彼女が遺した風鈴
窓につるされた風鈴が、ちりん、と鳴った。
それだけで僕は彼女を感じることができる。
***
最初から僕らの結婚は、幸せな結末にはならないよ、と言われていた。
僕にとっては貴重な何でも言い合える仲の友人からは、悪いこと言わねえからあの子はやめとけよ、と率直な物言いをされた。
それは彼女が無機生物、つまりは金属生命体であったからだ。
法的には、僕らの結婚には何の問題もなかった。
けれど、有機生物である僕と無機生物である彼女は同じ人間とはいえ、一緒の食事を楽しむこともできないし、結婚したところで子を生すこともできない。
金属生命体の彼女には僕らのような明確な老いがあるわけではない。ある日突然に寿命が尽きる。
若々しい姿のまま、彼女は不意に物言わぬ金属の塊となり、たちまちのうちに酸化して朽ち果てるのだ。
その日が来るのが十年後なのか百年後なのか、はたまた明日なのか、それは誰にも分からない。
それでも僕は彼女を愛していたし、彼女も同じだった。肌を合わせた後の、僕の体温で温まった自分の胸や腹を、彼女はいつも愛おしそうに撫でていた。
ねえ、今ここにあなたがいる。
彼女はそう言っていた。
あなたの温度が、今ここに宿ってるんだよ。
時折、彼女の身体をまさぐる僕の左手に反応して、彼女が身体を固くしたとき、薬指の指輪が当たって澄んだ音を立てることがあった。
二人の音だね、と言って僕らは笑った。それだけで幸せだった。
その日は突然来た。
しなやかな彼女の身体が、まるでビルの壁や柱みたいにみるみるうちに硬くなっていくのを、僕はどうすることもできずに見守るしかなかった。
ろれつの回らなくなりかけた口を必死に動かして、彼女は僕に言った。
硬化しきる前に私の小指を切って。
今なら、まだあの音が出せるから。
私を、あなたのそばに置いて。
泣きながら抱きしめる僕の腕の温度を味わうみたいに目を閉じて、彼女はじきに動かなくなった。
***
風鈴がまた軽やかに音を立てた。
今日はいい風が吹いている。
君といつか窓辺でこんな風を浴びたね。
大丈夫。僕らはそばにいる。
君の指からは、あの日と同じ音がしているよ。




