8話 契約
「じゃ、ビリるわよ〜」
アオイ、生命の危機。褒めてみたり、露骨に話を逸らしたりしたが、アプリコットはひたすらビリると主張。その意志は強い。というかそもそもビリるとはなんなんだ。もしや、さっきのネコのようになるのか。
「ていうかネコいねぇ!」
気がつくとアオイの周りにはさっきまで大量にいたもふもふことネコが居なくなっていた。もしや、さっきのアプリコットの攻撃で塵とかしたのだろうか。そういえば、その瞬間から今まで、アプリコットの攻撃による衝撃でアオイの頭からネコの存在がすっぽり抜け落ちてた。そしてネコの存在が戻ってきたと同時に嫌な予感も流れる。
「もしや俺も、あのネコのように世界の藻屑とかすのか…?」
それだけは阻止せねば。マキ達に顔向け出来ないし、何より死にたくない。
「ネコ…ああ、ミャオマタのこと?あいつらは魔族だから核をビリったから魔力の器がぶっ壊れただけ。ヒト族はそんぐらいじゃ塵にならないわよ。」
アプリコットがそう言う。それにアオイは安堵する。これでビリられても大丈夫ー
「って、まだ根本が解決してねえ!あー、そのー、えーと、あっ、そのビリるやつってのはアビリティなのか!?」
延命処置。どうにか会話を繰り広げ、伸ばし尽くし、逃げ道を見つけ出す、その狙いの苦し紛れの話題。しかし、アビリティという単語を聞いた瞬間、アプリコットの表情に僅かな変化が生じた。そしてアプリコットはアオイに対して問う。
「違うわよ。ただの魔法。というか、あんたアビリティ持ってるの?」
それがアプリコットにとってどれほど重要かは分からないが、食いついてきたのは確か。これは、引き伸ばせる話題だとアオイは判断する。
「えー、どうしようかなー。物騒な人には教えてあげなー」
「ビリるわよ?」
「はい、すません!俺のアビリティは『植物を成長させる的なやーつ』です!」
引き伸ばす作戦半分失敗。アプリコットの殺気により粘れなかった。しかし、半分は成功。なぜならアプリコットがそれを聞き、考えるそぶりを見せたからだ。
「なら、あんたに選択肢をあげる。あたしに利用されるか、ビリられるか」
「は?」
断ればビリるとの脅迫。それが突然すぎて、アオイは理解が追いつかない。だが、それを無視し、アプリコットは話を続ける。
「アオイ、取引しましょう。あんたのこと、ある程度面倒見てあげる具体的には宿と食事。ろくに常識も知らないみたいだしね。そのかわり、あたしの目的に協力する…どう?素敵でしょう?」
アプリコットからの取引、突然のそれにアオイは驚く。さっきまでビリろうとしてきたのに、突然協力を持ちかけてきたのだ。しかも、アオイのアビリティを聞いてからだ。アオイは確実に裏があると考える。だが、実際、今日寝るところもないアオイにとって、宿と食事は魅力的でもあった。
「協力するってのは、どんなことにだ?内容によっちゃビリられてもいいぞ」
しかしそれは取引にのるという決定打にはならない。だからこそのアオイからの質問。その質問が来ることを予想していたのだろうアプリコットは、すぐに答える。
「ミヤオミャオを討伐する。それがあたしの目的に役立つ一歩になる。ただ、あたしの目的についてはまだ話せない。それに殺しはさせないわ。」
「それが事実かどうか、お前に証明できんのか?」
もし、アプリコットが嘘をついているのなら、人を殺したりするのなら、アオイはそれを許さない。死んだからこそ、その恐怖を知っている。
「取引…つまりは契約の儀を挟むということ。魔法による契約は、本人にさえ簡単にとくことはできない。これでどう?」
「わかった。ただし俺が手伝うのはミャオミャオとやらな討伐までだ。それ以上は、お前を信頼してから決める…これでいいか?」
「いいわよそれで。なら早速今から契約を始める。」
アプリコットはアオイに契約書を渡す。魔力を練り上げたそれには、ただ一文、『互いに裏切らないこと』と綴られていた。アオイがアプリコットから受け取った羽根ペンでサインをする。そしてアプリコットがサインをする。これにより2人の契約は結ばれた。
「というわけで、これからよろしくね。アオイ。くれぐれもあたしの愛を引っ張らないでよ」
「おお、任せとけ」
そして初めて2人は握手を交わしたのだった。