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派遣勇者-極天龍の雛守-(8)

 村のそばの川で、黙々と水を注ぐ。

「よーし、これでいいかな。」

 砕けた卵の殻の中から選んだお椀のような形の殻の中に水を張り、焚火で高温になるまで熱した石をその中に投げ入れた。

『ジュアアアアアッ』

 高温の石に触れた水によって一斉に音が鳴る。手を浸すとまだぬるいので2個続けて放り込むと水面から上がる湯気の勢いも強くなってきた。

「ユスケの世界は熱湯で水浴びするの?」

「そうだよ。ただ、本当は外から熱して中の水を温めたかったけど。」

 殻の断熱性能がすごいのか、外側から熱しても中の水は全く温まらなかった。仕方が無いので熱した石を入れてみたが上手くいった。

「よーし。」

 底にある石に足が当たらないように中に入る。と、体が温かな湯に包まれ思わず声が出る。

「ふぅ~。」

「もぁ~。」

 水面に浮かぶモモちゃんも気持ちいいのか目を閉じぷかぷか浮いている。前の世界から数えると湯船につかったのは相当久しぶりだ。やはり日本人はシャワーだけでは満足できない体になっているのかもしれない。

「そんなに気持ちいいの?」

「広い湯舟は久しぶりだから。」

 ジェロには次に入れる石を熱する作業を任せている。僕が風呂から上がれば交代してジェロが風呂に入ることになっている。

 パシャンパシャン。僕にとっては小さい浴槽でモモちゃんにとっては広い大浴場、下半身をくねらせて水しぶきを上げながら泳ぎ始めた。

「こら!モモちゃんお風呂で遊ばないの。」

 捕まえようとするも水中を自在に泳ぐモモちゃんを捕らえられない。何度か触ることはできたが表面がつるつるして四苦八苦していると、水面に顔を出した。

「ぴゅ~」

「あっ!うわっ!」

 モモちゃんが口に含んだ水を僕の顔目掛けて発射してきた。かなりの水圧に押されそうになるがこちらも手を組み水鉄砲を発射、モモちゃんの顔に直撃した。

「もぁ~!」

 思わぬ反撃にモモちゃんが水中深くに逃走すると底にあった石を持ち、僕の体に押し付けてきた。

「あつっ!あっつ!」

 モモちゃんの攻撃を避けるために殻の外へと逃れる。水筒に入れていた食虫植物の粘液を手に付けて泡立たせると、それを体に擦り付けてゆく。

 伸びがいいのか泡が割れずに体をどんどん覆っていく。泡に包まれた僕を面白がって近づいたモモちゃんに向かって、両手で円を作りそこへ息を吹き込む。

「もぉ~!?」

「わぁ~すごい!」

 初めて見るシャボン玉に驚きの声をあげるモモちゃんとジェロ。空中をふわふわと浮き上がってゆくシャボン玉に、モモちゃんが捕まえようと近づくと割れてしまった。

「モモも!モモも!」

 片手で円を作りモモちゃんの前に突き出すと、「ふぅ~」とモモちゃんが思いっ切り息を吹き込む。すると小さなシャボン玉が一斉に飛び立ち空に解き放たれた。

「おぉ~!」

 空高く飛んで行くシャボン玉達を見上げ、3人が感嘆の声をあげた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 久しぶりの風呂に体の疲れも消え去った感じがする。今日は気持ち良く眠れそうだと毛布に包まると、モモちゃんが胸の上に陣取った。毛布の隙間から顔を覗かせ、こちらの様子を窺っている。

「グ~グ~」

 目を閉じていびきをかき、寝たふりをする。しばらくは何の動きも見せないモモちゃんだったが、1分も経たない内に毛布から這い出てくると、首元まで近づいてきた。

「スンスンスン」

 どうやら顔の匂いを嗅いでいる。一体この後何をするつもりなのかとそのまま寝たふりを続行する。

 ギュっ―。鼻が塞がれ途端に息が苦しくなる、人間の体に興味があるのか、ただいたずらのつもりなのか。今度は反撃をしてやろうとモモちゃんが気付かぬよう、慎重に手を動かす。

「なーに悪戯してるの!」

「モアアアアアっ!?」

 両側面からモモちゃんの体をガシッと掴む。反撃をまるで予想していなかったのかモモちゃんは体をくねらせ鳴き喚く。

「寝てる人に悪戯しちゃダメ!」

「もぉ~ん」

 目を潤ませながら甲高い声で鳴くモモちゃんがその潤んだ瞳でこちらを見つめてくる。その瞳に見つめられると、悪いのは自分ではないのかと錯覚してしまいそうになる。

「泣き落とししても駄目!」

 もし他の獣人に同じことをして本当に息の根を止めてしまったら大変なことになる。心を鬼にしてモモちゃんの目をじっと見返すと、プイとモモちゃんが顔を反らした。

「コラ!こっちを見なさい!」

 こちらに向けさせようと手を動かすと信じられない柔らかさで顔を反らすモモちゃん。体を小刻みに揺らしたり、何度も声を掛けても一向にこちらを見ようとしない。

 その時、モモちゃんの柔らかそうな下顎が見えた。柔らかそうなピンク色の部位に、どうしてか分からないが吸いこまれるように口づけをしてしまった。

 柔らかい、ゼリーにもスポンジでも再現できないような、ずっと触れていたくなるような感触。

「モモッ!!?」

 驚きの声をあげ、何をしたんだと言わんばかりに目を見開くモモちゃん。

「ごめんごめん。あいたっいたいっ!」

 お返しと言わんばかりにモモちゃんが顔を啄んでくる。本人はキスの真似をしているつもりなのだろうが、鼻や瞼だけでなく、髪の毛さえも咥えようとしてくる。

「わ~ごめんごめん。お兄ちゃんが悪かったからもう止めて~。」

 急遽始まったの夜の鬼ごっこは、モモちゃんが疲れ果てて眠るまで1時間ほど続いた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「もーいーか~い?」

「もーいーよ。」

 今日は朝から子供達とかくれんぼをやっている。隠れるエリアを狭く設定しており、隠れられる場所は限られている。

「見ーつけた。」

 木の上に二人隠れていたのを見つけ、声を掛ける。

「ユスケすぐに見つけてツマンナーイ。」

 見つけられて待機している子供が不満の声をあげる。この年でかくれんぼをするとは思わなかったが、モモちゃんも楽しく子供たちと一緒に遊んでいるのでやって良かった。

 それからも木の上や草むら、岩の後ろなどを探し子供たちの全員を見つけた。

「残るはモモちゃんか。」

 モモちゃんは空を飛ぶことは禁止にしていたが、体が小さいためにこれまでも制限時間内に見つけられず、鬼が降参の宣言をしてやっとその姿を現していた。

 子供の一人が持ってきた砂時計を見つめるともう残り時間は僅かだった。

 モモちゃんと長く過ごしてきた自分ならば見つけられると意気込んだはいいものの、一向に見つけることができないまま時間だけが過ぎていく。

「モモチャーン!!降参だよー!出ておいで―!!」

 砂が落ちきったために降参の宣言を大声でする。これまでは降参の宣言をすれば、モモちゃんは草むらからひょっこりと姿を現していた。しかし、一向に待ってもその姿が現れない。

「聞こえてないのかな?モモチャーン!出てきてー!」

 子供達も共に、「モモ様ーっ」「御子龍様ーっ」と草むらや木に向かって叫ぶ。しかし、それでもモモちゃんは現れない。

「モモちゃん……?」

 心臓の鼓動が頭の中で、やたら大きく響いていた。

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