第107話 暑い気持ち
今日は朝から暑い。
いつもの通りだ。
今日は全校参加のボート大会。
「昼はもっと暑いだろうな」
隣に立つレオ。
そんなことを言っているが、戦いの目をしている。
きっと作戦を考えているんだ。
くじの結果、まずは下級生たちとあたることになった。
三人肩を組んで輪になる。
「エマ。オリバー。
俺たち今まで負け続けてきたけど、今日は勝とう!」
「うん!」
「頑張る!」
ガイルとユイトたちは上級生とあたる。
湖に向かうガイルに、レオが声をかけた。
「負けんなよ」
「お前こそな。下級生に負けるなよ」
――
パアーン!
音と同時にガイルたちは進む。
滑り出しは好調だ。
リリカは早くも風魔法を始めている。
相手の右側だけを攻撃している。
相手のボートが揺れる。
上級生も魔法を出してくる。風魔法のようだ。
ガイルたちのボートが揺れる。
「あ!」
誰かが叫んだ。
ガイルのオールが、相手の風を抑えるようにガードしている。ようにみえた。
「そんなことできるの?」
周囲の人のざわめきが聞こえる。
ユイトも魔法を開始している。
水魔法のようだ。
相手のボートを沈めるつもりだ。
でも、相手も水魔法を始めた。
それも三人で。
あっという間にガイルたちのボートは沈んでしまった。
「惜しかったなあ」
「すごかったね」
という声。
「あれこそがガイルの力だ!素晴らしい!」
筋肉ムキムキ六年生男子の何人かが、ささやきあっている声も聞こえた。
――
「さ。そろそろ行くぞ」
「うん」
湖の中に入る。
ふと周りを見た。
みんなが自分たちを見ている。
当然だけど、リナは今日、来ていない。
別に見てなくていいんだけど。
何考えているんだ!
集中集中!
「レオ。勝とう」
「おう!」
「やるわよ!」
相手は下級生だ。負けられない。
――
パアーン!
予定通りのスタートダッシュ。
すぐにエマが風魔法を始める。
二、三回の攻撃で、相手は転覆した。
あっけなかった。
でも初勝利だ!
ゴールに着いたとき、レオは雄たけびを上げて湖に飛び込んだ。
そして、エマと自分を湖に誘った。
「やったな!」
レオはそのままエマに抱きついた。
エマは固まって目を白黒させる。
皆がクスクス笑いだす頃、レオが気が付いてエマに謝っていた。
「お兄ちゃん!レオ兄!カッコいいよ!」
ジャックが大きい声で叫ぶ。
勝ったんだ。
肩の力が抜けた。
――
「……まぶしいですね」
レオ達の姿を見て、ノア先生は呟いた。
勝って、笑って。
太陽のような彼女。
でもその笑みは、
自分に向いているとは到底思えなくて。
生徒の勝利なのに。
喜んであげなければ。
そう思って近寄って行った。
――
「あんな時代が俺たちにもあったな」
レフトとライト。
つまり俺とレオの父だ。
遠くから湖を眺める。
「お前、仕事いいのかよ」
「中抜け。すぐ戻るさ」
「あいつら、作戦通りに動けるようになったんだな」
「冷静に状況を見ることも出来るようだな。さすが俺の息子」
「俺の息子もだ。しかも、もてるし」
「なんだとう!」
二人で喧嘩するのも久しぶりだ。
一瞬のうちに学生時代に戻ったみたいだ。
「やべえ。早く戻らないと」
「母ちゃんに叱られる」
「俺も」
「お互いに、一番おっかねえのは、」
「嫁さんさ」
にやりとして二人して仕事に戻った。
日差しはまだ高い。
ただひたすらに暑かった。




