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平穏を望む転生魔王、今度こそ世界を変える  作者: 彼岸茸
第四章

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12 白霞騎士隊

本日 2 回目の投稿です。

 ほのかにパンの香ばしい匂いが漂う、石造りの食堂。

 まだ朝の光が淡く差し込み始めたばかりで、宿の客はまばらだった。数人の冒険者が眠そうにスープを啜る中、ゼギスたち三人は隅のテーブルで向かい合っていた。


 焼き直したパンと干し肉入りのスープという質素な朝食。会話は自然と途切れ、静かな時間が流れていた。

 その沈黙を破ったのは、セフィリスだった。


「……つかぬことをお聞きしますが」


 ゼギスが視線だけを彼女に向ける。


「なんだ?」


 セフィリスはいつもの涼し気な表情のまま、淡々と口を開いた。


「昨晩、お二人は同じ部屋でお休みになっていましたが……本当に、そういった関係ではないのですか?」


 その瞬間――


「ごほっ、ごほっ……な、何を……?」


 スープを飲んでいたシエラが盛大にむせた。


 ゼギスは一瞬だけ目を丸くしたが、すぐに肩をすくめ、苦笑まじりに答える。


「……ああ。いつもの癖で同じ部屋にしていたな。シエラが節約だと言うから、まあいいかと思って」


 特に意図もなければ照れもない口調だった。

 しかし隣の少女は、そうもいかなかった。


「ち、違いますからっ……! そ、そんな、そういうんじゃなくて……っ、うぅ……」


 シエラは顔を真っ赤にし、パンを手に持ったまま俯き込んだ。耳や首元まで朱に染まる。

 セフィリスはそんな彼女をじっと見つめたまま、やがて軽く頷いた。


「……それなら、問題ありません」


 いつもの静けさを崩さず、それでもほんの少しだけ、声が和らいでいた。


「冒険者というのは、常に死と隣り合わせの職業。……もし、どちらかが突然いなくなったとき、相手が特別であればあるほど、残された方は壊れやすくなります」


 その言葉には、過去に仲間を失った記憶が滲んでいた。

 仲間でも、心は揺らぐ。まして恋人であれば、なおさらだ。


「……シエラは俺が守るさ。俺は、シエラに守ってもらっているしな」


 何気ない口調だったが、その言葉に込められた信頼は、嘘ではなかった。

 再びシエラの顔が熱を帯びる。


「……そういうことを、さらっと言うから……誤解され……もう……」


 俯いたまま、パンをちまちまとちぎる仕草は、まるで拗ねた小動物のようだった。


 ひと呼吸ぶんの沈黙のあと、セフィリスが淡々と話題を切り替えた。


「……食べましょう。空腹では動けませんから」


 その一言が場の空気を和らげ、三人は静かに朝食を再開した。


 パンと干し肉のスープという簡素な食事。黙々と口に運ぶうち、皿がきれいになる頃には――朝の光が石壁を少しずつ照らし始めていた。


 食後、ゼギスは懐から数枚の地図を取り出し、テーブルに広げた。

 粗い木目の上に並ぶ紙片には、それぞれ異なる手書きの地形図や魔素の流れを示す線が描かれている。

 ゼギスはそれらに目を走らせながら、指先でルダイン村までの経路をなぞった。


「……よし。地形も起伏も把握した。あとは現地で微調整していくだけだな」


 斜向かいのシエラが、興味深そうに身を乗り出す。


「もう地図、覚えちゃったんですか?」


「ああ。これくらいならな」


 さらりと返されたその答えに、シエラは素直に感嘆した。


「すごいです……。わたし、記号の意味で混乱しちゃって。街の地図なら何とかなるんですけど、野外の地図は途中で諦めちゃいました……」


 そう言って苦笑する彼女に、ゼギスもわずかに口元を緩めた。


 そんなやりとりを横目に、セフィリスがすっと荷物を担ぎ上げる。


「準備はいいですね? では、馬を借りにギルド支部へ向かいましょう」


「ああ」


「はいっ」


 三人は椅子を引いて立ち上がり、食堂をあとにする。

 外に出ると、朝の光はすでにその輝きを増し、石造りの街に淡い温もりを与えていた。


 ベレストリアの一日が静かに始まる。


 *


 石畳の道を、ゼギスたちは無言のまま歩いていた。

 朝のベレストリアはまだ冷え込み、街路は一段と活気に乏しい。


 通りを行き交う人影もまばらで、すれ違う冒険者風の男が、ふとセフィリスに気づいた途端、あからさまに顔をしかめた。

 非人間族への不信、嘲り、蔑視――その感情の残滓が、空気にまとわりついて離れない。


 セフィリスはまるで気にした様子もなく歩みを進めるが、ゼギスの視線は自然と周囲を鋭くなぞっていた。


 このまま何事もなくギルドへ着くと思った矢先だった。通りの角を曲がった瞬間――

 目の前に広がる広場が、白に染まっていた。


 整然と並ぶ白銀装束の一団。その中心に立つのは、白金の髪をなびかせ、的確に指示を飛ばす一人の女性だった。

 軍服風の軽鎧に白銀のマント、上品でありながら機能美を追求した装飾。

 その立ち姿は、ひと目で只者ではないと分かる気迫に満ちていた。


 セフィリスが足を止め、声を潜めて呟く。


「……王国騎士団の特殊部隊《白霞騎士隊》。女性のみで編成された精鋭部隊です。なぜここに……?」


 続けて、シエラも小さく息を呑むように言った。


「以前、聖女候補として何度か任務をご一緒しました。調査や潜入を得意とする部隊で……もちろん潜入任務のときは地味な服装だったと思います。正面戦闘でも腕の立つ方ばかりです」


 視線の先には、白霞騎士隊の中心に立つ、白金の髪を三つ編みに束ね、胸元へと流した姿が印象的な女性。

 彼女の指示に従い、分隊がそれぞれ行動を開始している。


「……あの人、目立ちますね」


 シエラの言葉に、ゼギスは舌打ち混じりに低く返す。


「……懸念してたところに現れるとは。運が悪い」


 その時、広場に残っていた白装束の一隊がこちらに気づき、ざわめきが広がる。

 誰かが指を差し、周囲の数人が視線を向ける。

 そして、隊列の中心にいた白金の髪の女性が顔を上げ、こちらへ歩み寄ってきた。


 その動きと同時に、広場の空気が一変した。


 通行人たちは足を止め、衛兵すらも自然と道を譲る。

 白霞騎士隊が名ばかりの集団ではないことを証明するように――彼女たちは整然と歩を進めてくる。

 その動きには一糸乱れぬ統率と、凛とした圧が宿っていた。


 中心に立つ女性の姿には、どこか尋常ならざる気配がある。


 無言のまま、彼女たちはゼギスたちの前で足を止めた。


 シエラがかすかに身を寄せ、小声で告げる。


「……こっちに来てますね」


 ゼギスはわずかに眉をひそめ、吐き捨てるように言った。


「……どこまで嗅ぎつけてるんだか。厄介な連中だ」


 嫌な予感が背筋を撫でていく。


 整列していた騎士たちが左右に分かれ、中央から白金の髪の女性が進み出た。

 無駄のない、洗練された足運び。落ち着いた所作。


 セフィリスが目を細め、低く呟く。


「……厄介ごとですね」


 その一言に、誰もが言葉にはせずとも同意していた。


 場の空気は凍りついたような静寂に包まれ、張り詰めた緊張が広場を覆っていく。

 そして、白金の髪の女性が口を開いた。


「私は王国騎士団・白霞騎士隊隊長、セレスティア=レイヴェルと申します」


 澄んだ声が広場に響く。

 礼節あるその口調は、同時に鋭く研がれた刃のようでもあった。

 上品でありながら、戦場を幾度も潜り抜けた者だけが纏う、圧のある威容。


 白銀の外套が風に揺れ、陽光に軽鎧が淡く反射する。

 彼女の双眸は、まっすぐにゼギスを射抜いていた。


 敵意はない。だが、視線には明らかな監視の意図がある。隠すつもりもないのだろう。

 相手を見極め、対応を測る――その緊迫した駆け引きが、言葉の前に交差していた。


 ゼギスもまた、目を逸らさず視線を返した。

 その背で、シエラは息を詰め、セフィリスは姿勢を整える。


 ひゅう、と一陣の風が通り抜け、外套と金具が小さく鳴った。


 次の一言が、この場の行方を決める。

 対話か、対立か。

 単なる接触で終わるのか。


 沈黙だけが、張り詰めた空気を支配していた。

次回投稿は本日午後 6 時頃の予定です。

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