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9:何故かお茶会を行うそうです。

 わたくしが離宮に戻って来たら、何故か執事長や侍女長達上位使用人(直接当主やその家族或いは客人に関われる使用人)達が総出で並んでおり、馬車から降りた途端に「「「「「お帰りなさいませ」」」」」 と頭を下げてお迎えされました。……な、なんでですの? わたくしの事、好きでも無ければ主人とも認めていなかったでしょう? なのに、何故、公国の皆と同じようなお出迎えをされてますの?


 こういう勢揃いって、公国で暮らしていた時は当たり前のように出かける時も帰って来てもありましたが……まさかレーゼル王国でも同じ光景が展開されるなんて思いも寄りませんでしたわ……。一体、どんな心境の変化ですの。

 取り敢えず「ただいま」 とは返しましたが、首を捻るしかないので、ジョナスの顔を見たら安堵してしまいましたわ。ジョナスがわたくしを部屋まで案内します、と言うので、ケイと共に歩き出します。部屋の案内なんて必要無いですが、これもジョナスのお仕事ですものね。そうしてわたくしが離宮に来て以来使用している客間に戻って来て、ようやく肩の荷が降りた気がしました。


「疲れましたわ」


 ポツリと呟いてから荷解きをジョナスとケイと共にテキパキと行い、寛げるスタイルになった後、ラッスルを室内に招いて、ケイとラッスルには本日は休むように伝えます。ラッスルが固辞しようとしていたので、休む事も仕事だ、と納得させまして、ジョナスに信頼出来る護衛を代わりに頼んで、わたくしはラッスルとケイを下がらせてソファーに座りました。


「お疲れ様でございました、妃殿下」


「ありがとう、ジョナス」


 ケイを休ませたのでジョナスがわたくしの世話をしてくれます。離宮での暮らしに慣れきっていて、王城は肩が凝りました。


「王太子殿下をお支え頂きまして、ありがとうございました」


 その一言で十分報われます。わたくしはゆるりと首を左右に振りました。わたくしは前世での恩を誰かに返したい、という自分の欲求のために、つまりわたくし自身の為に、行っただけですから。……まぁそうは言えませんけど。


「わたくしは、お飾りですが、正妃です。国内外にわたくしが正妃である事を知られております。そのわたくしが行かずに居ると、あらぬ噂が立つだけでなく他国につけ込まれます。解るでしょう? わたくしが此処に居るのはあくまでも対外的には成人していない事を憂えた陛下と殿下が、わたくしが健やかに過ごせるように、という理由です。ですからどれだけ内情は違っても、今回の事態に駆けつけねば、わたくしの母国・アズリー公国だけでなく。このレーゼル王国も足元を掬われました。……それは避けねばならないのです」


 わたくしの言葉に、ジョナスはわたくしの考えを知っていたかのように頷きました。


「さすが妃殿下でございます。もしかしたら……と思っておりましたが、やはりそうでございましたか。日頃より妃殿下の振る舞いを見ておりますと、常にご自身の振る舞いや言葉が他者にどのように影響をするのか考えておいでのようでしたから」


 ……いえ、そこまで出来た人間では無いですが。


「そこまで出来た人間では無いですわ。結局わたくしは自分の身と母国が大切なのですもの」


「だからこそ、言動も振る舞いも相応しいものでしょう。私めは、これでも王城の使用人として働いていたことも有ります。その期間にお会いした妃殿下と同じ年齢前後の国内の貴族令嬢方よりも妃殿下の方が上に立つ者の振る舞いをご存知ですよ。今だから申し上げますと、最初は年齢を耳にしまして、どんな我儘な公女が来るのか……と懸念しておりました。我儘・傲慢というのは令嬢であれば多少は有るものです。せめて酷くない事を願っておりましたが。妃殿下は、ご自身の振る舞いが母国に影響する事を理解されていたかのようでしたから、私めは、あなた様にお仕えしているのですよ」


 なんだか聞いていると、自分が物凄く立派な人間に思えますが、違いますわ。前世の記憶から年齢プラス精神年齢30ウン歳が加算されて、人の目に自分がどのように映って見えるのか、つい考えてしまうだけです。……とは、言えませんわね。仕方ない。誤解も解けませんので、微笑んで「ありがとう」 とだけ言っておきましょう。





***





 さて。わたくしが王城より帰還して10日あまり。王城から使者が来てわたくし宛の手紙を持参したそうです。まぁ既に執事長が受け取ったものをジョナスが持って来たのですけども。何でも直ぐに目を通して返信が欲しいそうです。えええ……。何がございましたの。

 とにかく、ジョナスから受け取ってペーパーナイフで封を切ります。この紋章って国王陛下ではなく、王太子殿下の紋章ですわね?


「改めてお礼をしたいので、茶会に来て欲しい、ですか」


 うん、要りません。お気に入りのラベンダーの香りがするレターセットをケイに準備してもらい(色もラベンダー色なのです)返信を認めます(したためます)


 ーーそのようなお気遣いは不要に願います。わたくしと殿下の仲が悪い、と思われるのは対外的に良くない事だと思われたまでの事ですので。


 という内容を遠回しに飾り立てまくった言葉で返信しました。これで解ってくれるだろう……と思ってましたが。8日後にまたも殿下から手紙が来ました。曰く。


「他国に対して付け込まれないためにも関係良好をアピールするために、必要、ですか……」


 ううん……。こう来ましたか。こう言われると断れませんよねぇ。そして多分、わたくしが対外的に、と書いた返信を見てこの文面を考えたのは、側近のサミュエル殿だと思うのです。だってあの方、なんだか切れ者の雰囲気だったもので。なんて言うか、わたくしをきちんと“正妃”として見ている方だったので、多分物事を公平に見られる方なのだと思ったのです。しかも、物腰柔らかなのに、何となく人を従わせる雰囲気が有るというか、圧が強いというか。

 ああいう人って大抵、所謂出来る男、ですからね。あの方が側近で有る限り、王太子殿下が国王陛下となられても大丈夫そうですわね。


 まぁだから、この文面があの方の画策のようにしか思えない、と言えばそれまでですが。そして、わたくしが断らないと理解してますわね、これ。こんな文面では断れませんもの。サミュエル殿の意図に踊らされるのは嬉しくないですが、断れませんし、まぁあの方相手ではわたくしは敵わなそうですもの。


 ーー畏まりました。そのようなお話で有れば、お受け致します。では、こちらで茶会の準備を致しますので、日程は殿下の良きように。


 何となく、サミュエル殿には離宮での茶会を提案してくる事まで見透かされていそうですが、まぁ構いません。陛下と殿下の許可無く王城に出入りはしません、という意思表示にはなりましょう。殿下の一件は緊急時ですので、認められただけですわ。

 今回の茶会は、まだ国王陛下からも王太子殿下からも何も言われていない以上、王城には参りませんことよ。とはいえ、おそらくサミュエル殿がこのお茶会の裏を仕切っておられるのならば、殿下のご予定が調整し易い頃合いなのでしょう。となると……来月中には離宮訪問のお茶会となりそうです。


 側に控えているケイに執事長及び侍女長を呼ぶように伝えます。……さすがに王太子殿下がいらっしゃる、という事なので2人に話さないわけにはいかないし、アズリー公国ではわたくしが執事長を探しに行くとか誰かを探しに行くのは当たり前でしたが、一応今のところの離宮の主人とはいえ、仮の主人がウロウロと歩き回るのは良くないと判断しました結果、2人を呼ぶ事にしました。……多分、それが正しい主人と使用人の関係なんでしょうけどね。

 現れた2人に殿下からの手紙を見せるのと共に、わたくしの返信として離宮での茶会を提案しましたから、日程調整の上、王太子殿下はおそらく此方に来ると思いますので、準備を頼みます、とお願いしました。


「王太子殿下が!」


 と、妙に張り切ったのは執事長。まぁ離宮の使用人ですからね。王城のように常に国王陛下夫妻や王太子殿下にお会いする事なんて無いですものね。でも王族が使用する場所だから、と誇りに思ってお仕事をしていたわけですから、こんな“なんちゃって”王族より本物が来る方がテンション上がりますよね。……と微笑ましい気持ちになりました。尚、執事長は前世のわたくしの両親と同い年くらいですから、何となく気持ち的には娘が張り切る父を見守るような感覚です。


 さて。

 返信は滞りなく使者に渡しましたし、わたくしの見当に間違いが無ければ来月中の日程でしょうから、暫くわたくしは自由を満喫しましょう。日程が決まったら王太子殿下の好みのお茶とか菓子とか準備をする執事長や侍女長に、色々と指示を出す事になるでしょうし。

 ……それにしても、なんだか嫌な予感がするのですよ。お茶会に託けて何か無茶なお話になるような気がします。お茶会……とか言いつつ、今回の礼だ、とか言って高い物を見繕って来たら、受け取り拒否しましょう。なんかそんな感じの嫌な予感しかしませんからねぇ。


 わたくしは物が欲しくて手助けをしたわけでは有りませんから!


 そんな事を考えつつ、またもややって来た使者さん。3回目のお使いご苦労様です。……いえ、3回同じ方が使者として来ているのかどうかは、実際は会っていないので知りませんけど。一応、身分の高いわたくしが直接会うのは避けてます。


 いえね、会っても良いんですけど、気軽に会うという事は、わたくしは王太子殿下の臣下になってしまいます。妻は臣下という国も有りますけどね。わたくしの場合、一国の王女が元々の身分なので、元から臣下の娘ならばともかく、背後は違う以上、気軽に会うわけにはいかないのです。だって、アズリー公国がレーゼル王国の下になってしまうので。それって友好関係じゃなくて主従になってしまいますからね。


 わたくしとしては前世の感覚で気軽に会えば良いじゃん。とか思ってしまうのですが、アズリー公国としては、レーゼル王国の王家が“妻は臣下”という考え方で無い以上は、わたくしには“公女”という意識を保っていて欲しいわけです。これが“妻は臣下”という考え方の国ならば、日本語で言う「郷に入っては郷に従え」 精神で、わたくしは謙ったでしょうけども。レーゼル王国が夫婦は対等関係である、という考え方で有るならば、一国の主の娘が一国の主の夫に謙るわけにはいかないのです。

 ですから、気軽に使者に会うわけにはいかないのです。だって使者とわたくしの身分には歴然とした差が有りますもの。向こうは“王太子殿下の使者”の自負が有るでしょうが、此方は建前上は“王太子殿下の妃”で、実際“公女”の自負を持ってますから。


 あー、でも。面倒ですわ。

 本当に身分って面倒ですわ。

 何人もの人を介して遣り取りするとか、前世の記憶(庶民の記憶)が有るわたくしには、面倒な事この上無いですわ。


 でもまぁこれもまた、使用人達の仕事で有るわけですし、お偉い方(この場合わたくしですわね)の威厳にも関わって来ますものね。仕方ない事です。……なんて事をつらつらツラツラ考えていたのは、単なる現実逃避でしか有りません。


 何故か?

 お茶会の日程が決まりましたからです!

 ……なんだってこんなに早い日程なんですかね!

 確かに予想通り来月でしたよ⁉︎

 でも誰が思います?


「来月1の日……」


 何回読み返しても、日程は、来月の1日。初日! 此処から王城まで、馬車で3日掛かるんですわよ⁉︎ どう考えても、向こうを立つのは今月末! つまり、本日ですわ! 使者はもう手紙を持って来るだけで返信は不要なので帰って行ったそうですが! 途中で行き合う事間違い無し! の、余裕なんぞ全くないやつじゃないですか!


 何故、そんなに急ぎですの⁉︎

 使者が帰って来たのを労ってあげませんの⁉︎

 仮令、王太子殿下が直接労わないで他の者が労うとしても、建前上は使者を労うのは王太子殿下で無くてはいけないのでは?

 途中で行き合うからその時に労えば良い、とか、そんな軽い感じなんですか⁉︎


 確かに軽くでも労う気持ちが大切だと思いますが、それでも何ていうか、使者が王城に無事に到着するのを待つのが主人の務めのような気がします。……それともわたくしの考え方が古臭いとか?


 でもまぁ単にわたくしの八つ当たりですけども。

 それだけは自覚しておりますわ。だって、こんなに早い日程だと思わなかったんですもの! わたくしは別にこんなに早い日程で無くて良いのです! というか、抑の話、王太子殿下と顔を合わせてお茶なんてする気は全く無かったのですからぁ!

 うう……。嘆いていても仕方ないですわね。日程のお知らせお手紙が来る前に、執事長と侍女長に話を通しておいて良かったですわ……。


 ん? というか! こんなに早い日程では、お茶もお菓子も準備が終わりませんわよ! 侍女長が王太子殿下のお好みのお茶やお菓子は知っていたからお任せしましたけど、手配は間に合ったのかしら。


「ケイ、急いで侍女長に確認を! 王太子殿下は、1の日に到着予定ですわ! ジョナスも執事長に話を通して下さいませ!」


「えっ! 1の日ですか?」


 ケイは、頭を下げてサッと動き出しましたが、ジョナスは、本当ですか? と半信半疑のようです。いえ、その気持ちは解りますわ。わたくしだって、何度も読み返しましたもの。ジョナスに手紙を見せましたら、顔つきを変えて「直ぐに執事長に話します」 と動いてくれました。ケイもジョナスも出来る使用人で、わたくしは大いに助かっておりますわ。……でも、本当に、何故こんなに早い日程なのかしら。もう少し猶予が有るべきだと思いますの。


 この日程、出来る側近・サミュエル殿は何も言わなかったのかしら……?














お読み頂きまして、ありがとうございました。

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