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派遣勇者-SENT BRAVE-(6)

「おはよう。」

 部屋の明かりに目を覚ますと、ロムアさんが朝食を運んでいた。

 スプーンが突っ込まれた器の中にはシリアルに似たモノと白い液体が入っていた。掬うとドロッとした感触がする。昨日出されたゼリーを思い出し嫌な予感がしたが、意を決して口の中に放り込む。

「あっま。」

 毎日食べ続ければ間違いなく糖尿病になると確信するほど甘い。しかし、母の教えにより出された食べ物を残すわけにはいかない。イッキに胃に流し込む。

 下腹部をさすりながら昨日できなかった質問をする。

「異世界の言葉でどうして会話ができているんでしょうか。」

 地球の日本語とこの星の言語がたまたま同じということは無いはず。

「君を呼んだあの機械が会話できるように処置したらしい。」

 脳に何かされたのだろうかと恐怖し、頭を触る。

「昨日、ロムアさんが言っていた『伝説の勇者』について教えてくれませんか?」

 ロムアさんはしばらく考え込むと、

「古くから語り継がれてきた伝説なんだが、ほとんどの奴は御伽話の類だと思っている。俺も実際に目にするまではそう思っていたし、それほど詳しい訳でもないんだ。これから指令が色々説明して下さるとのことだから、その時に聞いてみてくれ。」


 食事を終えノアさんが待つ会議室へ行くために通路を歩いて行くと、建物の構造の異様さに気付く。天井・床・壁の全てがコンクリートでできているのだが不思議なことに窓が無い。天井からの灯が通路を薄暗く照らしているだけだ。

「窓がありませんね。」

「地下だからな。この階層が地上から80mくらいかな。」

 頑丈な造りの階段を上がって行くと、兵士だけでなく子供や女性ともすれ違った。

「基地なのに兵士以外もいるんですか?」

「200人以上がここで生活している。戦闘員はその中でも30人程度しかいない。」

 ロムアさんは質問に対し振り返ることなく、黙々と階段を上りながら答える。未だ癒えぬ筋肉痛を我慢し、息を切らしながら10階上ったところでロムアさんに質問する。

「ハァ…ハァ…。エレベーターは無いんですか?」

「エレベーターは電気節約のため緊急時以外では使用できないんだ。後3階だから頑張れ!」

 すれ違う人々に奇異の目で見られつつ、ふらつきながらもなんとか会議室に辿り着いた。中には簡素な机と椅子が並んでおり、とりあえず入り口に一番近かった席に座る。

 すると部屋の明かりが消え、天井に設置された機器から光が放たれて前方の板に地図が映し出された。授業で使われるプロジェクターに似ているが、あれよりも鮮明な映像だ。

「本日の予定ですが、この世界の地理と兵器について説明した後、戦闘訓練を行います。」

 ノアさんの声が響き渡る。周りを見渡すと部屋の後方にノアさんが機械を操作していた。

「中央の大陸南方にあるのがレジスタンス基地。西側の大陸にアシリマ合衆国が、東側にはアイッスル連邦があります。」

 3つの大きな大陸が横に3つ並んで映し出される。なんだか学校の授業を受けている感じになる。

「この基地は砂漠の地下300メートルまであり、アシリマやアイッスルにもまだ発見されていません。機器に誤作動を起こす磁砂嵐が頻繁に発生するため、ここには直接攻めてこれないのです。」

 東京タワーの高さとほぼ同じ・・・。技術レベルの高さに驚愕する。

「これまで質問はありますか?」

「いえ、特にありません。」

「では兵器の説明に移ります。」

「あっ」

 伝説の勇者の話について質問したかったことを思い出し、つい声を出してしまった。

「どうかしましたか」

「いや、その」

 話の腰を折ることにならないかと心配したが聞くことにする。

「この世界で語り継がれてきた伝説の勇者について教えてもらえませんか?」

 質問するとノアさんは数秒の間の後、まるで絵本を聞かせるかのように語り始めた。

_______________________

 はるか昔、この星には地の民と呼ばれる者達が暮らしていました。

 彼らは村を、街を、国をつくり、力を合わせ様々な困難を乗り越え生きていました。

 ある日、空から雲を掻き分け巨大な船が現れました。その空飛ぶ船には空の民と呼ばれる者達が乗っており、彼らは地の民と比べとても高度な文明を持っていました。彼らは地の民に対し、大地を明け渡し奴隷になることを要求しました。

 当然、地の民はその要求を拒否します。すると、空の民は地の民へ攻撃を開始しました。

 鉄より固い体を持つ巨獣の軍団が国々へ攻め込みます。地の民も抵抗するために団結して戦いますが、逆に蹴散らされてしまいました。

 国々は滅び、生き残り達が逃げ延びた最後の町も軍勢に取り囲まれてしまいました。

 絶体絶命、もう間もなく攻撃が開始されるというその時、青い鎧を纏った一人の戦士がどこからともなく現れると軍勢の前に立ち塞がりました。

 戦士へと一斉に降り注ぐ攻撃。ですが戦士はまるで風のように全てを躱します。

 戦士が腕を振りかざと、氷や竜巻、炎といった様々な現象が巻き起こります。それによって巨獣達は氷漬けにされ、風に引き裂かれ、跡形も無く消し炭にされる等してあっという間に全滅してしまいました。

 あれほど恐れていた軍勢が瞬く間に倒され歓喜に湧く人々へ戦士が言います。

「共に空の民と戦って欲しい。」

 戦士はさらに黄と赤の鎧を作り、2人の地の民に与えました。青・赤・黄の鎧を纏った戦士を旗頭に地の民は反撃を開始。空の民の軍を悉く倒し、ついには根城である空飛ぶ船をも破壊しました。

 空の民を倒し。勝利を喜び合う地の民達。すると突然、青い戦士の体が光に包まれました。

『勇者としての使命が終わり、元の世界に帰る時が来た。』

 そう、彼は別の世界からやって来た”勇者”だったのです。勇者を包む光が一際輝くとその姿は既に無く、そこにはあの青い鎧だけが残されていました。」

_______________________

「これで伝説の勇者のお話は終わりです。」

「今の話に出てきた勇者が前回召喚された勇者のことで、残された青い鎧がトライブルーなのですか?」

「はい。私は代々考古学者の家系で古い伝説や言い伝えについて調査・研究をしていました。勇者と共に戦った者の日記が残っており、そこにはトライブルーの機能や操作方法等について書かれていました。」

 なるほど。ノアさんは兵士というよりも教師のような印象を受けていたが、学者だったからか。考古学者ならば、はるか昔に存在した勇者について詳しいのも合点が行く。

 ならばともう一つ質問する。

「今この世界に僕以外の勇者は来ていないのですか?」

 叔父がこの世界に勇者として呼ばれている可能性を確認しようと質問したが、

「いえ、それはあり得ません。」

 きっぱりと断言されてしまった。

「この星に存在する召喚機はあの1台だけ。伝説にある勇者が帰還してからは金庫で厳重に保管されていました。あなたを召喚するために金庫を開きましたが、過去に開けられた記録や痕跡はありません。何か気になることでも?」

「いえ、少し疑問に思っただけです。」

 叔父の失踪はあくまで個人的な問題であり、この人達とは関係が無い。余計な質問は控えるべきだと質問はそこで終わらせた。


「では次にアイッスルの兵器について説明します。」

 画面が切り替わると手を広げた男が映し出される。頭、腕、足、体と次々に部品が装着されてゆき、最終的に全身が装甲で覆われた戦士が完成した。

「パワードスーツはアイッスル軍の主兵装で、パワーアシストによる高威力の火器の携行と」

 説明と並行して動画が再生される。パワードスーツを着た兵士が、楽々と巨大な銃を抱える。銃撃が行われると一瞬で的の人形が粉々になった。

「脚部のローラーにより機敏な動作を可能にします。」

 次の動画ではパワードスーツが等間隔に立った柱の間をジグザグに機敏に進み、柱を通り抜けると猛スピードで直進後すぐに急停止した。

「兵の多いアイッスルではこのパワードスーツを装着した大部隊を軸に、機動力を活かした高速戦闘が特徴です。」

 すごい。地球では介護や軍事目的でパワードスーツの開発が進んでいるとテレビで見たことがあるが、まだ重いものをゆっくり運ぶレベルだ。

「続いてアシリマ軍の兵器について説明します。」

 最初に戦った2組のプロペラが付いた機体、プロペラの代わりにスクリューや車輪が付いたモノが映し出される。

「装備を変更することで様々な戦場に対応し、AIにより様々な指令を実行ができます。危険地帯や長時間・広範囲の作戦を実行できるのがドロイドの特徴です。」

 空を飛び、水中を進み、荒野を駆けるドロイドの映像が流れる。一見どれも地球で販売されているラジコンと同じに見える。しかし、装備された銃が玩具では無く兵器であることを強く物語っている。

「大型ドロイドにもいくつか種類があります。鉄壁の防御力を誇るゴーレムタイプ、高速で飛行し爆撃を行うジェットタイプが現在確認されています。どちらもレジスタンス所有の武器ではほとんどダメージを与えることができません。」

 前に戦ったのと同じゴーレムが戦車に向かって拳を振り下ろす映像と、一瞬でカメラのフレームから消え去る戦闘機の映像が映る。

 先ほどの地図が表示され、中央の大陸の北部がクローズアップされる。

「アシリマとアイッスルは過去何度も小競り合いを起こしてきましが、この中央大陸の地下資源をめぐり戦いが激化。使用される兵器の性能・規模が共に増大し、両軍の犠牲者は増加の一途を辿るばかりです。」

 地図上に×印が幾つも現れる。戦闘が行われた場所なのだろう。

「互いに引き下がらないまま50年経ちました。戦争を止めようと活動したことで政治犯として国を追われた者。戦争に嫌気がさして国から逃げ出した者。このレジスタンスにはそういった人達が多く集まっています。」

 部屋の明かりがつき、ノアさんが机の前にやって来た。

「何か質問は?」

 これから戦うであろう兵器の強さついて、大まかにではあるが理解できた。理解できたからこそある疑問が生まれた。

「パワードスーツやドロイド、AI等は僕の世界にもあります。でもそれらはこの世界と比較してとても低いレベルです。今の説明を受けての率直な感想は、こんなに凄い性能の兵器達を相手に、僕が戦って何とかなるのですか?」

 何とも情けなく自信の無い発言だが、これが率直な感想だ。それでもノアさんは表情を変えることなく、

「では訓練室に移動しましょう。何故トライブルーが戦力たり得るのか説明します。」

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