3 心の殻を叩き壊せ……たのか?
秋の桜子さま作成!
一海は驚いた顔をしていたけど、「美羽は一海の視線に全然気がついていないよ。賭けてもいいくらいにね」と、言ったら落ち込んだ顔をしていた。
うん。気持ちはよくわかる。
生徒会長として忙しいはずなのに、それでも美羽の気を引きたくて物を持ってあげるとか、差し入れと称した餌付けを頑張っていたものね。
それをすべて「ありがとうございます」の一言で片づけられていたからさ。
おかげでその後、一海の相談に乗る羽目になったのは、痛し痒しだったよ。
後押しとして文化祭を一緒に回ることを勧めたら、美羽からは「見回りですね。それならこういう風にしてはどうでしょう」と、巡回案を出された時の一海の顔ったらなかったね。
この頃には他の役員たちにも一海の気持ちはバレバレで、あまりに美羽のわからなさすぎに、一海に協力をしだしたんだった。
そして私は美羽のことを見ていて気がついたことがあった。
どうやら私のことを苦手としているみたいだ。
私から美羽に何かした覚えはないから、苦手とされる理由がわからなかった。
だけどさすがの私でも、美羽に直に聞きにいくわけにはいかないことは判っていた。
それから、もう一つ気がついたことがあった。
美羽はどうやら男子を苦手としているようだ。
う~ん。苦手というのとは違うかな。
恋愛になるのを避けている気がする。
そう気がついてからは、私は美羽のことを構い倒した。
私に慣れてもらうことと一海のフォローのためだけど、嫌がられることは本末転倒なので、仕事にかこつけて一緒に居るように目論んだのだ。
一海からは羨まし気な視線を送られたけど、まさかその視線が美羽の勘違いに拍車をかけていたとは思わなかった。
さりげなく一海と付き合っていないアピールをしていたけど、信じていないようだし。
そうこうしているうちに卒業式を終え、終業式も終わり2学年も終わりを迎えた。
生徒会役員の私たちには春休みはあってないようなものだ。
引き継ぎのあれこれに加え、最後のお仕事になる入学式の準備だ。
そして、これが一海にとって、最後のチャンスかもしれない。
入学式の準備の時にバシッと告白をする!
そうでないとクラスの違う二人は学校内で会うこともままならなくなるだろう。
そう、一海にはっぱをかけると共に、他の役員たちにも話をして、最後には二人きりになれるように画策しておいた。
始業式が終わり、その後はさすがに授業はなかった。
私たち生徒会役員としての最後の仕事として、入学式の準備を有志数名と共にしていた。
彼らには椅子を並べたら帰ってもらった。
ステージの上の準備もほぼ終わり、あとは「新入生歓迎の言葉」の掛け軸を取り付けるだけ。
掛け軸が歪むのを指摘している間に、他の役員の支度が終わったようだ。
左右の高さが揃い、あとは中央をとめるだけになったので、私は声をあげることにした。
「じゃ、後はよろしくね」
「えっ、おい。まだ」
と、脚立に上りかけた一海がこちらを向いて言ってきた。
「悪いけど、約束があるのよ。中央だけなんだからすぐ終わるでしょ。他のみんなも片づけは終わったみたいだし、先に失礼させてもらうわ。会長はちゃんと義務を果たすのよ。美羽も、ごめんね。でも脚立を支える人がいないと危ないでしょ。だから、よろしく~」
ちょっとわかりにくかったかなと思ったけど、一海は目を見開いた後、美羽に気づかれないように小さく拳を握ったのが見えたから大丈夫だろう。
私はくるりと背を向けると、手をひらひらと振りながら講堂から出て行った。
◇
昨日までのことを振り返った私は、口元が緩んでくるのを感じた。
明日には他の元役員たちを誘って、お昼を食べながら二人の話をすることにしよう。
きっとみんなヤキモキしているだろうね。
チラリとスマホへ視線を向けた私は、役員をしていたみんなからのラインの着信を無視することにした。
やっぱりちゃんと口で言わないとね。
「うまくいって良かったよ。この先がどうなるかわからないけど、幸せに! 美羽、一海!」
口に出してそう言うと、ドライヤーを片づける為に、私は立ちあがったのだった。
◇
私は知らなった。
塾でも私と一海がつき合っていると思われていたことを。
一海に彼女が出来たと知って、私がもともとフリーだったと知った他校男子から、アプローチを受けることになることを。
そう、それはまた、別の話なのである。
この作品を書くきっかけになりましたのは、あらすじにありますようにたこす様の企画からでした。
私の作品を当ててくださった方にSSをプレゼントしますと、しました。
見事当ててくださった方々の中のお一人が、陸 なるみ様になります。
なるみ様のリクエストが企画参加作品のサイドストーリーでした。
とても楽しくサイドストーリーを書かせていただきました。
作品のサブタイトルは本家のサブタイトルをもじってつけさせていただきました。
1話目の二度おいしいというのは、そういうことです。
お読みいただきありがとうございました。