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地球儀

作者: 雉白書屋

「はーい!」


 インターホンが鳴ると同時に少年は自分の部屋から飛び出し、玄関に向かった。

読み通り、宅配便だ。荷物を受け取り、また部屋に戻る。

今日は少年の誕生日。単身赴任中の父親からプレゼントが届いたのだ。

 包みを破り、箱を開けると中身は


「……地球儀?」


 中身は地球儀。それもかなり精巧で高そうだ。

完全な球体というわけではなくところどころボコボコしている。それもリアルに近いだろう。

 ……が、それが何だというように少年は不満げな顔。

 これで勉強しろということだろうか……それも誕生日に。

そう落胆し、次第に怒りが込み上げてきた。

 一体どういうつもりなんだ。これで喜ぶとでも? 

誕生日なんだぞ僕の。誕生日誕生日誕生日……。

そもそも包みだってシンプルで全然、誕生日プレゼントっぽくな……


 と、少年は怒りで地球儀を床に叩きつけるその寸前で、ふと気づいた。

 送り主の名前がない。それどころか宛先もないのだ。

間違いで届けられたのだろうか。だとしたらえらいことをしてしまった。

今に間違いに気づいた配達人がとりに戻ってくるかもしれない。


「どうしよう……怒られる」


 興奮するあまり、雑に開けたため箱も包装紙もボロボロだ。

でも中身は無事。謝れば許してくれるかもしれない。

 少年は窓のそばへ行ったり来たり、落ち着かない様子で宅配業者を待ったが

結局、数時間経っても戻っては来なかった。

 そのうち、少年は玩具で遊びだすが地球儀が目に入り集中できない。

今になってその精巧さに気づき、触れるのも恐れ多い。

 そこで、少年は家の物置の中に地球儀をしまった。臭い物には蓋というわけだ。

 心が軽くなった矢先、配達人がやって来た。

あたふたしたが、どうも先程とは違う業者らしい。

そして届いた荷物は今度こそ父親からのプレゼント。嬉しさで地球儀は忘却の彼方へ。



 そして月日が流れたある日。季節外れの雪が降り始めた。

その少年含む無邪気な子供たちは喜んだ。最初だけだが。

異常性と、周りの大人の不安を感じ取ったからかもしれない。

 その雪は溶けないのだ。そして雪は止むことはなく、空は常に曇り、地表を覆った。


 妙な世の中になったものだが、それでもやがてそれが日常となる。

 学校へ行き、また家に帰る。咳き込む人間が増えたがそれもまた日常。


 そんなある日、少年は母親に物置の整理を言いつけられた。

じきに引っ越すのは母親と父親の電話の内容から何となく気づいていた。

異常気象を前に、不安が込み上げ家族一緒に暮らしたいということだろう。


 もう使わない物はゴミの日に捨てる。

野球のグラブ。父親のゴルフバック。サッカーボール。どれも埃がかぶっている。

そして


「あ」


 その地球儀を見つけた少年の脳裏にあの日の記憶が蘇る。

 そうだ、すっかり忘れていた。が、今更気にするほどのものではない。

その後、荷物の届け間違いに気づいた配達員が家にやってくることもなかった。

 少年は地球儀を取り出し、眺める。


 重いし埃をかぶっているけど部屋の飾りにはいいかもしれない。

でも、この地表のデコボコ。リアルなのは良いけど埃を拭き取るのは面倒だ。

一気に水洗いできないだろうか? ホースは庭にある。

でもわざわざ面倒だ。そこまでする気は起きない。捨てちゃって良いだろう。

もう持ち主がどうとかいう話でもない。過去の事だ。

 ……それにしても誰が、どうして、うちに届けられたのだろう。

どこかに何かメッセージでも書いていないかな……


 少年がそう思い、地球儀を高く掲げた時だった。

 底に何か書かれているのを目にした。


「君に、あ!」


 バランスを崩し、少年の手から地球儀が滑り落ちる。

そしてそれが地面に落ちた時、少年を大きな振動が襲い

少年もまた地球儀と同じように倒れた。

 大気の震え、家が崩壊する音を聞きながら少年は

地球儀が割れていないかと目を向けたが

底がこちらに向いているためその全容はよく見えなかった。


 『君に委ねる』

 

 目にしたそのメッセージとその重さが閉じた瞼の裏、その奥の脳で繰り返し、圧し掛かる。

 手を握り合わせた少年だったが、ふと今、自分が祈ろうとした存在は

もう地球にいないのではと、そう思った。

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― 新着の感想 ―
[一言] ぎゃー! そういうの、もっと分かりやすい言葉で、台座の面に書いといてください! 雪は埃だろうなと予想はしてましたが、どう転ぶかと思ったら。 理不尽な重責押し付けは、勘弁してほしいですよね。
[一言] いやー、コワいですねー。 果たして送り主、前の持ち主は?
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