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派遣勇者-SENT BRAVE-(4)

 目が覚めるとベッドの上だった。灰色の天井と周囲を囲う白いカーテンが見える。

 起き上がろうと腕に力を入れると、これまで経験したことの無い凄まじい筋肉痛に襲われた。筋肉痛は全身に広がり、呻き声を上げながらベッドの上をのたうち回る。するとカーテンが開かれ誰かが入って来た。

「起きたかい勇者さん。おいどうした?転げ回って」

 筋肉痛で上手く喋ることができないでいると、

「おいおい落ち着け、深呼吸だ。」

 深呼吸を何度も繰り返していると、湿布を貼ってくれると言う。

 うつ伏せになり、背中に湿布を貼ってもらい「ありがとうございます。」と礼を言うと彼は

「礼を言うのはこっちの方さ。君がいなきゃ、今頃俺はゴーレムに叩き潰されてミンチになってたんだからな。」

『ゴーレムに叩き潰されて』という言葉で彼が誰なのかが分かった。

「飛び出して撃たれた」

「そうそう。君が壁にめり込んだときはもう駄目かと思ったが、さすがは伝説の勇者だ。まさかゴーレムを倒してしまうとは。」

 次第に記憶が蘇ってきた。彼が動けなくなった時にようやく壁から抜け出し、それからガムシャラにゴーレムに突っ込んだのだった。

「しかし心配したよ。三日も寝たきりだったんだから。」

「3日も!?敵は?ここはどこなんですか?僕はなぜここに」

 驚きから捲し立てて質問をしていると、再び筋肉痛が襲ってきた。

「落ち着け落ち着け、敵はいない。ここはレジスタンス基地の中で安全だ。詳しい話はノア指令がして下さる。連絡を入れたからもうすぐここに来る。」

 なだめられるように言われ、一旦深呼吸をして落ち着きを取り戻そうとする。

 そうだ、あのノアという女性。僕を勇者と呼び、あの銃で戦わせた。彼女なら疑問に全て答えてくれるはずだ。

 待っている間にゼリーが入ったパウチを渡された。栄養食とのことで、口にしてみるがとてつもなく甘く、生クリームをそのまま吸っている様な感覚だ。しかし、好意を無下にするわけにもいかず一気に我慢して吸った。

 胃もたれを我慢しながら待っていると、部屋の扉が開いて彼女がやって来た。すると傍にいた兵士が姿勢を正して起立している。偉い立場の人なのだろうベッドに近づく彼女の顔を見つめる。

 ヨーロッパの彫刻や絵画を連想させる整った顔立ち。現在の状況も相まってどこか現実離れした美しさを感じた。

「ユースケと話をします。ロムアはしばらく席を外して下さい」

 そう告げるとロムアさんは「了解しました」と部屋を出て行った。彼女は傍の椅子に腰かけ、まるで小学校の教師が生徒にするかの如く、優しく語り掛けてくる。

挿絵(By みてみん)

「もう一度自己紹介をしておきましょう。私の名前はノア・アーク。レジスタンス組織”ナパージュ”の指令官を務めています。」

 “レジスタンス”という不穏な言葉に困惑する。何かと戦っているのだろうか。

「助けて頂き本当にありがとうございました。聞きたいことは多々あると思いますが、まずこれまでの経緯を説明しましょう。最初にあなたが現れた箱。あれは宇宙に存在する”勇者”を召喚するための装置で、私が使用したところ”勇者”としてあなたが召喚されたのです。」

 僕が勇者として異世界に? 余りにも突拍子も無い内容に絶句する中、彼女は話を続ける。

「本来であれば特別な力を持つ勇者が召喚されるはずなのですが、あなたは違いました。そこで仕方なく、共に保管していた”トライガン”を使い”トライブルー”に変身して戦って頂いたのです。戦闘後、意識を失ったあなたを回収してこの基地で治療を行い、今に至るというわけです。ここまでで何か質問は?」

 話してくれた内容に質問は無かった。”トライガン””トライブルー”についても聞きたかったが、先にどうしても確認したいことがある。

「僕は元の世界に帰れるのですか?」

 質問に対して彼女は表情を一切変えずに淡々と答えた。

「それにはまず”勇者”について説明しなければなりません。かつてこの世界に召喚された勇者によれば、『あの箱型の機械と同じような”勇者”を召喚する装置が宇宙には幾つも存在し、願いのある者が装置を使用すると”勇者達”に呼び掛けがあり、それに応じた“勇者”が転送される。”勇者”は召喚者の願いを叶えることで元居た世界へ帰還することができる』とのことです。」

 『召喚者願いを叶えることで元居た世界へ帰還することができる』という言葉が何を意味するのか理解し、受話器を取った時のことを思い出し嗚咽が漏れた。

「ま、まさか・・・。」

「そう。あなたはこの世界を救わなければ元の世界には戻れません。」

_______________________

長引いた軍事会議が終わり、ようやく自室に帰る。部屋に入ると秘書ドロイドが飲み物を携え、労いの言葉をかけてきた。

【お疲れ様ですゲイツ総指令官。随分会議が長引きましたネ】

 やれ資金が足りない資源が足りない等、内務の連中がごちゃごちゃと言い訳ばかりでなかなか会議が進まなかった。国民の税金を上げて対応することになり、それでは亡命者がさらに増えると国務大臣が文句を言っていたが、片っ端から捕えて強制労働所に連行しろと言い黙らせた。

 アシリマ合衆国を捨てた亡命者など銃殺されても文句を言えまい。亡命者の多くは最終的にレジスタンスになる。敵として銃殺されないだけ寛大な処置というものだ。

 レジスタンスというワードにある事を思い出した。

「遺跡に現れたレジスタンスについて報告は?」

 ドロイドへ問いかけながらソファへと腰を下ろし、飲み物を口にする。

【レポートが上がっています。投影します。】

 ドロイドの目から光が放たれ、投影された報告書が光となって現れる。手でページをめくる動作をするとドロイドが感知して次のページを投影する。1ページあたり2秒ほどの速さでどんどん読み進めてゆくと、あるページで手が止まった。

 そこには飛行型のドロイドであるHERI-type12を回収したものが映っていた。このドロイドは飛行速度は遅いが装甲が厚く、通常火器ではほぼダメージを与えることはできない。ロケット砲の直撃でやっと撃破できるほどの頑強さを誇る。

 しかし、報告によると大した外傷は無いが機能が完全に停止しているらしい。製造局によると内部のコンピュータは全てが停止・修復不可に陥っており、原因を調査中だとある。

 次のページにはゴーレムタイプが大破した画像を添付されていた。

 ゴーレムタイプは徹甲弾の直撃にも耐えるアシリマ軍随一のパワーと装甲を併せ持つドロイドだ。これを破壊したということはレジスタンスが高威力の新兵器を開発したのかと危機感を募らせる。

 だが製造局のコメントを読み安堵した。そこには破壊された装甲の凹みから、ゴーレム自身の拳が頭部に直撃。つまりは自爆であり、なぜそのような事態に陥ったのかは同じく調査中と記されていた。

 ゴーレムタイプを破壊できるということはアシリマ軍の全兵器を破壊可能ということ。そんな技術があってはならない。

 ページをめくると天井いっぱいに画像が広がり、巨大な扉が映った。ゴーレムは扉の前で破壊されている。扉内部には劣化して使用不可能な記憶媒体が大量に保管されていたとある。

 この遺跡は砂嵐が吹き荒れる砂漠地帯に存在しているのだが、最近になって砂嵐が止み存在が明らかになった。旧時代の遺跡ならば、過去の失われた技術がまだ残っている可能性が高いため、ドロイド部隊を派遣する予定だった。

 しかし、遺跡周辺を偵察していたドロイドが遺跡へ向かうレジスタンスを発見。指令であるノア・アークの存在を確認した。

 彼女を捕獲するために飛行ドロイドとゴーレムを投入したのだが、まさかこんな結果になるとは思いもよらなかった。

 ”あの方”に報告すべきか悩む。ノアを生きたまま捕えよという指示だが、失敗すればこちらの命も危うい。

「何としても早急にノアを捕えねば・・・。」

 破壊されたゴーレムの画像を憐憫の表情で見つめながらそう呟いた。

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