第12話 俺の子だもの。
「オリバー。父さんにお弁当、持って行ってもらえる?
父さん、白鳥祭の今年の山車を、みなさんと一緒にやってるから」
「わかった」
母さんは、大きな弁当包みをよこした。
もう、そんな時期か。
白鳥祭は、年に一度の村祭りだ。
広場では、屈強な男衆たちが山車を作っている。
毎年、白鳥の飾り付けがされる。
小さな子どもが、父親らしい大きな人に肩車されて、山車を見ていた。
「ねえ、なんで白鳥なの?」
「白鳥座は、天の川の真ん中を飛んでいくだろう。
力強さのシンボルなのさ」
「それに、水面から力強く飛び立つ姿は、とてもきれいだ。
空高く、群れで飛んで、遠くへ行くのもいい」
「……一羽で飛ぶ姿も、美しいだろう?」
「人間も、こうありたいものだと、昔の人は思ったんだ。
だから、みんなでお祭りをするのさ」
⸻
カン、カン、カン。
槌で木を打つ音が、あちこちから聞こえる。
父は、山車の下から出てきて、
額の汗を手の甲で拭った。
「もうすぐ昼だ。悪いな、ちょっと待ってろ」
オリバーは柵に腰掛け、
人の行き交う祭りの準備を眺めた。
木を打つ音。
笑い声。
遠くで、試しに鳴らされる太鼓。
やがて、父が来る。
「一緒に食おう」
二人で並んで、弁当を広げた。
「どうだ、最近は。学校は楽しいか?」
「うん。まあまあさ」
少し間があって、父は箸を止めた。
「……魔法は、少しは楽しくなったのか?」
オリバーは、首を傾ける。
「感情が高ぶると、風が強く吹いてたからな。
言うと意識してしまうから、父さんは言わなかったけどな」
その言葉に、オリバーの手が止まる。
――感じてたのか。
父の目を、見られない。
「……まだ、怖いんだ」
小さく、でも、はっきりした声。
「どうすれば……」
父は、すぐに答えられなかった。
祭りの喧騒が、一瞬だけ遠くなる。
「治し方は……どうなんだろうな」
「……正直、よく知らない」
言葉を選ぶように、ゆっくりと。
オリバーの顔が、はっきりと曇る。
それを見て、父の胸の奥が、きしんだ。
「ただな」
箸を置き、真剣な目で続ける。
「父さんに言えるのは、
感情と、魔力を切り離すことが、大事だってことだ」
少し考えてから、付け足すように言う。
「……感情は、妖精を呼びやすい、って言うだろ」
「でもな、妖精にお願いをしないと、
魔法にはならない」
「感情だけが先に走ると、
力だけが、外に出ちまうんだと思う」
「何事も、加減だ」
少し笑って、例え話を探す。
「スピードには敏感なのに、
止まり方を知らない荒馬みたいなもんだ」
「でもな、どんな荒馬でも、
根気よくやれば、ちゃんと乗れる」
一拍おいて、強く言う。
「俺の子だもの。やれるさ」
「赤ちゃんの時から知ってる。出来るに決まってる」
オリバーの背中を、軽く叩く。
オリバーは目を見開き、
父の顔をまっすぐ見た。
信頼されていることに驚いたような、
でも少し不安そうな、揺れる表情。
「……赤ちゃんの時から見てるのは、当たり前だろ」
口を尖らせて言う。
父は、小さく笑った。
「だから、分かることもあるのさ」
そう言いながら、
父はオリバーを抱き寄せた。
汗と木の匂い。
祭りの準備でついた、少し荒れた腕。
一瞬、風が吹く。
白い布や、羽根飾りが、風に揺れる。
――今、こうしないといけない。
理由は分からないが、確かにそう思った。
オリバーは、しばらく抵抗せず、
静かに抱かれていた。
風は、いつのまにか、やんでいた




