第28話 足りない風
校庭の北側、一年の陣地。
三人で作った迷路型のカマクラは、形だけは悪くなかった。大会前日には、固くする予定だ。
「右、空く!」
雪玉が壁を削る。
レオが前へ出る。
ガイルが援護に走る。
オリバーは崩れた箇所を直す。
だが——
「旗が無防備だ!」
三人が同時に動いた瞬間、背後が空く。
雪玉が旗をかすめた。
レオが低く言う。
「……広いな」
ガイルが息を吐く。
「三人で全部やろうとしてる」
オリバーは校庭を見渡した。
広さに対して、動線が足りない。
守り。補給。陽動。修復。
人数が足りない。
その時だった。
「お前ら、それ三人でやってんのか?」
振り向くと、クラスメイトが数人、雪を固めていた。
「迷路型、面白そうじゃん」
レオが少しだけ黙り、そして言った。
「……一緒にやるか?」
一瞬の静止。
次の瞬間——
「入れてくれ!」
「俺、守りやる!」
「玉運ぶの任せろ!」
気づけば人が集まっていた。
十人。
オリバーは戸惑いながらも口を開く。
「前線三人。補給二人。守り三人。修復二人……」
自然に役割が決まる。
動き出す。
さっきまで空いていた右側が埋まる。
玉が途切れない。
陽動で敵が揺れる。
流れが、回り始める。
三人では足りなかった。
だが、十人なら形になる。
その感覚が、はっきりあった。
――――
大会当日。
二年の陣地は、明らかに完成度が違った。
壁は前日からあぶられ、凍結で固められている。
配置も計算されている。
だが——
自分たちも、やれる準備はやった。
「玉、こっちに!」
「そっちは二年の陣地だ!壊すと失格だぞ。気をつけろ!」
「陽動いけ!」
ダミー壁に雪玉が集中する。
その隙に、レオが走る。
迷路を抜ける。
旗まで、あと数歩。
「いける!」
誰かが叫ぶ。
だが最後の壁が崩せない。
固い。
時間が足りない。
雪玉の雨が降る。
終了の合図。
敗北。
しばらく、誰も動かなかった。
それから、誰かが笑った。
「惜しかったな!」
「あとちょっとだったろ!」
本当に、あと一歩だったのか。
実際はわからない。
上級生は、まだ余裕があったのかもしれない。
それでも——
旗の手前まで行けた。
迷路は通じた。
作戦は崩れなかった。
三人では届かなかった距離。
十人で、届きかけた。
「くそう!」ガイルが叫ぶ。
「悔しいな」レオが笑う。
「今度は、違う作戦を試そう」
「でも、オリバー、いい指示出しだったぜ」
「レオだって、いい走りだったよ」
「俺の投げは?すごかっただろ?」
「…次は、何する?」
「おーい!」
笑いが止まらない。
こんなに多くの声と一緒に悔しくて、笑うのは久しぶりだった。
誰も責めない。
ヒュッ。
喉が締まる。
オリバーは首を振る。
それでも——
今は、この風でいいと思えた。




