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宿題ば出すけんね。

作者: たのし




今、どんな未来を見とるね?

何を考え、誰とおるおね?

みんないい子だから先生の宿題忘れてなかよね?


「自分自由研究」


提出期限はいつでもよか。

先生に会いたくなったら尋ねてこんね。





私がこの学校に赴任して13年がたった時、小さな村の小さな学校は全校生徒13人だった。


私は5年生1人と6年生3人を受け持っていた。


とは、言ってもみんな顔は知ってるし、どんな子かも知っている。


毎日家を出て、みかんのなる木の醸し出す甘酸っぱい匂いを嗅ぎながら自転車で坂道を下る。

みかんの甘酸っぱい匂いが無くなると、次は潮の香りがしてくる。そうしたらすぐ学校だ。


私が自転車置き場に自転車を置くと、一輪車で遊んでいる子達の声が校庭から聞こえてくる。


私はハンカチで汗を拭きながら職員室を目指す。


「おはようございます。」


私が数人の先生方に挨拶をすると、窓際の校庭が見える自席につく。空けてあった窓からは風に運ばれて子供達の声が聞こえる。


聞き入りながら今日の1時間目の算数の準備をしていると、2年生のチカちゃんと1年生のまゆちゃんが僕の横の窓の縁に木の実を並べ出した。


そして


「ここはお店だから、まゆちゃん買んねよ。」


っとお店屋さんごっこを始めた。


わたしは赤いルビーの様な木の実を取り「これ下さいな。」っと言うと、「それは、葉っぱ2枚になります」っと店員のチカちゃんは言った。


ならこれでっと、葉っぱが印刷された付箋を渡すと、「やった。」っと言って2人は何処かに行ってしまった。


時刻は8時半。


職員ミーティングを行い、私は受け持ちの5年生6年生教室に向かった。


ドアを開けると、4人の私の生徒達は「先生おはようございます。」っと元気な声で言った。


「おはよう。」


っと言うと、4個の太陽は眩しい笑顔で私を見つめていた。


大我はリーダー身溢れる男の子。

流星は頭の回転が早いしっかり者。

風花は優しい泣き虫の女の子。

1人だけ5年の翔太は少し我儘な弟分。


そんな私の生徒達は仲が良くいつも一緒にいた。


「さぁ、10月31日の朝の会始めるよ。」


いつもの1日が始まった。


季節は寒くなり、半袖で粘っていた大我もセーターを来て登校し始めた12月22日。


私は学活の時間でクリスマスツリーを作る事にした。

校長先生がくれた盆栽に折り紙で作った星、長靴、金色の紙テープでデコレーションして、翔太が大事にしていた松ぼっくりを盆栽の先っぽに乗せた。


「うわ。きれかね。」


「うん。きれか。きれか。」


「やっぱり、俺の松ぼっくりが目立っとるね。」


っと私も含めた5人でクリスマスツリーを囲み感動していた。


「もう、冬休みじゃね。今年は寒いけ、風邪ひかんごと、年ば越さんばね。」


「そうや。年末皆んなで初詣行こうだい。」


流星がそう提案すると、

「なら、元旦の朝9時に亀山神社の階段前で集合な。」

っと、初詣の計画がたった。


「先生もやけね。風邪ひかんごと。んで、遅れんごとよ。」

っと、心配する風花。


「はいはい。了解した。」


私達はそう約束した。


冬休みが始まり静かな校庭を見ながら私は6年生3人の卒業に向けた書類を作成していた。


「あの子達ももう数ヶ月で卒業か。」


私はキュッとなる胸を押さえて会える元旦を楽しみにしていた。


元旦。私は早めに起き9時前に亀山神社の待ち合わせ場所にいた。

すると、セーターにニット帽の大我が先に来てその後に風花と流星が一緒に来た。


しかし、9時を過ぎても翔太が来ないため、翔太の家に連絡するとどうやら風邪をひいて寝込んでしまったらしい。


私がそれを3人に伝えると、「翔ちゃん大丈夫かね?」っと心配する風花。「布団ば蹴って寝るけ風邪ひくとさ。」っと大我。「翔太にお守りば買って行こうかね。」っと流星。


3人とも弟分の翔太を心配している様子だった。


そして、私達は神社の階段を登り4人でお参りをした。

「私達もあと少しで、卒業。3人とも中学校でも頑張れます様に。」っと風花が言った事に私は少しうるっとした。


「よし、お参りも終えた事じゃから、翔太にお守り買ってお汁粉でも食うて帰ろうかい。先生がおごっちゃる。」


「先生よかとね。太っ腹じゃね。」


私達は熱々のお汁粉を食べ、特別な1日を過ごした。


そして、寒さも少し和らぎ出した、3月。


3人は少し、お兄さんお姉さんの顔になり出していた。


「俺、この前中学の制服買いに行ったけど、何かブカブカだったんさ。んで、母さんにそれ言うたら、すぐでこーなるけ、そんくらいでよかとって手の隠れるくらいの制服になったとさ。何か着て行くとの恥ずかしか。」っと大我。


「うちもそんくらいと買ったけ恥ずかしくなかよ。一緒たい。」っと流星が話していた。


「あー。私達あと少しで卒業たいね。寂しかね。」


風花はそう言って机に伏せた。


私はその光景を見て、この子達の旅立ちを指折数えた。


そして、3月の後半。


小さな村の小さな卒業式が始まった。


校歌とともに歩いてくる3人。

卒業証書を受け取る3人。

堂々と退場した3人。


私は3人の行動一つ一つを目に焼き付け瞼の裏に記憶した。


そして、教室に帰り最後のホームルーム。


「大我。流星。風花。卒業おめでとう。3人とも私の大事な教え子です。中学に上がっても私は3人の先生です。」


私は涙を堪えながら言っていたが、風花が私の顔を見て泣き出した。


「先生。泣かんとよ。夏休みとか遊びにくるけんね。」


大我は堪えているのか、唇をプルプルさせていた。

流星は私の目を赤くなった目で見つめていた。


翔太は袖で涙を拭きながら話を聞いていた。



「先生から3人に最後の宿題があります。提出期間は自由です。」


私は黒板に震える手で書いた。


"自分自由研究"


「自分について自由に研究して下さい。好きな事。嫌な事。こんな事考えた。あんな事考えた。こんな場所に言った。あんな場所に行った。こんな経験。あんな経験をした。将来こうなりたい。あーなりたい。自分を自由に研究してください。そして、いつか先生に見せてください。先生の楽しみのための宿題なので、どんな回答でも100点です。楽しみにしています。」


私は3人にそれを伝えると。


「先生絶対見せにくるけんね。楽しみにしとってね。」っと言ってくれた。


そして、3人が卒業し、そのまま私は新しい5年生2人と6年になってランドセルにお守りをつけた翔太と3人で新しい春を迎えた。


翔太も卒業時、同じ宿題を出し送り出してから5年。


学校に一本の電話が入った。



「先生。元気しとるね。風花です。私達もう高校ば卒業するとよ。3人とも元気にしとるけ、今度宿題ば提出しに行くけ楽しみにしとってね。翔太は来年出すらしかよ。」


っと大人になった風花の声だった。


「楽しみにしとるけね。3人の100点の自分自由研究ば。」



私はそう言って、電話を切り校庭で遊ぶ子供達を見ながら鼻歌を歌った。



おしまい



-tano-



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