第24話 あたたかくなる指
秋風が、凍える冷たさになってきた。
マフラーが必需品になった。
手袋は、オリバーのつけるサイズのものがない。
ジャックにお下がりに渡してしまった。
「大丈夫。そんなに気にしないで」
母さんは申し訳なさそうな顔をしたけれど、実際もう小さかったのだからいい。
ポケットに入れていればいいのだから。
教室のストーブは暖かい。
窓ぎわだけれど、十分だ。
今日の授業は火の魔法。
生徒とノア先生、校長先生は体育館へ集合した。
「外は寒いので、ここで行います。ですが火事には注意です。大人の者と一緒のときのみ、魔法を扱ってくださいね」
「はい!」
「いい返事ですね。今年の一年生は。嬉しいですな」
校長先生がにこにこと言う。
「おっと。十数年前の一年生もいい返事でしたな」
「もう、校長先生。時効です」
くすくすと笑いが起きる。
「さて、みなさんにはろうそくに火をつけていただきます。
目標物があるとやりやすいのです。小さな炎でよいのですよ。
では、やってみましょう」
ノア先生が見本を見せる。
「我が親愛なる精霊よ。集え、炎よ」
周囲の微かな風が止まる。
まるで世界が、その小さな火が灯るのを待っているように。
静止が訪れた。
「灯火となれ」
空中に熱が集まる。
どこからか、乾いた薪が燃える芳醇な香りが漂う。
冷えた空気がやわらぐ。
ろうそくの芯もロウもないのに、直径一メートルはある炎が空中に浮かんでいた。
「すげえ……どういうこと?」
「でかい」
「何が燃えてるの?」
「暑いんだけど」
子どもたちは、寒さを忘れて見惚れる。
「相変わらずです。本当に感心しますね」
校長先生が感心したように言う。
「ありがたきお言葉です。さあ、みなさん」
順番に実践が始まった。
レオは、みんなと同じようにろうそくに火を灯した。
自分もできるだろうか。
詠唱を始める。
「……集え、炎よ」
風がやむ。
ろうそくの周囲の空気が集まる感覚。
ぽっ、と小さな炎が生まれた。
――よかった。できた。
炎を見つめる。
揺れる。
その形が、一瞬、細長く見えた。
……あの目に、似ている。
そう思った途端、空気が冷えた。
足元の空気が圧を持つ。
ろうそくの灯が消えた。
やってしまった。
手が、冷たい。
足元を見る。この場所は、どかないと。
ふらふらと歩く。
次の生徒の詠唱が聞こえる。
「できた? ちっさいけどー」
「俺もできたぜ」
気がつくと、レオの前に立っていた。
レオが目でうなずき、肩をぶつけてくる。
オリバーは、うなずくだけ。
レオはありがたい。いつも思う。
ノア先生が、そばに立っていた。
先生は、練習している生徒たちを見ている。
「成長とは、螺旋なのです。ゆきつ戻りつ。でも良いのです」
わかっている。
でも。
その言葉は、胸の奥まで落ちてこない。
「この魔法は暖かくて良かった!」
ガイルが大きな声で言った。
レオもオリバーも、思わず笑ってしまう。
「なんだよ。本当のことだろ。
で、これの放課後練習は? やるんだろ?」
レオははっとして、ノア先生のもとへ走る。
もちろんオリバーも、ガイルもだ。
寒いのに、寒くなくなる感覚。
ポケットの中で、さっきまで冷たかった指先が、少しだけ温かかった。




