聖女として召喚されたのは殺し屋でした
ザシュッ!!
ある山の中、あたいは右手に持っている刃先30センチのチタン製ナイフで男を背中から刺していた。
「がはぁっ!!」
刃は男の胸を貫通し、刺された部分から血が噴出したと同時に口からも血を吐き出す。
手で胸を押さえるも血は止まらず、ナイフを抜くとそのまま前のめりに倒れた。
ドサッ・・・
何かを口にしようとするも上手く言葉にできず、白目になって男はそのまま死んだ。
「・・・」
辺りに血の臭いが充満するなか、あたいは左手でズボンのポケットにある懐中時計を取り出すと蓋を開けて時間を確認する。
「フタサンサンマル、ターゲットの死亡を確認」
あたいが蓋を閉めて懐中時計をポケットにしまった時だ。
突如地面に青白く光る幾何学模様の魔法陣が現れた。
「なんだっ?! これはっ?!」
あまりの出来事にあたいは驚いて動けなかった。
その一瞬が明暗を分ける。
魔法陣がより一層光り輝いた時、これはまずいと直感したあたいはその場から離れようとしたが、あまりの光量に目を閉じてしまった。
「くっ! 眩しいっ!!」
左手で目を隠すも閃光弾をも上回る光があたいの目を襲った。
魔法陣の光は徐々に失われ、消失した時にはあたいの姿はそこにはなかった。
光が薄れていくと突然空気が変わった。
自然のとは違い少し空気が澱んでいる。
目が慣れたのですぐに開くとそこは先ほどまでいた山の中ではなく、立派な部屋の中心部であった。
部屋には複数の人間があたいを見ている。
(ローブを着た者、金髪で豪華な服装をした者、帯剣をした騎士みたいな者が16人、それと陰に隠れているのが4人・・・いや、5人といったところか)
現状を確認したあたいは足元を見る。
そこには目を閉じる前に見たのと同じ男の遺体と青白く光る幾何学模様の魔法陣があった。
その魔法陣も徐々に光を失い、最後には地面に刻まれた幾何学模様だけが残る。
「陛下、聖女の召喚に成功しました」
あたいを見るなりローブの男が喜び、金髪をなびかせ煌びやかな男に報告する。
「おお、聖女よ。 よくぞこの世界に・・・」
そこで陛下と呼ばれた金髪男の言葉が止まり、表情が固まる。
視線があたいの右手に持っているナイフを凝視した。
未だに布で拭っていないからか血が付着している。
ポタッ・・・ポタッ・・・
ナイフから血が滴り落ちる度に地面にぶつかり跳ねて汚していく。
(やれやれ・・・人目につかないよう山中で殺したというのにこんなに大勢に見られるとはね・・・どうしたものか・・・)
その場にいる者たちはあたいの持っているナイフと地面に倒れている男を交互に見て顔を蒼褪めさせていた。
(見られたからには全員殺すか? でも、そのあとの処分はどうする?)
あたいが考えあぐねていると金髪男が我に返り話しかけてきた。
「は、初めまして。 私はデトロ王国国王ラドブだ」
「あたいは聖。 しがない殺し屋さ」
ラドブに対してあたいはいつもの営業スタイルで応じる。
「こ、殺し屋? 聖女を呼んだはずだが・・・」
「聖女? なんだいそれは?」
聞きなれない単語にあたいは聞き返した。
「せ、聖女とは、聖なる光で闇を払い、傷つきし者を癒す力を持つ女性を指します」
「生憎とあたいはそんな力は持ち合わせちゃいないよ」
それだけいうと右手を動かしてナイフに付着した血を振って払う。
完全に拭いきれなかったのかまだ血が付着している。
コートのポケットから布を取り出すと残り血を拭く。
綺麗になったところで役目を終えた布をしまい、腰にある鞘にナイフを収納した。
物騒な物がなくなってラドブたちは安堵する。
「我が国の伝説に異世界を渡ってきた女性には聖なる力が宿り、その力で人々を救ったことからいつしか聖女と呼ばれるようになった。 この魔法陣から現れたということは貴女が聖女であることは間違いない。 セイ様、どうか私たちの国を救うために力を貸してもらえないだろうか?」
ラドブがあたいに懇願してきた。
あたいはコートの内ポケットからシガレットケースを手に取って開き、煙草を一本取り出すと口に咥える。
それからシガレットケースを元の位置に戻してから今度は愛用しているオイルライターを取り出すと煙草に火を点けて一服した。
「ふぅ・・・あたいは殺しを生業にしている。 人助けなんてガラじゃない。 悪いが他を当たってくれ」
オイルライターを所定の位置に戻しながらあたいはラドブの願いを拒んだ。
あたいの態度が気に入らないのか騎士たちが殺気立つ。
「貴様! 無礼にもほどがあるぞ! 王の御前でなんだその態度は!!」
「騎士団長! 落ち着け!!」
ラドブが騎士団長といわれた男を冷静になるように促す。
「あんたたちの事情なんて知ったことか。 聖女だか何だか知らんが、あたいにはまったく関係のないことだ」
「貴様ぁーーーーーっ!!」
激怒した騎士団長が腰に差している剣を抜くと殺気を纏って襲い掛かってきた。
あたいはコートの右袖に隠し持っていた銃を素早く取り出し、騎士団長の額に照準を合わせると躊躇いなく引き金を引いた。
バンッ!!
部屋に銃声が鳴り響くと同時に騎士団長の額に弾丸が命中する。
「がっ!!」
騎士団長の叫びが聞こえるもそれだけだ。
カランカラン・・・
地面に薬莢が落ちる音が鳴り響く。
ダンッ!!
騎士団長は吹っ飛ばされて地面に叩きつけられた。
その音で周りにいた騎士たちは我に返り、地面に倒れている騎士団長を見て驚愕する。
騎士団長の額からは血が流れてすでに絶命していたからだ。
それから騎士たちはあたいの方をゆっくりと見る。
あたいの右手にいつの間にか銃が握られていることに騎士たちは驚いていた。
銃口からはかすかに硝煙が上っている。
「う、嘘だろ・・・」
「騎士団長が一撃で・・・」
「な、なんだ?! その武器は?!」
「答える義理はないよ」
騎士たちが腰にある剣の柄を握り抜こうとしたが、あたいは銃口を向けて牽制する。
(さて・・・どう動く? 全員で襲ってこられたらさすがに梃子摺るだろうが、殺すだけなら簡単だ)
ラドブは顔を顰め、ローブの男は腰を抜かし、陰に隠れている者たちは一瞬とはいえ、動揺して顕在化した。
あたいが相手の出方をうかがっていると我慢の限界を超えたのか騎士たちが抜剣した。
「よくも団長をっ!!」
「許さねぇっ!!」
「団長の敵っ!!」
殺気だった騎士たちがあたいに向けて走ってくる。
「止せっ!」
ラドブが止めるも騎士たちは止まらない。
あたいは銃の引き金に手をかける。
「やめろおおおおおぉーーーーーっ!!」
バンッ!! バンッ!! バンッ!! バンッ!! バンッ!!
迫りくる騎士たちに次々と発砲する。
そのどれもが騎士たちの額を撃ち抜いて後方へと吹っ飛ばし、撃った数だけ薬莢が地面に落ちていく。
銃の弾倉を使い切ると弾丸を取り出して素早くリロードし、再び発砲する。
バンッ!! バンッ!! バンッ!! バンッ!! バンッ!! バンッ!!
再び弾倉を使い切りリロード、三度発砲する。
バンッ!! バンッ!! バンッ!! バンッ!!
発砲が止むとそこには15人の騎士が倒れている。
あたいは襲い掛かってきた騎士たち全員を撃ち殺した。
一瞬にして部下を失ったラドブが嘆いた。
「なぜだ・・・なぜ、殺した・・・」
ラドブの問いにあたいは煙草を吸ってから簡潔に答えた。
「ふぅ・・・殺意を持って襲ってくれば誰だって抵抗するに決まっているだろう」
「だからといって殺さなくても・・・」
「あんたの部下はあんたを守るためにいるだけじゃない。 聖女としてここに召喚された者が抵抗した場合、その武力で押さえて無理矢理付き従わせようとするのだろ?」
ラドブは目を見開いてあたいを見る。
(図星のようだな)
どうやらあたいの考えが的を射ていたようだ。
「あとは上下関係をしっかり叩き込んで使い勝手のいい道具として扱うといったところだろうな」
あたいの言葉にラドブは冷や汗が止まらない。
本来であれば自分よりもか弱い女性であれば非常に有効な手段だろう。
しかし、今回は相手が悪かった。
か弱い女性を呼んだつもりが圧倒的強さを持つ女性を招き入れてしまったのだから。
あたいはローブの男のところに歩いていく。
こちらに近づいてくるのを察したのかローブの男は這い蹲って逃げようとするが、思うように身体が動かない。
到着したあたいはしゃがむとローブの男の目線に合わせて話しかける。
「元の世界に帰る方法は?」
「し、知らない・・・」
あたいは銃口をローブの男の額に押し付けた。
ローブの男は慌てて答える。
「本当に知らないんです! この世界に召喚はできても元の世界に帰還させる方法はないんです! 俺は陛下の命令でただ聖女を呼び出しただけなんです! 信じてください!!」
「・・・嘘は吐いていないようだね」
あたいは立ち上がるとラドブを見る。
「それであたいを呼んだ理由は?」
「この国は今魔獣たちの暴走を受けて危機に立たされている。 その上、兵士や一般人にも多くの死傷者が出ている」
ラドブは現在デトロ王国で起きている状況を吐露する。
「本来魔獣はそこまで脅威ではないが、先ほども申し上げた通り暴走して凶暴さが増し、かつ、今までにない数の暴力を受けて我が国は危殆に瀕している」
熱くなったのかラドブは右手を強く握りしめていた。
「このままでは人々が死に絶え、国が滅んでしまう。 残された希望は国に古くから伝わる聖女に縋るしかなかった」
ラドブは形振り構わずあたいに頭を下げた。
「この国にはもう時間がない! セイ様! お願いだ! 力を貸してくれ!!」
あたいは煙草を吸った。
「ふぅ・・・あんたたちの状況はわかった。 だが、さっきもいったがあたいはそんな力は持ち合わせちゃいないよ」
そこにローブの男が口を挿む。
「そ、それは貴女が意識してないだけです。 現に貴女の身体からは光のオーラを感じます」
あたいは意識して自分の身体を見る。
すると薄っすらだが光の膜みたいなものが見えた。
(これが聖なる力というやつか・・・ん? これは・・・)
あたいは身体の異変に気付いた。
(なるほど・・・これは便利だな)
聖なる力が有用であると気づいたあたいはローブの男に話しかけた。
「あたいの身体を覆っている光があんたがいう聖なる力ってやつだな?」
「は、はい! その通りです!!」
確認ができたところで、聖なる力の使い方について聞いてみることにした。
「それでこの力は実際にはどのようにして使うんだい?」
「怪我人を治すのであれば患部に直接手で触れて聖なる力を注ぐのです」
あたいは近くにある騎士の死体に近づくと額に手を当てる。
言われた通りに力を流し込むが傷は塞がらずそのままだ。
「反応なし」
それからあたいは銃でローブの男を撃った。
バンッ!!
弾丸はローブの男の右肩を貫通し、床にめり込んだ。
「ぎゃあああああぁーーーーーっ!!」
ローブの男は右肩を押さえると芋虫のように右に左にと動き回る。
そこにあたいがローブの男の右肩に触れて力を流し込む。
すると触れた部分が光り輝き、しばらくすると傷が塞がった。
「なるほど。 効果は生者のみ有効で、死者には効かない・・・と」
ローブの男はあまりの恐怖に涙を流し、あたいから逃げるように後退りした。
あたいはラドブを見て質問する。
「それであんたはこの力でこの国を救えと?」
「そ、そうだ!!」
ラドブは首を縦に振る。
「理解した。 それでいくら出す?」
「え゛?」
あたいの言葉に今度はラドブが理解できていないのか素っ頓狂な声を出す。
「何を驚いている。 これはビジネスだ。 それくらいは理解できるだろ?」
「ビジネスとは何だ?」
ラドブはビジネスという単語の意味が理解できていないらしい。
「ああ、この世界では英語は使われていないのか。 仕事だよ仕事。 何の報酬もなくタダ働きなんて真平御免だね」
「え、ああ、仕事という意味か。 ということは、引き受けてくれるのか?」
「あんたの誠意次第だがな」
ラドブはすぐに金額を提示する。
「それなら金貨100枚でどうだ?」
あたいはローブの男を見る。
するとローブの男は怯えて震えだす。
「聞きたいけど、金貨1枚でどれくらい生活できるんだい?」
「は、はい! き、金貨1枚だと1人なら質素な生活であれば約1年は過ごせます!!」
先ほどの銃での脅しが効いたのか、ローブの男は素直に答えた。
ラドブは顰め面になる。
あたいは煙草を吸ってからラドブに話しかけた。
「ふぅ・・・国を守るのにたったそれだけか? 正直、失望したよ」
「そ、それではいくらなら引き受けてくれるんだ?」
「金貨1,000,000枚」
あたいが提示した額にラドブは驚きのあまり固まってしまう。
我に返るとあたいに苦言を呈した。
「た、高すぎる! いくらなんでも金貨1,000,000枚なんて払えるわけがない!!」
「あたいに無理強いさせるんだ。 それなりの額を請求するのは当たり前だろ」
バンッ!!
あたいは銃で再びローブの男を撃つと額に弾丸が命中した。
予備の弾丸を取り出して素早くリロードし、再び発砲する。
バンッ!! バンッ!! バンッ!! バンッ!! バンッ!!
発砲が止むと陰に隠れていた者たちも額から血を流してその場に倒れた。
それからラドブに銃口を向ける。
「ひいぃっ・・・」
守る盾がなくなったラドブは無様にも悲鳴を漏らす。
「払えないというなら、この話はなしだ。 あとは1人でなんとかするんだね」
あたいは煙草をその場に捨てると靴で踏んで火を消した。
銃をコートの右袖にしまい、扉に向かって歩き出すとラドブが慌てて呼び止める。
「ま、待ってくれ! 払う! 要求通り払う!! ただ、一括で支払うことはできないからせめて分割にして払いたい」
「あたいとしては仕事の依頼料さえ払ってくれればそれでいい」
こうして、あたいはラドブからの依頼でデトロ王国の聖女として活動することになった。
召喚されてから1年が経過した。
あたいはデトロ王国の騎士や兵士からなる討伐隊と共に転々と国内を巡っていた。
主な仕事は傷ついた者たちを聖なる力で癒したり、闇溜まりを浄化して魔物や魔獣の発生を抑制することだ。
最初こそ問題なく仕事をこなしていたが、あたいが騎士団長を殺したことがわかると態度ががらりと変わった。
騎士団長と親しい者たちはあたいに突っかかってきた。
面倒なのであたいはその場で騎士1人を躊躇なく殺してから言葉を投げかける。
「死にたい奴はかかってこい」
実際に襲ってきた奴をあたいは平然と殺した。
正面からでは勝てないと判断した者は就寝時を狙って襲ってきた。
だが、その尽くを返り討ちにする。
なぜそのようなことができるのかといえば、あたいはいつも半分だけ脳を覚醒した状態になるよう訓練していた。
動物でいえばイルカの半球睡眠みたいな状態だ。
あたいがいた裏世界ではいつ誰に狙われるかわからない。
だから訓練してできるようになったのだ。
そのおかげで昼夜問わず活動できるようになった。
武力による力押しや暗殺が効かないことを騎士たちは悟る。
それからはあたいに手を出すバカはいなくなった。
そして、デトロ王国内の魔物や魔獣の討伐が完了してあたいは王城へと戻った。
その日は多くの貴族を呼んで祝賀会が行われた。
「セイ、よくぞ務めを果たしてくれた。 心から礼をいうぞ」
「仕事だからな」
ラドブはあたいに礼をいうとワインが入ったグラスを差し出す。
あたいはそれを受け取ると迷うことなく口にする。
「ぐっ!」
そこであたいの身体に異変が起こる。
パリンッ!!
しばらくしてあたいは持っているワイングラスを手から落としてしまった。
(毒か)
頭痛や吐き気が襲ってきてあたいはその場に倒れた。
「き、きさまぁ・・・」
ラドブはあたいの頭を何度も蹴ったあとに踏みつける。
蹴られた部分からは皮膚が裂けて血が流れていた。
「この魔女め! お前みたいなのが聖女であってたまるか! 役目は終わった! さっさと死ね!!」
ラドブは本性を現すと用済みになったあたいを処分するため毒殺してきたのだ。
「ふっ、そう来ると思っていたよ」
「!!」
あたいはラドブの足を掴むと握り潰した。
ボキッ!!
骨の折れる音が会場に響き渡る。
「ぎゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!!!!!!」
ラドブは叫び声をあげるとバランスを崩して前のめりに倒れる。
それから折れた足を抑えながらその場で右に左にと転げまわった。
あたいは起き上がるとラドブを見下ろす。
「た、たしかにお前に毒を盛ったはず・・・」
「ああ、たしかに毒を飲んださ。 だけど、あたいに毒は効かないよ」
「ど、どうして効かないんだっ!!」
「それはあんたがこの世界に呼んだ時に手に入れたこの力のおかげさ」
あたいに毒が効かなくなったのを感じたのはこの世界にきて煙草を吸った時だ。
あの時、体内の毒素が浄化されたのをたしかに感じた。
そのあとも討伐隊の食事に微量の毒が盛られていたが、すぐに解毒されたことを実感した。
「この力は便利だな。 この程度の傷もすぐに治してしまうのだからな」
事実ラドブがあたいの顔につけた傷も聖なる力ですでに癒されていた。
「衛兵っ! 衛兵っ!!」
ラドブの掛け声に城内の衛兵たちが大量に現れた。
「そ、その女を殺せっ!!」
ラドブが命令すると衛兵たちは抜剣して、あたいに向かって襲いかかってきた。
あたいは腰にあるナイフを2本抜くと両手で構える。
「そんなんで剣に勝てるわけないだろっ!!」
先頭の衛兵が袈裟斬りで攻撃してきたのであたいはナイフで剣を受け止める。
剣の強度が脆かったのか受け止めたところから剣身が折れた。
「え・・・」
驚いているところをあたいはもう片方のナイフで胸を一突きする。
「がはぁっ!!」
ナイフは鉄製の鎧を貫通し、衛兵の心臓に突き刺さる。
訳が分からないという顔をして衛兵は絶命した。
(高が鉄でできた剣であたいが使っているチタン製のナイフに勝てる訳ないだろう)
チタンは鉄よりも軽量で鋼に匹敵する強度を持つ金属だ。
鋼鉄の剣ならともかく鉄の剣では勝負にならない。
あたいは迫りくる衛兵たちを次々と殺していく。
「何をしているっ! 相手はたった1人だぞっ! さっさと殺せっ!!」
最初こそ威勢が良かったが、剣を破壊され、数が減るにつれて衛兵たちは弱腰になっていく。
あたいはものの数分で衛兵たちを皆殺しにした。
ついでに集まっている貴族たちも同じように殺し、残ったのはラドブただ一人だけだ。
「ああぁ・・・」
「それで?」
「え、えっとぉ・・・こ、これは・・・そ、そう、冗談、冗談ですよ・・・はははははっ・・・」
「笑えない冗談だ」
あたいはナイフの切っ先をラドブに向ける。
「ま、待ってくれっ! わ、私を殺せば指名手配されるぞっ!!」
「それがどうした」
「え゛?」
「この世界のすべての人間があたいを殺しにくるというなら全員相手にしてやる」
それだけいうとあたいは持っているナイフでラドブの喉を突いた。
ラドブはあたいの手を掴んで何かを訴えかけようとするが、そこで力尽きて事切れる。
「・・・」
「さて、これからどうするかだが、まずはこの国を出てそれから考えることにしよう」
ラドブを殺したあたいは城に火を放つとその騒動に乗じて姿を晦ました。
このあと、聖女として召喚された聖がどうなったのかは知る者は誰もいなかった。