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派遣勇者-SENT BRAVE-(7)

「訓練を行います。」

 案内されたのはとてつもなく広い空間で、叔父が連れて行ってくれた野球ドームよりも広い。

 ノアさんが歩き出したので再び後ろを付いて行く。進行方向に先ほどの映像で見たパワードスーツがこちらを向いて立っていた。

 パワードスーツが脚部からローラー音をけたたましく鳴り響かせながら急接近、目の前まで来るとまるでフィギュアスケートの如くクルクル回転し続けている。

「レジスタンスにもパワードスーツがあるんですか?」

「少数ですがパワードスーツだけではなくドロイドもあります。廃棄されたり鹵獲したモノを修理・改造して運用しているのです。」

 レジスタンスに両国の出身者がいれば、運用できるのも当然か。

「まあ、こいつは旧式のオンボロだけどな。」

 パワードスーツから聞き覚えのある声がした。「プシュッ」空気が抜ける音がして頭部メットが外されると、中からロムアさんの顔が現れた。

「ロムアは元アイッスル軍パワードスーツ部隊の隊長でした。」

「嫌気がさして脱走したところをレジスタンスに拾われたんだ。」

 バツが悪そうに頬をかくロムアさんに質問する。

「パワードスーツを着た兵士は誰でもこんな風に機敏な動きができるんですか?」

「いや、俺ぐらいの操縦技術は中々いないかな。」

「トライブルーに変身し、ロムアと模擬戦闘を行っていただきます。トライブルーは指示に従って行動して下さい。」

 そう言ってノアさんは僕にトライガンを渡すと部屋から出て行った。

 トライガンをじっと見つめる。手にするのは2度目だが、やはり一見ただの玩具にしか見えない。

 ロムアさんが10m程離れた位置に移動するとスピーカーから声が響き渡った。

「では訓練を開始します。ユースケはトライブルーに変身して下さい。」

 トライガンを天井に掲げ、引き金を引く。

「トライッ チェンジッ!!」

 前回と同じように三角形の光が頭上に現れた。光がゆっくりと下降すると、それに合わせて鎧で全身を覆われていく。前回は混乱していたので気づかなかったが、何かノイズ音が微かに聞こえる。機械の調子が悪いのかと心配したが、しばらくするとノイズは聞こえなくなった。

「合図と共にロムアは射撃を、トライブルーは回避に専念して下さい。弾は実弾ですので本気で回避してください。」

 集中しなければと気を引き締める。

「ヴ~」

 サイレンが鳴り響くとロムアさんが「ゆくぞ」という掛け声とともに銃を持つ右手を向ける。

 とりあえずロムアさんに向かって反時計回りに走り出すと生身よりも格段に速い。これを使えばオリンピックの全陸上競技で金メダルが取れるだろう。すると突然、脇腹に痛みを感じた。

「ぐッ」

 被弾した。装甲のおかげでダメージは軽減されていても思わず声を漏らす。

 何の障害物も無い平坦な場所を一定スピードでぐるぐるまわっているだけではただの標的。訓練した兵士ならば命中させるのは簡単なのだろう。

 今度はジグザグに動きながら途中にフェイントを入れてみる。それでも次々と連射される弾丸の全てを交わすことができず焦っているとノアさんの声が響く。

「足に力を入れながら体を傾けて前傾姿勢になってください。」

 言われたとおりに体を前のめりに、倒れない程度に踏ん張っていると。

「もっとです。体が地面すれすれになるまで傾けて!」

「ええい!ままよっ!!」

 思い切って身体を重力に任せる。床がどんどん近づき「ぶつかる」と思ったその瞬間、足の裏を大きな力で押され、体が前方へ急加速した。

 だが突然であったために反応できず、そのままバランスを失い地面を転がる。一体何が起きたのか困惑していると、

「緊急加速システム『エアダッシュ』です。足の裏から圧縮空気が噴射され、瞬発的な加速による高速移動が可能です。もう一度やってみてください。」

 言われたとおり足に力を込め、体を傾ける。すると先程と同じようにグッと足裏に力が加わり、体が加速した。今度は姿勢を保ち続けることができたが、10mほど進んだところで足裏の噴射が突然停止。前につんのめって再び転倒してしまった。

「視界上部にブースト残量を示すゲージがあるはずです。ブーストを使用すると減少しますが、使わなければすぐに回復します。戦闘中は残量に注意して下さい。」

 視界の中にそれらしいモノは見当たらないが、試しにもう一度やってみる。

『ググッ』

 足裏に力が加わっている間、減少している目盛りを見つけた。説明の通り、その目盛りがゼロになると足裏の噴射も止まる。と同時に踏ん張り、今度は転倒せずに済んだ。

「次は同じ要領で垂直方向にジャンプをして下さい。」

 天井を見上げ、同じように足に力を込めつつ腰を落とし、姿勢を低くする。

「高く。高く。」

 頭の中でより高く飛ぶことを念じながら足に力をこめる。足の力を一気に開放するイメージで飛び上がる。

「すごいっ!!」

 あれほど離れていた天井がぐんぐんと近づいてくる。ゲージが0になり勢いが止まり、下を見てみると床は遥か下にあった。小さくなったロムアさんがこちらを見上げている。

 そこであることに気付く。

『どうやって着地すれば!?』

 落下スピードは速くなるにつれ焦りだけも大きくなる一方、地面はどんどん近づいてくる。

 生身でこの高さから落下すれば骨折は免れない。とにかく着地するしかないと足に力を入れると、再び足裏から空気が噴出される。落下の勢いが大きく削がれたことで難無く着地することができた。

 天辺まで飛ぶためにブースト残量をすべて使い切ったが、落下中に回復して再び使用できたようだ。

 ひょっとするとゴーレムへ飛び掛かった時もエアダッシュが発動していたのか?バクバクと鳴っている心臓を深呼吸で落ち着かせながら思い返していると、

「今度はエアダッシュを使用して回避を。」

 足にグッと力を入れ、サイレンに備える。ロムアさんは既にこちらに照準を合せている。

「ヴ~」

 合図が鳴ると同時に反時計回りの方向に突進。エアダッシュを使用しながら前だけを向き、姿勢を崩さないことに専念する。銃声は聞こえるがまだ被弾はしていない。ゲージに目をやると残りわずか。このままではブーストを使い切った後を狙われる。

 先ほどのジャンプからの落下を思い出し、迷っている暇はないとゲージの残量が無くなる直前にジャンプする。

「ハッ!」

自分でも驚くほどスムーズに前傾姿勢からジャンプができた。ダッシュの勢いが加わったジャンプは滞空時間が長く、その間にゲージも回復でき着地と同時に再びエアダッシュに移行する。

 先ほども感じたがこれで確信した。次の動作を頭の中で思い描くとその通りに動けるようにアシストしてくれる機能がスーツにあるようだ。

 ダッシュとジャンプの動きを何度も繰り返すうちに慣れ、ロムアさんの方に顔を向けながら常に相手の動きを確認して動けるようになった。

 こちらの上達を察知したのかロムアさんにも変化が起きる。ジャンプの落下位置に向けて銃口を向けていた。『後ろ!』そう思った次の瞬間、前に突き出した両足から空気が噴射され、真後ろに緊急回避を行った。

「ヴ~」

 スピーカーから終了のサイレンが聞こえ、膝に手を突き息を整えていると。ロムアさんが拍手しながらこちらに近づいてくる。

「使いこなしているじゃないか。」

「ハァ いや・・・、そんなことないです」

 自分が特に何かをした訳では無い。アシスト機能のおかげだ。

「あれだけの高速移動なら、被弾をぐっと抑えることができる。」

「そうですか・・・。ハァ・・・。」

 そのようなやり取りをしながらしばらく待っているとノアさんが飛行ドロイドを伴ってやって来た。

「次は攻撃訓練を行います。このドロイドを撃って下さい。」

 ドロイドが10m離れた位置へ飛んで行く。

「トリガーを引いた状態で狙いを定めて」

 言われたとおりドロイドに狙いを定め、トリガーを引いた状態を維持いると銃の先端がほのかに青く輝きだした。

「トリガーから指を離して下さい。」

 指を離すとこれまでの小さな光弾ではなく、帯状の青い光が射出された。青い光がドロイドに命中すると装甲から大きな火花が発生し、後方へ大きく吹き飛ばした。地面に落下したドロイドの装甲は溶けている。

「トリガーを保持することで通常のショットよりも威力のあるチャージショットを射出します。」

 これならばゴーレムタイプの厚い装甲にも効果があるのでは。そう考えていると、

「しかし、これでもゴーレムタイプの装甲を破るには、何発も同じ箇所に命中させる必要があります。」

 動く相手の同じ箇所に命中させ続ける自信は無いし、防御されてしまえば元も子もない。

「ですが、別の手段があります。今度は片方の手で引き金を引いたまま、もう一方の手に力を込めて下さい。」

 指示の通りに左手は引き金を引き、右手は拳を握りしめる。すると銃先の輝きが左手から左腕、胸、右腕、右手へと装甲の上を伝って移動した。

「先ほどの墜落したドロイドを右腕で攻撃して下さい。」

 ドロイドを見下ろし、瓦割りのような態勢で構える。右腕に力を込め、思い切り拳を振り下ろす。

『ズドンッ!!』

 拳はドロイドの装甲に易々とめり込んだ。腕を引き抜くと拳の形の穴の中で青い光がバチバチと稲妻のように駆け巡っている。

「チャージスマッシュ。通常よりも威力の高いパンチを繰り出せます。」

「この光は・・・?」

「『ナノマシンキラー』です。この星の全ての生命・機械の内部にはナノマシンが循環しています。

トライブルーの攻撃を受け『ナノマシンキラー』が内部に流し込まれるとナノマシンが破壊されます。流し込まれたナノマシンキラーが少量でも機能不全や誤作動を引き起こし、大量に送り込まれれば完全に機能を停止させることができます。」

 最初の戦闘でドロイド達を簡単に倒せたのは、この『ナノマシンキラー』とやらのおかげだったのか。

「チャージ攻撃は威力が増大するだけでなく、流し込むことのできる量も多くなります。この機能があるトライブルーならばアシリマ・アイッスルの兵器にも対抗できます。」

 性能については理解したが、先ほどの説明の中で気になる言葉があった。

「この星の全ての生命にナノマシンが循環しているのなら、人間を攻撃するとどうなるのですか?」

「生命体はナノマシンを破壊されても、一時的に目眩や吐き気等の症状に陥るだけです。ですが威力の高いチャージ攻撃を生身で受ければ、肉体が破壊され死亡するでしょう」

 質問しておいて良かった。決して人に向けて攻撃しないことを心に誓う。

「それでは次の訓練に移ります。」

 訓練は夜遅くまで続き、終わった頃にはと全身を激しい筋肉痛が襲った。ロムアさんに付き添ってもらい、なんとか部屋に戻りベッドに転がると一瞬で眠りに落ちた。

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