表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
臆病な魔法使いは、失敗しないように生きている 〜小学部編〜  作者: 南山


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/48

第17話 今、風を選ぶ


今日の授業は、風魔法だ。


雲ひとつない空が高く広がり、残暑の光が校庭を照らしている。

地面には、等間隔に木の棒が立てられていた。


「今回は、うまくできると良いですねえ」


ノア先生が穏やかに微笑む。


「上手に風の精霊にお願いをします。具体的に願ってください。――“あの棒を倒して”と」


水は、目で見てわかる。

だが風は違う。


見えない。触れられない。

だからこそ、意識がぶれる。


前回は――


無意識に漏れた風を思い出してしまい、詠唱が止まった。

思い出に、引きずられた。


(今、に、集中)


順番が回ってくる。


オリバーは棒の前に立った。


自分と、棒。

それだけ。


余計なことは考えない。


息を吸う。


「我が親愛なる精霊よ」


足元の空気が、ひんやりと冷える。

草が、かすかに揺れる。


自分のまわりに、円を描くように。


圧力がかかる。

なのに、浮きそうな感覚。


体重が曖昧になる。


でも――立っている。


今、ここに。


「集え、大気のうねりよ。疾風となれ」


棒をまっすぐ見つめる。


棒を倒す。


それだけ。


指先を向ける。


どっ、と風が吹いた。


一直線に。


棒は、後方へ弾かれるように飛んだ。

草が大きく波打ち、すぐに静まる。


風は、止まった。


沈黙。


「……おお」


誰かの声が漏れる。


ノア先生が、にこにこと頷いた。


「よく出来ました。上手に制御できていましたね」


胸の奥が、じんわり温かくなる。


やった。


出来た。


「今」が、できた。


「やったじゃん」


レオが近づき、拳を差し出す。

コツン、とグータッチ。


頬がゆるむ。


その瞬間――


胸の奥が、かすかにざわついた。


(……でも)


うまくいった時ほど、次は失敗する。

今までは、そうだった。


油断すると、暴れる。

喜びすぎると、崩れる。


怖い。


また、漏れるんじゃないか。

風が勝手に吹くんじゃないか。


喉の奥が、少しだけ締まる。


……違う。


今。


棒は倒れた。

風は止まっている。

空は青い。

足は、地面についている。


深く、息を吸う。

吐く。


自分は、ここにいる。


今日は、うまくいった。


それだけでいい。


未来の失敗は、まだ起きていない。

過去の失敗は、今ではない。


今は――成功だ。


胸のざわつきが、静かにほどけていく。


レオが笑う。


「なんだよ、顔。にやけてるぞ」


「……うるさい」


でも、否定はしない。


怖くない。


今は、怖くない。


風は、ちゃんと自分のものだった。


青空の下、

オリバーはそっと拳を握った。


次も、きっと。


――今を、選べる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ