悪役令嬢と一緒に追放されちゃいました!?(4/9 改行)
「アハハ...」
ここは森の奥の、国境のギリギリ外側。
身一つで一人放り出された私、エルサはもう笑うしかありません。
...ああ、一人じゃありませんでしたね。
地味な見た目のザ・平民といった感じの私とは正反対に、どこからどうみても絶世の美女である王太子の元婚約者、クリスティーナ様も一緒です。
笑ったら素敵でしょうに、その顔は曇りに曇りまくっています。
なぜ私達がこんな状況に陥ったかというと、時は数時間前まで遡ります。
◇◇◇
「クリスティーナ、貴様との婚約を破棄する! 実の妹であり、聖女でもあるリリーに嫉妬し、虐めるような性悪な女などこっちから願い下げだ!」
まだ成人していない、王族や貴族が集められているこの学園に、私は仕事の一環として来ていたのですが、そこで面倒くさそうな光景を目の当たりにしてしまいました。
この国の王太子を含めた男性陣が、うるうる顔の少女を後ろに庇ったまま、一人の美女を寄ってたかって睨みつけているのです。
芝居でよくやる断罪劇でしょうか?
本当にやる人がいたんですね。
リリーの事は知っていますよ。
見た目だけは愛くるしい天使のようですが、性格は悪魔のよう。
召使いのような扱いをされ、何度泣き寝入りする羽目になったか!
というか、あいつに姉? 髪と瞳以外、全然似てませんね!?
巻き込まれたくはないので、事の成り行きを静観していましたが、事態は思わぬ方向に向かいました。
「騎士として、聖女を貶める邪悪な者を排除する!」
なんという事でしょう。
男性陣のうちの一人が剣を抜いたかと思うと、美女に向かって振りかぶったのです。
あんた正気か!? まだ騎士ですらないし、非力な女性を切りつけようだなんて...!!
「だめーーーーーーーーーーーーー!!」
思わず私は、そいつに向かって魔術をぶっ放したのですが、放った魔術は王太子を巻き込んでしまいました。
壁に叩きつけられて二人は失神、辺り一帯はシーンとする中、私の脳内には『オワッタ』の文字が浮かんでいました。
◇◇◇
結果、命までは取られませんでしたが、私達はボロ馬車でドナドナされ、国外に放り出されたというわけです。
...現実逃避してる場合じゃないですよね。
今後について考えないとと思ったその時でした。
「ごめんなさい」
「へ?」
一瞬、クリスティーナ様がなにを仰られたのか分かりませんでしたが、数秒たってようやくそれが謝罪の言葉だと気づきました。っというか...
「あのリリーの姉が!? 全然似てな...って、すみません! つい本音が...」
「いえ、いいのです。あなたの言う通り、あの子と違って私は可愛げがありませんから...」
なんか自分を卑下してますね。
リリーと違って、この人はいい人なのでは...と、それどころではないですね。
「魔物が来ます。クリスティーナ様は下がってください」
「!?」
ドスッドスッ ブフ~~
二メートル程もある、猪型の魔物が唸り声を挙げながらこちらを睨んでいます。
国に張られた結界から出た事のないクリスティーナ様は、見るのは初めてですよね。
可哀そうに、震えています。
「い、いえ、私が囮になるので、あなたは逃げなさい。...巻き込んでしまって、本当にごめんなさい」
「...」
クリスティーナ様は震えながらも、私を後ろに庇います。
あの時、男どもは徒党を組んだ上で、一人の非力な女性を睨みつけていました。
ですがこの人は私を守ろうと、たった一人で強大な魔物に立ち向かおうとしています。
「クリスティーナ様、あなたはとても優しくて素敵な人なんですね。」
「え?」
ブフゥ~~!!
魔物がこちらに突進してきましたが、問題ありません。
私が張った結界に阻まれ、後ずさりしているところに雷をお見舞いします。
このぐらい、いつもやっている事です。
「えっと、あなたは...」
「エルサです。クリスティーナ様」
そう言えば、ボロ馬車の乗り心地が悪すぎて、自己紹介する余裕なんてありませんでしたね。
「エルサ、ひょっとしてあなたは...」
「あ~、話せば長くなるんですけど...」
◇◇◇
実は私、エルサこそが本物の聖女なのです。
とはいえ、お偉いさん方は平民が聖女だという事を隠すため、表向きはリリーが聖女だという事にしました。
そして、リリーに持たせた魔道具を介して、結界を張らせる他に、怪我人の治療、果てには一人で魔物討伐に向かわせたりと、物凄くこき使ってくれました。
聖女の仕事をこなしていたのは、病気がちな両親を養うためでした。
ですが数年経ったある日、知ってしまったのです。
両親は私が家を出て、数か月後に亡くなったという事を...お偉いさん方は両親に給金どころか、パンの一切れすら渡してくれなかったのです。
幸いにも私は、未だに騙されていると思われているようなので、国外逃亡に向けていろいろ動く事にしました。
様々な技能を身につけたり、魔物討伐で森に向かわされた時、魔物にとって猛毒な香草を忍ばせた物資を隠したりしたんです。
...まさか逃亡する前に、私の価値を知らないアホどもによって、追放される事になるとは思いもしませんでしたけどね?
「...放り出されたのが、物資の隠し場所近くで良かったです。はい、クリスティーナ様...お口に合えばいいのですが?」
「...」
あれ? クリスティーナ様、絶句しちゃってます。
まあ、我ながら、壮絶な半生だとは思いますがね?
それより、スープ飲んじゃってください。
さっきの魔物の肉を使っていますけど、森で採取したハーブや蜂蜜、塩コショウ、そして贅沢にチーズやワイン(厨房からくすねておいた)を入れたので、結構おいしいですよ?
「あなたは強いのですね」
「まあ、両親が復讐を望むとは思えないですし。そんな事している暇があったら、幸せになる努力をした方がいいじゃないですか」
「...私とは大違い。両親は私に『もっと努力をしなさい』と言っておいて、リリーの事は甘やかしてばかり。私も、あんな風に愛されたかった」
ああ~、泣いちゃってます!
なんとなく察してましたけど、クリスティーナ様の両親はロクでなしですね!
「ほら、スープ飲んじゃってください! いいですか? クリスティーナ様は捨てられたのではなく、こっちから捨ててやったのだと思えばいいんです」
「捨てて...?」
「はい、自分を愛してくれない連中なんか放っておいて、一からやり直せばいいんです。私が、クリスティーナ様を幸せにします!」
「!...フフフッ」
一瞬、クリスティーナ様が目を瞬かせたかと思うと、突然、笑い出しました。
「その意気です! やっぱりクリスティーナ様は、笑った方が素敵ですよ。あんなアホ王子にはもったいないくらい」
「アハハ! あなたって、あの方よりも王子様みたいね。...不束者ですが、よろしくお願いしてもいいかしら?」
「もちろんです! さあ早く、完全に冷めちゃう前に、スープを頂いちゃいましょう!」
「そうね。...美味しい! こんなに美味しいのは初めてだわ」
「お、大袈裟ですよ...」
◇◇◇
「私が幸せにしようと思ってたのに...」
「...往生際が悪いのでは?」
うるさい、お前は黙ってろ!
ここは聖堂。クリスティーナ様はウエディングドレスに身を包み、伴侶のもとへと向かっています。
その様子を、私達は目立たないかつ、結婚式の様子がよく見えるところで眺めているところです。
あのあと私はクリスティーナ様のメイドとして、身の回りのお世話のほかに、悪い虫の排除をこなしながら、一緒に幾つかの国を巡りました。
そして辿り着いたのは、とある大国。
いろいろあって、クリスティーナ様は男爵位を賜わるところまでは良かったのですが、問題が起きてしまいました。
そこの国の王太子がクリスティーナ様に惚れ込んでしまい、しょっちゅう口説きに来るようになったんです!
いつも通りに撃退して他の国に向かおうと思ったのですが、そいつは眉目秀麗、文武両道、おまけに誠実な性格と完璧な方なんですよね!
最初はやんわりと断っていたクリスティーナ様も、次第に絆されていってますし!
そうして口説かれ続けて二年後、とんでもない事件が起きました。
とある女が、魅了魔法を使って国を大混乱に陥れたのです。
幸い、私達の奔走によりどうにか事態は収束しましたが。
その事件の際、国王、宰相までもが魅了される中で、王太子は屈せず、クリスティーナ様への愛を貫きました。
そんな姿を見せられましたら、私は白旗をあげるしかありません。
国王は責任を感じて近いうちに退位する事を宣言しました。
この先クリスティーナ様は、王妃として新王を支えていくのでしょう。
...それでも悔しいものは悔しいんです!
「エルサ、あなたは今後も殿下、と...クリスティーナ様を支えていくんですよね?」
「ええ、クリスティーナ様、を今後もお支えするわ!」
「...」
となりにいる男は、王太子補佐官ですね。
王太子が大好きすぎるこいつとは馬が合わず、しょっちゅう言い争ってばかりでした。
...まあ、今は同士であり、頼りになる相棒です。
「まあ、いいです。僕は殿下のために、あなたはクリスティーナ様のために、今後も心血を注いでいくんですよね」
「それはそうね」
なんで、いまさらそんな事を聞いてくるのでしょうか? 変な男ですね。
「...思うのですが、御二人の御子にもそういった存在が必要ではありませんか?」
「確かにそうだけど...なにが言いたいの?」
本当は分かっています。この男がなにを言おうとしているのか。
でも、そういうのはちゃんと言葉にだして貰いたいんです。
「僕達、結婚するのはどうでしょう?...違いますね。僕は、あなたの事が好きです。ともに主を支え、ともに生きたいと思えるのは、エルサ、あなただけなんです」
「...! 私も、あなたが好きです。背中を預けて戦う事が出来るのは、あなただけです」
風の噂によると、祖国は衰退していったとか。
他の国と違って、聖女に頼ってばかりだった報いでしょうね。
別にどうでもいいです。
私は悪役令嬢と一緒に追放されましたが、今では幸せです!