派遣勇者-SENT BRAVE-(8)
「ジリリリリリリリリリリッ」
休憩時間の終わりを告げるベルが鳴り響く。囚人達が持ち場に戻りつるはしを振っていると、空気を切り裂く様な鋭い音が鳴った。
『何をしている!! 休憩時間はとっくに終わっているぞ!!』
「ギャァァァッ!やめ、やめてくれッ。わかったから、わかった ギャァァァッ」
ボロボロの服を着た囚人が看守ドロイドから電気鞭を受け悶えている。しかし他の囚人達は様子を伺う素振りも無く黙々と自分の作業を続けている。看守の矛先が自分に向うのを恐れているからだ。
ここ『アシリマ収容所』はアシリマ本国の犯罪者やアイッスルの捕虜に採掘をさせるために建設された強制収容所だ。環境は劣悪で満足な食事も与えられず、高齢・病気の囚人から先に限界を迎える。
「まあまあ看守さん。それぐらいで勘弁してもらえないですか?」
「”またお前か!!”」
白髪に長い白ひげを蓄えた老人が看守ドロイドをなだめる。
「この人、心臓が弱いんですよ。これ以上やって囚人が死んじゃったら、看守さんの査定が下がっちゃいますよ?」
『チッ!ならさっさと作業に戻れ!!』
看守ドロイドが去った後、鞭を撃たれていた老人が礼を言う。
「ありがとよぉ、ルビレさん。助かったよ。」
「いいってことよ。電撃で筋肉が痙攣しているから、しばらく無理はするなよ。」
この収容所で他人に手を差し伸べる唯一の例外、それがこのルビレ爺さんと呼ばれる老人である。収容所が設立した当初からいる古株で、看守にも臆せず意見を言う稀有な存在だ。
「やれやれ。最近の看守は血の気が多い。」
ルビレ爺さんは黙々とツルハシを振るっている男の隣へ来ると愚痴をこぼした。
「そんなに殺されたのか。」
男はつるはしを振りながら小声でつぶやくと、
「一昨日、脱走騒ぎがあっただろ。あれで脱走者8人全員が射殺された。」
若い男も夜遅くにサイレンと銃声が鳴り響いていたのを聞いていた。
「まあ、わざと脱走するように看守が仕向けたんだろうがな」
「何!?わざと?」
「同じ房で一人脱走せずに残った奴がいてそいつに聞いたんだが、あの夜、何故か鍵が開いてたんだとよ。チャンスとばかりに建物の外に出た所で、待ち構えてたドロイドに蜂の巣って訳だ。」
収容所では囚人の脱走と暴動の鎮圧のためであれば、射殺が認められている。
「看守がわざと鍵を開けてたのか?それでもなんで脱走なんか・・・。」
収容所自体は2m程のフェンスで囲われているだけで、外に出ること自体は簡単である。しかし、問題なのが囚人達の首に巻かれた発信機付きのの首輪だ。首輪が収容所の外に出ると、即座に飛行ドロイドが追跡を開始する。周りが荒野と砂漠ばかりで隠れる場所が無いため脱走しても飛行ドロイドに即座に発見、射殺されてしまう。
収容所内で暴動を起こそうにも、強固な装甲と機関銃を持つドロイド相手ではすぐに鎮圧されてしまう。
過去に何度もあった脱走と暴動も全て失敗し、実行した囚人は全員が殺されている。脱走も暴動も不可能ということは囚人全員の認識だった。若い男が訝しんでいると、
「手紙が来たんだとよ。」
「手紙?ここに手紙なんか届くのか?」
「何故か脱走した奴らの房にだけ手紙が届いたらしい。母が危篤だの、息子が不治の病にかかっただの、内容はどれも家族について。」
娯楽も何もない、ただ毎日を作業に明け暮れる囚人達にとって、その手紙がどれほど心揺さぶるものだっただろうか。この若い囚人ムンアティも反戦デモを行い反逆罪で逮捕されて収容されたが、国にいる母の無事を祈らない日は無かった。もしも彼らと同じ立場だったなら、たとえ罠だと分かっていてもやはり脱走を試みただろう。若い男は勢いよくつるはしを振り下ろす。
「安全な地下に引きこもった屑野郎共がッ!!」
収容所中央には地下と繋がった大型のエレベータがあり、ドロイドに修理や補給が必要な際はこのエレベーターで地下に送られていく。地下にはドロイドの修理や補給のための整備工場、集められた資源や囚人の自動運搬施設、全てのドロイドを管理するコントロールルーム等様々な設備があり、看守達は決して地上には出てこない。
過去に地下を占拠せんとエレベーターの扉をこじ開けようとした囚人がいたが、扉は頑丈で全く歯が立たず、駆け付けた看守ドロイドに即座に射殺された。
「まだ怒りに燃える闘志があるか?」
「え?」
不意の問いかけにムンアティは戸惑いの声を上げる。
「もし”その時”が来たら、戦う覚悟があるのかって聞いてるんだ。」
ムンアティを見つめる眼差しは真剣そのものだ。
「戦うって言っても、武器が無えだろ。」
「やるのかやらねえのかハッキリしろ。いいか、俺も見込みのある、戦う気力のある奴にしか言ってねえ。看守にチクられでもしたらすぐパアだからな。」
戦争が終わったとしても解放される保証はない。ムンアティは即座に決心し、
「やるよ。」
答えるとルビレは不敵な笑みを浮かべながら、
「そうこなくっちゃな。いいか、俺が今お前に話したくだりを同じ房の奴にも話すんだ。
怒りの表情を見せた奴だけ仲間に誘え。明後日夜、午前0時に決行だ。」
ムンアティはさっきの話も見定めのためだと悟った。
「だけど爺さん、勝算はあるのか?勧誘するにも納得させる材料がいるぞ。」
するとルビレは周りを一度見渡し、周囲を確認してから小さな声で言った。
「近くにレジスタンスが来ている。」
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「どちらから見張りをする?」
あくびをしながら、眠たげな声でユーミカさんが聞いてくる。
「僕が6時間見張りをします。ユーミカさんは休んで下さい。」
本来、作戦では3時間で見張りと休憩を交代交替で行うはずだった。見張りを買って出たのは、彼の疲労を心配したからという理由だけではない。
戦闘訓練を行った次の日に作戦会議が開かれた。ノアさんから告げられた作戦内容は、アシリマの強制収容所を襲撃して囚人たちを解放するというモノ。
収容所で稼働しているドロイド程度ならばトライブルー1人で対処は十分可能とのことで、囚人の保護・運搬を行うためのサポートとして選ばれたのがユーミカさんだ。
「空乃勇助です。一緒に頑張りましょう。」
学校ではあまり積極的に人付き合いをしない方だが、共に戦う仲間ということで愛想良く挨拶をした。
しかし、返ってきたのは、
「ああ」
という素っ気ない返事だけだった。
翌朝、ユーミカさんが運転するホバートラックでレジスタンス基地を出発し、移動中にも何度か会話を試みたが全て失敗に終わった。こちらから何度質問しても「ああ」「いや」としか言わず、決して向こうから話しかけてこない。
好意的だったロムアさんとは対照的な棘のある態度に戸惑うが、突如現れた正体不明の人物とパートナーを組まされたとなれば警戒するのは当然かもしれない。今は地道に成果を上げ、仲間として認めてもらうほかない。
砂漠を少し歩いてゆくと、はるか遠くに大きな鉱山と麓に収容所が見える。情報ではドロイドが収容所の外まで警戒に出ることは無いという話だったが、万が一のことも考え見張りをする。
「しまった・・・」
開始早々、やらかしてしまった。収容所のレーダーに探知されないこの位置では支給された暗視ゴーグルの使用限界距離を超えてしまい見えない。見張りを買って出てこの体たらくに自分が嫌になる。
「どうしよう・・・」
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座席を倒し背を預けながら、ユーミカは暗視装置を片手に砂漠を歩いてゆく勇助を眺める。
どうやら収容所を監視したいようだが、あの暗視装置では能力不足であの距離からは見えない。
「能力不足か・・・」
”彼”について、レジスタン内ではノア指令の命令により緘口令が敷かれていた。そのため様々な噂が飛び交っていたが、『ゴーレムを一人で破壊した』や『この世界の人間ではない』といった突拍子もない内容ばかりで、信じられるものではなかった。
ノア指令から直々に招集を受けて作戦会議室に向かう途中、ロムアさんに声を掛けられた。
「ユーミカ。この後、北東部のアシリマ収容所の襲撃する”彼”のサポートを命じられるはずだ。」
「たった1人で襲撃!?それほど”彼”は強いのですか?」
収容所を襲撃する戦力が”彼”だけで十分だとノア指令が判断していることに驚く。ゴーレムを撃破したという噂は本当なのか。興奮する中、ロムアさんが暗い表情をしていることに気づく。
「どうしたんですか?ロムアさん。」
「ユーミカ。ノア指令からどんな命令が下されたとしても、できる限り”彼”に協力してやってほしい。」
言っている意味が理解できずに戸惑っていると、
「頼んだ。2人で無事に帰って来いよ。」
そう言うとロムアさんは行ってしまった。
作戦会議で初めて会った”彼”の印象は”幼い”だった。年は16と自分よりたった1つ下なだけだが、育ってきた環境のせいか年齢より幼く見えた。
”彼”から自己紹介の挨拶もされたが、先程のロムアさんの言葉が頭から離れず、素っ気無い返事をしてしまった。
会議が終わるとノア指令は自分と作戦について確認することがあると、”彼”を先に部屋に帰らせた。
嫌な予感がした。ノア指令は大きな黒いガンケースを取り出すと、
「ユーミカ。あなたにはユースケのサポートの他にもう一つ、やって頂くことがあります。」
蓋が開かれると中には狙撃銃が入っていた。暗視機能のある光学照準器が付随した高性能なものだ。嫌な予感は的中した。
これならば10キロメートル離れた目標でも楽に命中できる。だがこの銃を使用しても、ドロイドやパワードスーツにダメージは与えられない。
通常、この銃が向けられるのは敵ではなく仲間。敵に捕えられた仲間の口封じのために用いられる。
「作戦中にユースケが負傷して行動不能もしくは逃亡を図った場合、彼を殺害してトライガンを回収して下さい。」