第21話 ボートなんて、なんとかなる
ボートなんて、初めてだ。
でも湖は浅いし、足もつく。沈んだって歩けばいいだけだ。
毎年やってる行事なんだろ? だったら、なんとかなるに決まってる。
チームは、レオとオリバー。
レオは明るくて話せるやつだ。オリバーは……なんていうか、静かで、少し考え込んでいる。風魔法はやたら速く上手いのに、いつも曇った表情をしている。
なんでレオがあいつとよくいるのか、正直よく分からない。……ついでに言うと、なんで俺もこの三人にいるのかも、よく分からない。
でもまあ、いい。なんとかなる。
「いくぞ!」
合図と同時に、ボートが水を切る。
俺は真ん中に座り、思いきり漕ぐ。
ぐい、ぐい、ぐい。
速い。絶対速い。見てろよ、上級生!
――と思った瞬間。
横から風が叩きつけてきた。
「うわっ!」
船体がぐらりと揺れる。
なんだよそれ!正面から来いよ!
でも、次の瞬間、傾きが少し戻る。
オリバーだ。
手をかざして風を流す。顔は真面目すぎるくらい真面目だ。
「いいぞ!」
俺はまた漕ぐ。とにかく漕ぐ。
だが、二発目。
さっきより強い。船底が持ち上がり、水がばしゃっと入る。
「やば――」
言い終わる前に、視界がひっくり返った。
冷たい水。耳の中まで湖の音。
ぶはっと顔を出すと、レオとオリバーも浮かんでいる。
一瞬、目が合って――
三人とも、笑った。
「やられたな!」
いや、笑ってる場合じゃない。急げ急げ。
ボートをひっくり返して押し、よじ登る。水が重く、服も重い。それでもまた漕ぐ。
漕いで、漕いで――
ゴールに着いたときには、どう見ても最下位だった。
……まあ、仕方ない。
湖畔では、クラスのやつらが笑っている。
俺たちもびしょ濡れだ。雫がぽたぽた落ちる。でも天気はいいし、寒くもない。
「やっちまったなー」
俺が言うと、レオが笑う。
その横で、オリバーは少し静かだった。
怒ってるわけじゃない。でも、どこか引っかかっている顔。そして、小さな声で言った。
「来年は……転覆対策、考えよう」
来年? 今、もう終わりだろ? 俺は思う。レオは目を丸くして、
「なるほど。その通りだな」
と、うなずいた。
……え、俺だけ置いていかれてないか?
来年ってことは、またこの三人で出る前提? いや、別に嫌じゃないけど。
でも、あいつらは、もう先を見てる。
俺は今しか見てない。
濡れた服を絞りながら空を見上げる。
まあ、いいか。
来年、対策ってやつをやるなら、そのときは俺が一番速く漕いでやる。難しいことはよく分からないけど、なんとかなるだろ……たぶん。
「やらないといけないこと、増えちまった。くそう、柿も食いてえしな」
レオが呆れて言う。
「お前、ほんとそれ好きだな」
オリバーは苦笑いだ。
「……悔しかったんだろ」
「……まあな」
レオは小さく肩をポンと叩く。
レオもオリバーも笑う。
「俺たちも、まだうまくできないんだ。一緒にやろうぜ」
食べて遊んで、少しずつ強くなる。それで十分だ。




