第11話 普通に、喜ぶ
ノア先生が、オリバーを褒めていた。
水球の出来だ。
最初は、俺と大して変わらなかった。
それが、いつの間にか、少しずつ大きくなって、形も安定してきている。
正直、すげーと思う。
先生に褒められるのも、当然だ。
なのに。
オリバーの顔は、明るくなかった。
嬉しい、というより……つらそうに見えた。
実習が終わって、帰り道。
並んで歩きながら、俺は少しだけ考えてから口を開いた。
「なあ」
オリバーは顔を上げない。
「俺はさ。すごいと思うよ」
「お前がどう思うかは、知らんけど」
それでも、足取りがほんの少しだけ緩んだ気がした。
「だいたいさ」
「俺たち、この間まで、ただの子どもだったろ」
「ジャックと、そんなに変わんなかったじゃん」
オリバーは黙って聞いている。
「それがさ」
「魔法を教わり始めてさ」
「水、浮かべてんだぜ?」
俺は笑ってしまった。
「こんなこと、家にいたら絶対知らなかった」
「学校に来て、よかったよ。ほんと」
少し、照れくさい。
でも、止まらなかった。
「なあ」
「俺、最近思うんだ」
足元の影が、夕日に伸びる。
「俺たち、すげーんじゃね?って」
「一年生なりにさ。ちゃんとやってんじゃんって」
オリバーは、まだ下を向いていた。
「俺な」
「お前と出会えて、ほんと良かったと思ってる」
「そうじゃなかったら、こんなこと、思いもしなかった」
前を向いたまま話す。
顔を見たら、たぶん言えなくなるから。
しばらくして、オリバーが顔を上げた。
校舎が見える。
ここが、学校だ。
魔法を学んで。
友だちができて。
少しずつ、できることが増えていく場所。
オリバーの目が、揺れた。
レオの言葉は、事実だった。
大げさでも、慰めでもない。
ただ、見たまま、思ったままを言っただけだ。
それが、そのまま届いた。
何をひとりで怖がっていたのか。
その理由が、今は分からなくなった。
オリバーの胸の奥に、何かが入っていくのが分かった。
あたたかいものだ。
急に、泣きそうな顔になる。
「……ありがとう」
小さな声だった。
でも、ちゃんと聞こえた。
それで十分だった。
自分が、何か特別なことをした気はしない。
ただ、普通に、喜んだだけだ。
でも、その「普通」が、
オリバーの心の、いちばん柔らかいところに触れた気がした。




