第13話 白鳥際の夜
「今日は祭りだろ。
行くだろ、レオ。
一緒に行こうぜ」
同級生が、レオを夏祭りに誘う。
「悪い。俺、姉ちゃんと行けって命令されてるんだ」
「じゃぁ、オリバー、行こうよ」
オリバーは、ドギマギしながら返事する。
「弟のお世話しないとなんだ」
レオは、こちらを向いて喜んで叫んだ。
「じゃぁ、俺がジャックの世話するから、オリバーが姉ちゃんと話しててくれよ。俺、苦手なんだ」
オリバーとジャックは、レオと、その姉と一緒に祭りに出掛けた。
ジャックは、キョロキョロと何を見ても楽しそうだ。
「あれ、なに?」
「ん?白鳥の羽飾りよ。
ジャックは、初めてなの?」
レオの姉さんは、ジャックの手をつないでいる。
レオがお世話をする予定だったが、姉がその役目を奪うように隣で喋っている。
「姉ちゃんは、よその小さい子には、ほんと、優しいよな。その優しさの半分も俺に欲しいよ」
悪態を言うレオに、負けず言い返す。
「なによ。レオも、かわいければいいのよ。」
「はい。はい。俺は、かわいくないですよーだ」
ふん、と鼻を鳴らすとオリバーの方をみて肩をすくめた。
姉弟のやりとりは、軽快で見てるほうは楽しい。
「たくさんの人だね」
「だね。」
ジャックが広場の一角を指で指す。
「屋台があるよ。ねえ。何か食べたいな。持って来たお金で足りる?」
「いっこなら大丈夫よ。」
「かう!」
「よし。じゃあ、ならぼっか。」
四人でかき氷の屋台に並ぶ。
レオの姉さんは、レオと、よくみると似てる。
でも、かわいい顔だちだ。目鼻立ちがくっきりしていて、数年後には、美少女になることが予想される類のそれだ。
でも、本人は鼻にかける事なく、というか自覚はなく、普通におしゃれに気を配っているように見えた。
頭は、清潔な髪を三つ編みで整えて、シンプルなリボンで留めてあるだけだった。でも、縛り方も凝っていて、きっと研究したことは一目瞭然だった。
服は恐らくは誰かのお下がりだろう。サイズがややあわず、スレンダーな体に服がフワフワと泳いでいた。
が、そんなことには、気にもとめず前を向くその瞳は、楽しげにあたりをみては、ジャックをみてはを、繰り返していた。
かき氷の屋台の前で、列が少しずつ進んでいた。
甘い匂いと、氷を削る音。
人の声が重なって、夜がにぎやかに揺れている。
オリバーは、無意識に隣を見た。
レオの姉さんが、ジャックの手を引いている。
身をかがめて、同じ目線で何かを話していた。
三つ編みにした髪の先で、
白い羽飾りが、かすかに揺れた。
――あ。
胸の奥が、きゅっと縮んだ。
……今のは、何だ。
きれいだ。
楽しい、だけじゃない。
言葉が出てこない。
一瞬、頭の隅をよぎる。
(俺、前は……)
すぐに、首を振る。
違う。
今は、子どもだ。
そう思った途端、
余計に、胸の奥がざわついた。
その瞬間。
ふわり、と。
白い羽飾りがまた、揺れた。
屋台の暖簾が揺れ、
削り終えたばかりの氷の紙が、ひらりと舞った。
誰かが言う。
「風。」
夏祭りのざわめきに、すぐ溶けていく声。
でも。
レオの姉さんだけが、
一瞬、顔を上げた。
視線が、オリバーの目をとらえ、すぐ、逸らされる。
視線が合った、気がした。
驚いたような、
でも、怖がってはいない顔。
次の瞬間には、
もう、ジャックの方を向いていた。
風は、もう吹いていなかった。
なのに、その表情だけが、
しばらくのあいだ、胸の奥で揺れていた。




