3話「城塞都市ミルトン1」
森から最寄りの街――ミルトンまでは徒歩で1時間ほどらしい。
あのあと応急処置をしてもらい、そのままエリンたちに連れられて森を抜けた。
今は街道を進んでいるところだ。
街道といっても名ばかり、路面は土だ。
踏み固められ、草や石といった障害物は取り除かれているけれども、車輪の轍などでデコボコしていて歩きにくい。
雨が降ったらぐちゃぐちゃになりそうだし、わたしには悪路にしか見えない。
季節はたぶん春。
穏やかで過ごしやすいからよかった。
エリンたちはEランクの駆け出し冒険者で、3人でパーティを組んでからそれほど間もないという。
なんでも冒険者はランク制のシステムで管理されているらしい。
Eランクはその中でも最低ランク。
オンラインゲームのランクシステムなら、ブロンズの初心者ってところか。
「おねえさん、きれいな黒い髪だねー。あたし黒なんて初めて見たよー。異国の人?」
「うん、まあ。そんなところ」
嘘は言ってない。
黒髪が珍しくもなんともない世界から来ただけで異国は異国だ。
こっちからしたらむしろ黒髪が珍しいという感覚が珍しい。
「それにその服、なんか派手ですごいねー?」
「あははは……」
わたしは白と赤の和装、つまり巫女服を着ている。
なぜか巫女服を。
ファンタジー世界に転生したというのに、巫女服が初期装備だったのだ。
今話していた活発な赤髪の子がエリンだ。
剣と盾を装備した戦士で、健康的な肉体の持ち主だ。
戦っていた時は凛々しかったのに、ふだんは表情がへにゃっとしていて、なんか緩い雰囲気だ。
ちょっと緩すぎて心配になる。
「こんなときに旅行なんて、間が悪かったな」
「こんなとき?」
「最近はここらも魔物が増えてだんだん危なくなってる。生きた心地がしないよ」
貴重な海外渡航情報を教えてくれた子はテルマという名で、弓使いだ。
身軽な軽装で、すらっとスタイルがよくて背が高い。
顔立ちは整っているけど、あまり表情を変えない。
冷静沈着なクールビューティって感じ。
「あ、あの……失礼ですが、神官さまでしょうか……?」
「わたしっすか? いやぜんぜん! 神様とは縁もゆかりもありません」
「す、すみません。そのような恰好をしていらっしゃるので……」
巫女服のせいで勘違いさせてしまった最後の1人がルイーズという魔術師。
小柄なのに長すぎる杖を持っているから、しがみついているようにしか見えない。
やはり体に似合わないぶかぶかのローブを着ている。
しかし、乳はデカい。
大きすぎるローブに覆われていても、わたしの目からは隠せない。
このロリっぽい子、乳デケェぞ。
魔術師としてどうかとかぜんぜんわかんないけど、凄まじい戦闘力だ……。
これがエリンたちのパーティだ。
若い女の子ばっかり。
なんか中高生の部活みたいで、微笑ましくなってくる。
やってることはぜんぜん微笑ましくないのだが。
道すがら話を聞けば、街道以外を移動するのは危険らしい。
さっきのように腐肉狼に襲われることもあるし、野盗の活動も活発だから、と。
もっとも最近では治安が悪化し、たとえ街道沿いを進んだとしても安全とは言いがたいらしいけど。
「そのおかげで冒険者の仕事が増えてるんだよー!」
と、エリンはとても嬉しそうに言った。
いいのか、治安の悪化を手ばなしで喜んでいて……。
さっき死にかけたのに。
しかも、さっきの腐肉狼はこの近辺で最弱の魔物らしいし。
この子、ちょっと抜けてるかもしれん。
―――
街についた。
1時間しか歩いてないのにヘトヘトだ。
ミルトンの街は見るからに中世という感じで、石造りの門と城壁に囲われていた。
都市と表現するにはすこし小さいけれど、村というには大きかった。
たぶん、周辺地域で中心的な街といった規模だろう。
街の入り口でエリンたちと別れた。
ぜんぜん別れたくなかったけど。
できれば一生くっついて、なんならしがみつきたかったけれども!
しかし、異世界で初めて出会った命の恩人にあまり迷惑をかけたくもなかった。
それに。
『え、このオバサンなんでいつまでもついてんの……?』
『ウザくね?』
『まく? まいちゃう?』
そんなヒソヒソ話をしているのを見たら、心が折れてしまいそう……。
この子たちはいい子だと思うけど、それでも若い女子だ。
気分次第でまるで聖女のような慈愛を見せたり、その逆に悪魔のごとき残酷な所業をやってきたりするのが若い衆ってもんだ。
「わたし、これでも旅行慣れしてるから」
なんて強がりを言った。
旅行って、深夜バスで地元と東京を往復してただけなんだけど。
ただの移動だろそれは。
別れ際に助けてもらったお礼をしようとしたんだけど、エリンに断られた。
「いーよいーよ。腐肉狼狩りの依頼のついでだったし。それにさーおねえさん。失礼だけどお礼なんてする余裕ないでしょー?」
たしかにそうだ。
わたしの持ち物といえば、身に着けている、土で薄汚れた紅白の巫女服だけ。
他にはなにも持っていなかった。
巫女服。
今さらだが、なぜ、わたしは巫女服を着ているんだ……?
すぐにウサギを問い詰めようかと思ったけど、街中で小動物に話しかけたら100%怪しいやつだと思われるので自重した。
エリンたちと別れた後、人気のない場所に行ってすぐウサギを問い詰めた。
「なんで巫女服なんて着てるわけ!?」
「知らんのじゃ。どーせわしから奪ったんじゃろ。神スキルと同じでな!」
「いやどっちも奪ってねーし」
押し付けられた、と表現するのがいちばんしっくりくる。
服も神スキルとやらも。
「そういえば、その神スキルってなにがすごいわけ?」
「よし。聞いて驚くがよい!」
と、ウサギは短いしっぽを振りながら『鍛冶の神』スキルがいかにすごいか説明を始めた。
―――
ふつうの鍛冶師は、破損した武具を『修復』するために鍛冶道具や設備が必要だ。
つなぎ紐を結びなおしたり、金具を打ち直したり、と作業時間も必要になる。
使えなくなったパーツを取り替えるために新しく素材が必要になることもあるし、完全に壊れてしまった武具は修復できない。
ようするに、一般的に想像される鍛冶師の仕事内容と同じということ。
もちろん、ちゃんとした鍛冶場じゃないと本格的な作業はできない。
だけど『鍛冶の神』スキルのアビリティ『上位修復』は、触れるだけであっという間に損傷を直せてしまう。
道具や設備も必要ない。
「どーじゃどーじゃ、すごいじゃろ?」
ウサギが自慢げに言った。
たしかにすごい、と思った。
すごいとは。
でもやっぱ地味だな……。
「なんかもっとチート感ある能力ないの?」
「あるに決まっておるじゃろう」
「じゃ、それ教えて」
「嫌じゃ。一度にいろいろ教えても、おぬしの頭じゃどうせ理解できんじゃろ」
バカ扱いだ。
純白もふもふのかわいらしさ意外にとくに売りのない愛玩動物のくせに。
もしかして、地味スキル扱いされたからって拗ねて意地悪してるんじゃないだろうな?
とはいえ、今日は目まぐるしくいろいろな情報にさらされて混乱気味なのも否定できない。
スキルのチュートリアルはまたあとで聞くことにしよう。




