犯罪者? パトカーに乗った
生まれて初めて、パトカーに乗った。
パトカー内部をみまわすと、平服があったり、ファイルが転がってたりして、テレビで見たのと違っている。車はまったく匂わず、全体的に、黒い基調のソファであった。
どうしてパトカーに乗ったのか、いま、説明する。
それは、ある秋の出来事であった。ミッションの帰りに、夫が言った。
「この近くに、景色のいい山があるんだ。見に行きたいな」
「いいわね!」
わたしたちは、タンデムして野呂山に向かった。
この山は、斜面に粗めの砂利が転がる難所らしかったが、景色は折り紙つきなのである。バイクで登る人も多い。
頂上の景色はすばらしく、
「世界はわたしのためにある!」
とわたしはそこから見える海に向って咆えていた。
タンデムで帰る。
曲がりくねった道を順調に進んでいると、いきなり身体が宙を舞った。
「え、あ、は?」
気がつくと、わたしは車のなかにいた。
ドアの外では、夫と警官が話し込んでいる。わたしは、ドアから顔を出した。強烈に、身体が痛い。わたしの様子に気づいた夫が、警官のところからやってきた。
「あの、わたし……」
車から降りてふりかえるなり、気がついた。パトカーだったのだ。わたしは青くなり、身体中からダラダラ冷汗が出てきた。たしかに、道ばたの十円をちょろまかしたこともある。窃盗はりっぱな犯罪だ。パトカーに乗せられた。わたしは、投獄されるのだ。
おびえきっていると、夫がなんでもなさそうに言った。
「事故ったんだよ。 バイクが砂利でコケた。巡回に来ていたパトカーが助けてくれたんだ。事情聴取されてた。きみ、気絶してたよ」
地面に転がっている赤いヘルメットを見やると、そこだけ塗料がはげて黒くなっていた。もっとひどい状況もあり得たのだ。ゾッとさせられてしまう。
しかし、人が気絶している間に、事情聴取などという、面白いことを夫が独占してしまって、わたしは不満である。それにわたしは胸がきしむ。
そのまま、タンデムして帰宅した。あんまり痛くて眠れなかったので、月曜日に整形外科へ行った。
「肋骨が、折れてますな。ご主人も折れてたし、ほんっときみら、仲がいいな」
全治2ヶ月の大けがである。わたしは、パトカーに乗った話をドクターにした。
「そのまま帰れば良かっただろう」
「いやです! 犯罪者じゃないんだから!」
「なら救急車だな。税金は、そういうところに使わなきゃ」
もうタンデム旅行はやめろ、とドクターストップ。
懲りた。野呂山には、もう行かない(でも結局、行くことになるのである。次回はその話)。