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10:王太子妃としての新たな暮らしが始まりました

 王太子殿下とのお茶会が終わった翌日、離宮の皆さまの手を止めさせてしまうのは申し訳ないものの、殿下から王城にて王太子妃としての教育を受け、王太子妃として仕事をするように申しつかった事を説明します。続けて皆さまと過ごした日々に感謝を述べた後で急では有るけれど、月の終わりまでには王城へ向かう事も話しました。


「それで、ですが。ケイとラッスルは王城からこの離宮について来てくれた侍女と護衛ですので、このまま王城へ向かう際にも連れて行きたいと思います。また、出来ればジョナスも共に王城へ行って下さると有り難く思いますが……。ジョナスはどう思う? 断ってくれても構いません。貴方の率直な気持ちを教えて下さいな」


「参ります! 私は妃殿下の専属侍従ですから!」


 食い気味に返事が来て驚きましたが、嬉しいので口元が笑みを模っています。では、ジョナスも共に参りましょう。


「では、3人を連れて参りますが、皆さまお世話になりましたわ」


 殿下と結婚してから一年はとうに過ぎていましたが、なんだか随分と色々有ったせいでしょうか。四・五年経過した気分です……。でも、これから未だ未だ色々有るのでしょうから、こんな事で疲れているわけにもいきませんね。


「妃殿下」


「はい」


 執事長から呼ばれてわたくしは執事長を見ます。


「妃殿下が来てから色々とございました。私共は使用人として貴方様にお仕えする事を最初は厭うておりましたが、妃殿下のお人柄に惹かれて気持ちを改めました。厭うていた事を謝りますと共に、妃殿下が先々でお疲れになられた時は、どうぞこの離宮へ足をお運び下さい。我等一同、心よりお待ちしております」


 ザッと音がする勢いで皆が頭を下げました。わたくしが嫌われていた事など当然だと思っていただけに、いつでも離宮に来て欲しい、と言ってくれた執事長に胸が熱くなります。


「ありがとう」


「呉々もお身体に気をつけて下さい。また、妃殿下が行って下さったその日の使用人達のナンバーワンというのを、王城でも行える時に行って下さい。……さすがに毎日は難しくなりましょうが、王城でも行えばきっと使用人達の質の向上になりましょう」


 ちょっぴりお茶目な執事長にふふっと笑ってしまいます。でも、そうですね。離宮の皆が気に入ってくれたのなら、王城でもそうしてみましょうか。お別れは尽きないですが、出立の準備をしなくてはなりません。また皆も仕事の手を止めていますから、仕事をしてもらわなくてはなりません。諸々の感謝を込めて、わたくしはゆっくりと頭を下げました。


 人は、心から感謝の念を抱くと、その相手に敬意を表するために自然と頭が下がるようです。


 またゆっくりと頭を上げて

「出立の準備が整い次第、向かいますから、見送りは不要です。いつ出立とも言い切れませんから。でも、休暇を頂けた時は此処に戻って参ります。その際は宜しくね」

 と心を込めて告げました。それを機にわたくしは出立の準備に入りました。尚、離宮を出立前に3人には休日を一緒に取ってもらいます。道中でケイが休日に当たる日が有りますが、専属ですから道中は休みを与えられないので、敢えて前々日に取ってもらう事で道中の休みは無しにしてもらいました。

 ラッスルの他にも護衛はおりますが、6人の護衛達には順番で休日を2人ずつ取ってもらうので大丈夫でしょう。





***





 王太子殿下とのお茶会から15日後。わたくしは王城へ足を踏み入れました。そこには国王陛下並びに王妃殿下と王太子殿下が待っていらっしゃり、少し驚いてしまいました。


「セレスよ。戻って来てくれて感謝する」


 国王陛下のお言葉に頭を下げ、王妃殿下のご病状を確認して、早めに休んでもらいます。済まなそうな王妃殿下には、これがわたくしの役割ですので、と気に病まないようお願いしました。前世・日本では「病は気から」 という言葉が有りました。確かに体調が悪いなって思い事で一気に具合が悪くなる事も、気のせいだから大丈夫、と気合いを入れる事で乗り切った事も有りました。尤も本当にダメな時は気合いで乗り切れ無かったですけども。

 その言葉を思い出せばアレコレと気に病むからこそ病気が治らないのでは……と思いましたので、わたくしに済まないと思うのでしたら気に病まずに治って下さいませ、と少々図々しくお願いをしておきました。


 そして王太子殿下ですが。


「此方の都合で離宮に行け、と命じておいて、此方の都合で戻って来てくれ、と命じるのはセレスにとって失礼だと思うが。済まない。どうしても国政に関わる事であるから、私を助けて欲しい」


 随分と率直なお言葉を賜りました。


「殿下。離宮へ行くよう命じられました事は、寧ろ、わたくしはかの方との仲を裂かずにいられる事を喜びとしておりました。また事が起きましたからには、わたくしが正妃で有る以上、戻って来るのもまた役目。何も殿下が気にかける必要は有りません」


 かの方、という言い方なのは当然、名を出すわけにはいかないからです。……つまり、名を出してはならぬ程の大罪を犯した事の現れです。それはそうです。世継ぎの偽りを産んでしまったのですから。国の乗っ取りを企んだと考えられるわけで、それは大罪ですからね。


「ありがとう。ただ、セレス」


「はい」


「其方と交流を深め、其方とは信頼し合える関係を築きたいと思うのだ」


「それはわたくしも願っても無い事」


「では、先ずはセレスが私の名を呼ぶ事から始めてくれないか。敬称ではなく、私を呼んで欲しい」


 成る程。確かに会社の方と接する時に「先輩」 と呼ぶのと「主任」 と呼ぶのと「〇〇さん」 と呼ぶのでは、随分と距離感が違う気がしました。学校もそうです。部活の「部長」 と「〇〇さん」 では、やっぱり親しみが違ったものです。


「シェイド様、で、宜しいでしょうか」


「うむ」


「では。シェイド様、これより末永く宜しくお願い致します」


 政略結婚ですし、最初はお飾りでしたけれど、レーゼル王国側から離縁を突き付けられない限り、わたくしから離縁を申し出るつもりは生涯有りませんでした。そして、レーゼル王国が、アズリー公国にて金が産出された事によって政略結婚の話が持ちかけられた事も知っております。という事は、金の産出が無くならない限りは、レーゼル王国側も離縁を突き付けて来る事は有りません。


 以上の理由から、わたくしは余程のことが無い限り、離縁には至らないと判断しまして、末永く、とご挨拶をさせて頂きました。大体国同士の契約による政略結婚です。簡単に離縁なんぞ出来やしません。それこそ、わたくしかシェイド様のどちらかに不貞問題が起きても、元側妃の時とは違って、その程度では離縁出来ないのです。元側妃の場合は、国内の政略結婚ですから、また適用される法が違うんですよね。


 まぁシェイド様は元側妃に不貞を働かれましたから、おそらく不貞は無いでしょうし、わたくしも前世で不貞を働かれた記憶が有りますので、自分が不貞を行うなど有りません。ですからこの件を理由に離縁は有り得ないと考えて良いでしょう。


 後は考えられるのは、王太子と王太子妃の役目の放棄や国を滅亡させる程の散財。或いは国を滅亡させるような企みでしょうか。所謂クーデター的な事が起きたなら離縁事由にはなりますが。今のところその可能性は低いです。少なくとも、わたくしやアズリー公国側にはクーデター的な企みも無いですし、前世の記憶が有る所為か国を傾ける程の散財なんてどれだけ使えば良いのか解らない上に怖いですし。そんなにお金が動くなんて怖すぎです。後は王太子妃の役目を放棄する気は有りませんから、離縁は無いですかね。……多分。


 王太子妃の役目。

 執務・公務・外交等は行いますが、世継ぎはどうしましょうかね……。もちろん、シェイド様が側妃をお召しになられるので有れば、それはそれで良いのですが、お召しになられないまま、わたくしが成人しましたら……。わたくしが世継ぎを産む役目も果たす必要が有るわけですよね。

 うーん。どうしましょう。


 前世の記憶が有る所為か、出来れば愛し愛される相手に触れてもらいたいのですよね。いや、しかし。政略結婚で有る以上、そんな贅沢も言えませんね。せめて、あれです。シェイド様とわたくし。お互いに嫌い合う関係で無ければいいのです。愛し愛されなくても友情とか信頼関係の強い間柄ならば、わたくしも拒否する気持ちは無いでしょう。


 ……あら、こう考えると確かにシェイド様と交流を深めて信頼関係を築くのは必要ですね。

 そうです。もしかしたら、シェイド様のお子をわたくしが産む可能性も有るかもしれませんから、お互いの信頼を築くための交流は寧ろ大歓迎ですね。


「此方こそ、末永く、宜しく頼む」


 つらつらと考えてはいましたが、きちんと話は聞くつもりでした。ただ、この返答を頂くのに少々時間が掛かっていたのです。……間違えたかしら? と思うくらいには、間が開きました。でも、きちんと返事をもらえたのでホッとしました。

 さて。シェイド様が直々に王太子妃の部屋へ案内してくれるそうです。シェイド様を訪ねて何度も王太子の私室を訪ねていましたから、場所は判りますが、改めて案内して下さるようです。

 わたくしに好みは有りますが、余程合わない、という事でも無い限りは内装に手を加える気もない、という思いは変わりません。王妃になった暁には、自分好みの内装にはしたい、と思っていますけれどね。さて、どんなお部屋なのでしょうね。

 ケイとジョナスとラッスルは当然着いて来てくれていますが、シェイド様の側近のサミュエル殿の他にシェイド様の護衛の方が数人いらっしゃいます。囲まれながら歩いていると、聞こえよがしに嫌味です。


「あんな子どもが正妃だなんて、王太子殿下が可哀想だわ」

「きっと、元側妃様が浮気したのも、あんな子どもに正妃の座を取られたからよ」


 チラリと見れば王城の侍女が着ている喉元まで詰まった襟の紺色のドレスとワンピースの中間といったワンピースではなく、動き易い簡素な素材の軽めなワンピースにエプロン姿。つまり下級使用人であるメイドです。メイドは本来なら主人筋には仕えません。ケイやジョナスのように専属で着く事はなく、洗濯や掃除や料理人の手伝い的な事を行います。

 という事で、主人に当たるわたくしにこんな聞こえよがしの嫌味を言うのは不敬でしか無いので、護衛に切られても文句は言えません。


 そして、わたくしに聞こえたからには当然、他の者にも聞こえています。実際、ケイが怒りを露わに。ラッスルが剣に手をかけて抜こうとしています。シェイド様は、少し身体が固まったように動けない所を見れば、かの方の事を言われて傷を抉られたのでしょう。こんな動揺している姿を王城の使用人とはいえ、他人に見せるわけにはいきません。ラッスルが剣を引き抜こうとするより少し早く視線で止めました。


「其方達、誰に物を申していますか。その頸を刎ねるよう命じるのは簡単ですが、たかが使用人の分際で我が夫を侮辱するような発言は許すまじ。わたくし自らがその頸を刎ねてやります。ラッスル、剣を。ケイと2人でそこの不忠者を抑えつけよ!」


 普段は、このような事は申しませんが、此処は離宮と違い、権謀術数渦巻く王城です。毅然とした態度を取らないと舐められますし足元を掬われます。わたくしに味方の居ない現状で、力の差を見せつけないといけません。ラッスルから抜き身の剣を渡され両手で構え、ケイとラッスルが二人のメイドを取り押さえます。


「「ひっ」」


 煌めく剣の刃に二人が短い悲鳴を上げますが、そんなの知った事では有りません。多少重みの有る剣なので振り下ろせば勢いは止まらない事でしょう。振り上げようとした所で。


「セレス、待て」


 チラリとシェイド様を見れば動揺は落ち着いたご様子。サミュエル殿がシェイド様を宥めていたのは見えていましたし、シェイド様の周りの護衛は一人を除いてシェイド様を見ておりませんでした。……それは護衛としてどうなのだ、という話ですがそれはさておき。サミュエル殿に宥められたシェイド様が自分のお立場を思い出されたのでしょう。わたくしを止めて来ました。


「はい、殿下」


 わたくしは敢えて殿下と呼びかけます。


「この者達への処罰は法に照らし合わせて行う。故に其方が勝手な行いをしてはならぬ。私心で処刑は許さぬ」


「畏まりました。しかしながら殿下。この者達は、かの者の事を口に致しました。大罪を犯した者の事を気軽に口にする、という事は即ち王族に何らかの企みを抱いているやもしれません」


「其方の私への忠誠は認める。が、些か行き過ぎだ。仮に大罪人の事を気軽に口にしたこの者達が、大罪人の仲間だとしても、法で定めた上での事。この者達への処罰は追って申し付けるので、それまでは牢に」


 最後の言葉は護衛に命じられました。これで二人のメイドは一応、命を救われました。法に照らし合わせた結果がどうなるのか、それは後ほど。

 わたくしに対する侮りは、このメイド達に対する苛烈さで、遠くからこの様子を見ていた使用人達の口から噂が駆け巡る事でしょう。

 また、シェイド様の寛容さも同時に知れ渡るはず。

 同時に元側妃の事を不用意に口にすれば、という見せしめにもなった事でしょう。


 わたくしはラッスルに剣を返し、シェイド様に従うように深々と頭を下げました。これで残った護衛を含め、使用人達の目には、わたくしがシェイド様の言う事ならば聞く、と印象付けられたはずです。一応、此処までが目的でした。

 まぁあんな嫌味を聞いて咄嗟に行動出来た事は、自分を褒めてもいいかもしれません。

 ………………でも、疲れました。













お読み頂きまして、ありがとうございました。

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