第26話 星降る夜に
木枯らしとともに雪もちらちらと降る。もう雪も珍しくもない。
帰り際、先生が言った。
「明日は女神様の日ですね。今晩は獅子座流星群がよく見えるそうです。雲も少ないとか」
「ええー?流星群ってなんだ?星?」
「せっかくだし。みてみたいなあ。なあ、オリバー?
この間、オリバーんちの牛小屋で寝ちゃったんだ。藁の中あったくてさ。そこで今日見ようぜ」
「いいねえ!」
夜見る約束をしてしまった。
星はプラネタリウムでなら、よくみた。
ここでは夜真っ暗で、怖くて空を見上げたことがない。
少し楽しみだ。
ジャックは「いいなあ。僕も!」と言って当たり前のように参加してきた。
暗くなり、レオもガイルも牛小屋に集合した。
父が2階から藁を多めに準備してくれたから藁の山はいつもに増して大きい。
各々藁に入り込む。
「俺、母さんがおにぎり持っていけって」
「俺んちは、干し柿持っていけって」
みんなでワイワイとおしゃべりする。牛もモウウウと時々参加。
ランタンは暗さに目が慣れるために遠くに置いたからほの暗い。
気がつくとジャックは最初こそ大騒ぎだったが、すぐに船をこぎだした。
そっと藁を上に足す。
「星なんて、ろくにみたことないよ」
「俺だってそうさ。でも、外は寒いけど、やっぱここはあったかいなあ」
「何だか楽しいぞ。一生のうちの第一回目だけど。星なんて見えなくてもいいな。」
なんてガイルとレオは話をしていたが、突然レオが叫んだ。
「おい。この牛、なんか変だ。へたりこんでる!オリバーの父さんを呼んだ方がいいぞ!」
「わかった!呼んでくる」
急いで父さんを連れてきたら、父さんはのんびりと返事した。
「今日かあ。お前ら。いいものが見られるぞ。牛の出産だよ。そろそろと思っていたんだ」
牛は座り込んでいて鳴きはしないが息は荒く、この寒さなのにじっとり汗をかいている。
母牛が大きく息を吸い込み、力を込めた。
次の瞬間、ぬめりを帯びた仔牛が、ずるりと姿を現した。
「……生まれた」
湯気の立つ体が、かすかに震えている。
父が乾いた藁を差し出した。
「拭いてやれ」
おそるおそるオリバーが仔牛の方へ行く。
仔牛が、ぷるりと足を伸ばした。
「立て……立てよ」
息が止まる。
仔牛がプルプルとした足で立ち上がった。
そのまま母牛の所へ行き乳を飲み始めた。
三人は、止めていた息をゆっくり吐いた。
「やったな。」
「どんどん飲めよ」
「俺たち、応援するぜ」
「おじさん。名前つけていい?」ガイルはもう父親気分だ。
「おお。いいぞ。かっこいいのにしてくれ。母牛はレディーって名前だ」
「素敵だね」とレオ。
「じゃあ。レディージュニア ってどう?」
「ガイル。それは安易だな」
「…安易かも」
「おい。それより星、見たのか?なんか見えるぞ」父さんが夜空を見上げる。
みんなすっかり牛に夢中になっていた。
「見てみようぜ。あー。小屋の外はやっぱ寒いな…。あっちの方向かな」
「……流れた」
夜空を、細い光がひとすじ走った。
誰もすぐには声を出さなかった。
「あ。流れてる」オリバーがまた呟く。
夜空いっぱいに星が流れていた。
こんなに糸を垂らすように光が動くものなのか。
三人は呆然とみとれた。
「すげえ。」
「おい。ジャックを起こせ」レオは我に返った。
ジャックが目をこすりながら空を見上げると「うわあああああ!」と歓声を上げた。
「うるさいぞ」ガイルがたしなめる。
「だって」
「見れてよかった…一生のうちの第一回目だけど。私忘れない」
レオも「俺だって」と即座に言った。
「ジュニアも生まれたし。俺も忘れない」
「何それ?」
「ジャックはよく寝てたもんなあ」
四人は笑い合った。息が白い。
「来年も流星群来るんだろ?見たいなあ」
オリバーはみんなの目を見ながら「…いいねえ」とおずおずと言う。
「いいねえ。」
「やったー!約束だあ」ジャックは跳ねた。
星はまだ流れている。
一晩にいく筋も糸を垂らしながら。
今年の流星群は、ゆっくりと夜に溶けていった。
誰の胸にも、まだ残っている。
また喜べることがある。
それが、うれしかった。




