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1話「プロローグ」


 深夜の高速道路。

 わたしはバスの車窓を流れていく、光り輝く大都会の夜景を眺めていた。


 21歳、大学生。

 わたしは不毛な就活に疲れていた。


 なんかもう終活したほうがいいんじゃないかとさえ思い始めている。


 手ごたえがまったくないのに、地元と東京を深夜バスで往復するのはかなり疲弊するし、旅費もばかにならない。


 夜景の中でひと際赤い輝きを放つ東京タワーが目に入った。

 ピカピカ光ってるのがムカついた。


 見た目ばっかりキラキラしおって、心はくすむばかりだ。


 嫌いだ。



「こんな街、なくなっちまえばいいのに」



 と、つぶやいた。

 

 ……。


 うわっ、恥ずっ!


 深夜のテンションに言わされた感があるとはいえ、隣の席の人が寝ててよかった……。


 ちゃんと寝てるよな……?

 わき腹を軽くつついてみたけど、あいかわらずイビキをかいている。


 ふう、助かった。


 まあ無職まっしぐらの絶望的なご身分なんだから、これくらいの愚痴は許してもらおう。

 まさか本当に街がなくなるわけじゃあるまいし。



 すると突然、東京タワーが吹っ飛んだ。



 遠目にも爆炎が巻き上がっているのがはっきり見える。



「あれ……なに? テロ?」



 呆然とした声が近くから聞こえた。

 だけど、異変はそれだけじゃ終わらなかった。



 爆発した東京タワーのさらに向こうに、真っ白な巨大な輝きが発生したのだ。


 まるで直射日光。



 とてもじゃないけど目を開けていられない。

 目を閉じても瞼を光が貫通してくる。


 すぐに、バスがガタガタと揺れ始めた。


 ドン!


 と、下から突き上げてくるような衝撃を感じて――


 わたしは死んだ。




―――




 気がつくと、白く、神々しい空間にいた。

 辺りにはなにもない。


 唯一あるのは、というか、いるのは少女だけだ。


 目の前に美少女があぐらをかいて座っていた。


 ひとまとめにされたきれいな長い黒髪。

 白と赤の和装。


 これはどうみても巫女さん。

 美少女巫女さんだ。



「ずぴぴー……」



 巫女さんは鼻提灯しそうな勢いでいびきをかいて寝てる。

 やだかわいい……。


 邪魔するのもなんだと思ったけど、状況がさっぱりわからないので、申し訳ないけど起こすことにした。



「あのーすみません」


「ずぴぴー……んがっ!?」



 ガバっと顔を上げた巫女さんがわたしを見る。



「ん、あ、あ? おお! ようやく起きたか!」


「それこっちの台詞なんですけど……」



 巫女さんは「うーん。よう寝たのじゃ!」と伸びをする。



「待ちわびたぞー、わしの割り当てはおぬしでいよいよ最後なのじゃ」


「はぁ」



 いまいち話が飲みこめない。

 巫女さんは懐から紙を取りだして、「ふむふむ」と何度かうなずいた。



「スズキヨシノじゃな?」


「はいそうです」


「時間がないゆえ手短に済ませるぞ。わしは神なのじゃ。ウサギと呼ぶがよい」


「神、さま……?」


「ほじゃ。知っての通りおぬしは爆死した。しかし、ミ、ではなく本来死ぬ予定ではなかったため、これから異世界に転生してハッピーに暮らすのじゃ。魔物が跋扈する剣と魔法のファンタジー世界じゃぞ。く~っ、心躍るのう! 無論チートスキルもつけてやる。さっ、説明はもうよいな?」



 ものすごい早口で説明された。

 なんか急いでるのは伝わってくるけど、雑すぎる。



「あの、できれば転生とかじゃなくて生き返らせてほしいんですけど」


「元の世界に、元の自分で、か?」


「元の世界に、元の自分で、です」


「ダメなのじゃ。そんなことを望むやつはおらん」



 いや、ふつうにいるだろ!

 ……いるよね?



「はー。最後の最後に、よりによってモンスターカスタマーか。めんどくさいのぅ。そんな性格じゃから50社以上も入社試験を受けてお祈りメールしかこんのじゃぞ」


「は? まだそんなに受けてないんですけど?」


「あ……まだ、そ、そうじゃったの……」



 自称神のウサギは目を泳がせて頬をぽりぽりかいた。


 まさか。


 まさか今こいつ、未来の話をしやがったのか?

 絶望の未来をネタバレしてくれやがったのか?



「ま、どうせもう東京はないんじゃし、帰ってもしょうがないじゃろ」


「え? どういう――」


「さあさあ、つまらぬ話はやめて楽しいチートスキル授与のお時間なのじゃ! ばばーん!」



 とウサギが手を上げると、手の中に六角おみくじ箱が現れた。



「おぬしで最後じゃから、好きなスキルが出るまで存分に振り直すがよい。無限リセマラサービスなのじゃ! ラッキーじゃのう。こーいうの、なかなか選べないんじゃぞ?」


「いやちょ待――」


「遅いっ! わしが代わりに振ってやろう。神ビキを見せてやるからの。神だけに! あそれガチャ! ガチャ!」



 勝手に話を進めたウサギがおみくじ箱をからからと振る。


 しーん。


 なにも出てこない。

 再度、からから。


 なにも、出てこない。



「おや……残念ながら品切れのようじゃ。ま、あれだけの人数の後じゃからのう……。では、これにてスキル授与式を終わりとする。じゃ、もう転生させてよいな?」


「いいわけねーだろ! せめてスキルよこせ!」


「なんじゃなんじゃ口の悪い女子(おなご)じゃなあ。わしは急いでおるのじゃ! わがままを申すな!」


「わがままって言うのこれ!?」



 生き返らせるのはダメ。

 チートスキルリセマラさせてくれるって言ったのに、それもナシ。


 裸で放り出す異世界転生なんて聞いたことがないぞ!


 というか。


「なんでそんなに急いでるんですか?」


 東京がもうない、と気になることを言っていたし、もしかして黙示録的な世界の危機を救いに行く用事があるのかもしれない。


 だとしたら、わたし1人のせいで神様を引き止めるのは申し訳ない。

 いい人生ではなかったけど、いい終わり方にはしたいものだ……。



「ベィケンスなのじゃ」


「あん? もう1回いいすか?」



 聞き間違いかもしれないしね、念のため……。



「やれやれ、発音がちとネイティブすぎたかのう。バカンス。休暇なのじゃ」



 聞き間違いじゃなかった。



「遊びのために人の生死を時短するとかナメてんのか!?」


「な! いつまでも休暇を遊びなどと言っとるから日本人は遅れとるんじゃ! くだらん仕事なんぞより、休暇のほうがはるかに大事じゃわい!」



 転生を決定する仕事をくだらんと言いきったぞこいつ……ほんとに神か?


 怪しいな。

 素直に話を聞きすぎたけど、詐欺の臭いがプンプンするぜ!


 とりあえずスマホで警察に通報しとこ。

 そう思ってポケットに手を突っ込もうとしたら――


 ない。

 ポケットじゃなくて、体が、ない。



『いいかげんになさい』



 突然、バカでかい声が頭の中に響いた。

 語調は強くないのに、頭が割れそうだ……!



『転生者のスキルを枯渇させるとはあいも変わらず雑な仕事ぶり。ウサギ、そなたはなにも反省していないようですね』


「反省してるのじゃ! じゃからがんばって何千人も転生させたのじゃ!」


『そもそもそなたのミスが原因なのですから当然です』


「うぐぅ……」



 この満ち溢れるパワハラ感、ウサギの上役か?



『ウサギ、罰としてそなたの神としての姿と力を剥奪します。そして、化身としてその者に同行することを命じます』


「な!? わしはあんなインフェルノなところ行きとうない!」



 そんな酷いところにノースキルの裸状態で送りこむつもりだったのかよ……。

 というか、さっき心躍る世界って言ってただろ嘘つき!



『スズキヨシノ。聞いての通り、そなたには「鍛冶の神」スキルを授けます』


「鍛冶の神……それってどういうスキルなんですか?」


『名前の通り神スキルですが、能力や使い方はそこのダメ神においおい聞けばいいでしょう。では、もう転生させてよいですね? ここは後がつかえているのです』



 結局こいつも急ぐのかよ!



「後が……ここって……?」


『この面接室は他の神が使う予定なのです』



 あ、これ面接室だったんだ……。


 なんか急に異世界転生したくなってきた。

 もうここには一秒だっていたくない。



『では、素敵な鍛冶ライフをお祈りしています。ばいばーい!』


「いやじゃー! 洋風料理はいやなのじゃー!」


「お祈りはやめてーーーーー!」



 自分の魂の叫びが遠くなり、わたしの意識は急速に薄れていった。



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