第18話 呼ぶって、約束しただろ
川の水は、まだ夏の温度を残していた。
「逃がすなよ、ジャック!」
「わかってるって!」
ばしゃん、と大きな水音。
俺は笑いながら、網を構える。
オリバーは少し下流で、静かに石を積んで流れを読んでいた。
「そこ、来るぞ」
落ち着いた声。
次の瞬間、銀色の影が跳ねる。
「よっしゃあ!」
捕まえたのは、なかなか大きいマスだった。
三人で川原に上がる。
薪を集め、火を起こす。
ぱちぱちと燃える音。
焼ける匂い。
煙が青空へ伸びていく。
晩夏の空は高い。
「学校、楽しそうなあ。いいなあ。僕も早く学校行きたいな」
ジャックが唐突に言う。
枝を振りながら、詠唱の真似をする。
「集え、風よ! 僕の敵を――」
「やめとけ」
オリバーが即座に止めた。
「火、あるだろ。危ない」
真面目かよ、と俺は笑う。
でも、ちょっと思う。
こいつ、最近なんか落ち着いた。
前は、風が漏れたり、変に焦ったりしてたのに。
この前の授業も、きれいに決めたしな。
「僕さ、父さんと同じ風属性がいい」
ジャックが言う。
「空、飛びたいし」
「飛べねえよ、まだ」
俺は笑う。
「俺は土がいいかな。堅実そうだし。城壁とか作れたら、かっこよくね?」
「レオは騎士だろ」
ジャックがにやにやする。
「剣も魔法も使えるやつ」
俺は少しだけ本気で言う。
「なりたいよ。騎士。剣も魔法も使えてさ。山の怪物とか倒すんだよ」
遠くに見える山を指さす。
「あそこ、怪物いるって噂だぞ」
「まだ小学部一年だぞ、俺たち」
ジャックが笑う。
「中学部三年卒業まで、あと九年もある」
「でもさ」
俺は魚をひっくり返しながら言った。
「どうせ、普通に親父のあと継ぐのかな」
言ってから、少しだけ胸が重くなる。
静かになる。
ぱち、と薪がはぜる。
「オリバーは?」
俺は聞く。
「風、だよな?」
少し間があった。
「……たぶん」
あいまいだな、と思う。
でも、こいつは昔より迷ってない顔をしていた。
俺は山をもう一度見る。
「怪物、倒しに行こうぜ。将来」
半分、本気。
半分、冗談。
オリバーが小さく笑う。
「わかんないけど」
それから、俺たちを見て言った。
「山に行くなら、わた、、自分も行こうかな」
「だって、ケガしたら、呼ぶって、約束しただろ」
一瞬、言葉が止まる。
ああ。
こいつは、そういうやつだ。
強いとか、すごいとかじゃなくて。
先に、駆け寄るやつだ。
俺は笑った。
「その時は頼むわ、先生」
ジャックが大笑いする。
川の水が光る。
魚はうまい。
空は高い。
俺たちは、まだ子どもだ。
でも、未来の話をしている。
たぶん、何になるかはわからない。
親父のあとを継ぐかもしれないし、
怪物を倒すかもしれない。
でも一つだけは、なんとなくわかる。
山に行くなら。
危ないことがあったら。
きっと、あいつは来る。
晩夏の風が、川面を揺らした。
俺はそれを見ながら、少しだけ思った。
――たぶん、俺たちは、ちゃんと大人になる。
一緒に。




