは動かなかった。


言い訳をすれば、自分を守れるかもしれない。


誰かを責めれば、疑いは消えるかもしれない。



でも、それは違う気がした。



立っている。

何も言わずに、ただ立っている。


それだけなら、

自分にも出来ると思った。


レオとガイルが自分を信じてくれている事に嬉しくなる。


ガララ。


ノア先生が突然入ってきた。

「おや。みなさん。まだ教室にいたのですか。早くお帰りなさい。」

「あの…給食費が…」

「ああ。すみません。給食費は職員室にありました。私もウッカリしてました。大丈夫です。」


その言葉で、教室の空気が一気にゆるんだ。


そうだったのか。


「そうなんだああ。」

「なんだあ。良かったあ。」

「オリバー。疑ってごめんな。許してくれ」

オリバーの前まで来て頭を下げる子でいっぱいになる。


「え。じゃあ。ルーカスは。なんで」言葉が出てこない。


「なんだよ。やっぱオリバー、あの時見てたのか。

恥ずかしいじゃんか。

…あれは、…だって。エマにお手紙を…。」


「どう言うこと?」

事態が良く飲み込めない。


レオがポンと手を打つ。

「あ!お前。エマの机にラブレターをコッソリいれてたんだろう」

モジモジして、下ばかり向いていた。


「…もうすぐ、あれだろ。チョコ欲しいじゃんか」


真剣なルーカスと同じくらいエマまで真っ赤になる。

みんながエマを見る。

「私。別に好きな人がいるの…」


ノア先生は、ちらりとオリバーを見てから、小さくウインクをした。

――分かっていましたよ、とでも言うように。



「青春ですね。今年は 私公認で学校に義理チョコを持ってきていいことにしましょう。その代わり、クラス限定ですよ」

男性生徒は大喜びの歓声を上げた。


レオとガイルが寄ってくる。


「お前らしいな。

そういうとこ、俺は嫌いじゃない。」


少しだけ真顔になって、


「でもな。

自分のことも、ちゃんと守れよ。

俺たちは信じてる。でも、お前も自分を信じろ。」

「オリバーのおかげで今年はチョコが食べれるぜ」


みんなと同じくらい、大きな声で笑えた。


胸の奥の固いものが、少しだけ溶けた気がした。




自分も、

ここにいていいのかもしれない。



風は、思いのほか優しかった。



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