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派遣勇者-極天龍の雛守-(6)

 地平線を太陽が沈みゆく荒野を男が一人、荷物を載せたスーホーと共に駆けてゆく。 

(日没までに村に着かないとな。)

 荷物の中身は他の村で取引をして手に入れた薬や鉱石に装飾品。男は村々を行き来して物品の交換を生業とする行商であった。

 向かっている村はこの星で生きるすべての者に崇められる極天龍のお膝元である。なんとか日が出ている間に到着してお目通りを済ませようと男は急いでいた。

 村に滞在できる時間は決して長くない。好意を寄せる女性と出来るだけ長く居れるようにと、足取りはどんどん早くなってゆく。

(ん?)

 村の方角がやけに明るいことに男は気付いた。問題ごとかと思った男は全速力で駆けだすが、陽気な音楽が聞こえたので足を止めた。

(祭り?)

 こんな時期に祭りを行う予定は無かったと考えながら男は村の入口へ行くと、音楽が聞こえる村の中心へと進む。すると大勢の村人が炎を囲って踊っているのが見えた。

「おや、テカムセじゃないか。」

 背後から両手に料理を幾つも持った初老の女性に声を掛けられた。テカムセは客のこの女性から良く気にかけてもらっていた。

「おばさん、これは一体?何かの祭りですか?」

「あんたいいところに来たね。ほらこっちこっち、あそこを見てごらん。」

 連れて行かされたテムカセが指さされた方向を見ると、広場の奥に木製の高座が見えた。高座では何か小さな生き物が宙をふわふわと飛び回っている。

「見えるでしょ!昨日生まれたばかりの御子龍様よ。」

 その言葉を聞いた途端、落雷を受けたかのような衝撃をテカムセは感じた。

「卵が孵ったのですか!」

「そうなのよ。極天龍様が勇者様を呼んだその晩に卵が孵ったらしいわ。」

「勇者?」

 ピンクの生き物がはしゃぎ疲れたのか後ろで椅子に座る人物の肩にとまった。奇妙なことにその人物は顔が平べったく、頭にしか毛が無い。

「極天龍様が留守の間にこんなことになるなんてね。」

 その言葉にテカムセは運命を直感した。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「ささ、モモ様 勇者様、新しい料理ができました。こちらも召し上がり下さい。」

 木の器に盛られて出てきたのは地球の物よりも二回りは大きな枝豆。

「もっ♪」

 モモちゃんは上機嫌に鳴くと口を限界まで広げ、豆にかぶりつこうとするが大きすぎて口に入らない。

「待った待ったモモちゃん。」

 腕で遮りつつ豆をナイフで細かく切り分ける。

「も~も~❤」

 細かくなったと言っても一つ一つが枝豆と同じサイズはあるのだが、それをモモちゃんはパクパクと呑み込んでゆく。食べ盛りなのか満腹にはほど遠いようだ。

「もっ!」

 もっと切り分けてくれと言われ豆を切り分けていると、

「モモ様。行商のテカムセがお目通りをしたいと申しておるのですが。」

 村長が声を掛けてきたがモモちゃんは豆を食べるのに夢中になっている。

「他の村の人は後日にまとめてお目通りをするはずでは?」

 確か他の村には既に伝令を送っており、後日この村に到着した人達と一緒に再び宴をすると村長が言っていたはずだった思い村長に聞くと、

「テカムセは村を行き来し生活の品を運ぶことを生業とする行商人です。特定の村に住んではおりません故に伝令と行き違いになったのでしょう。」

 村長の説明を聞いて特に断る理由も無いのでどうぞと言うと後に控えていた男が前に出てきた。

「お初にお目にかかります。テカムセ・ショーニと申します。御子龍様に是非こちらを。」

 若い住人が差し出したのは手のひら大の水晶だった。

「もーも?」

 一度水晶を覗き込んだモモちゃんだったが食べ物ではないと気付いたのか、興味を無くし肩に戻る。

「この子は食べ物にしか興味が無いんですよ。」

「え、そうなのですか。」

 テカムセは狼狽した様子を見せるとすぐに、

「では後日、必ず用意いたします。」

 そう言って下がっていくテカムセと目が合ったが、これまで村人達が向けてきた視線とは何かが違う気がした。とは言っても行商という特別な仕事をしているからだろうと考えただけで、次に出された肉料理を切り分ける作業に戻る。

「それではモモ様。我々ナイドゥニ族が語り継いできたこの星の歴史と極天龍様との関わりについて、劇を演じます。ご覧下さい。」

 そう言うと焚火からは離れた位置に立った獣人が重低音の大声で語り始めた。

「遥か遥か昔、この空に数多の船が覆いつくすほど文明が栄えていた頃。」

 オペラ染みた始まりに聞きほれていたが途中の台詞に驚く。原始的な生活をしていたのでこの世界は発展途上なのだと勘違いしていた。

「世界の覇権を狙うある大国が9柱の赤き巨神を作り上げ、この世界を我が物にせんと世界中の国々に戦いを仕掛けた。」

 植物で出来た大きな巨神が火のついた槍を持って現れた。手の先に着いた棒を下にいる操者が巧みに動かし、槍を建物のハリボテに突き刺して燃やす。

挿絵(By みてみん)

「圧倒的な力で国々を焼き尽くす巨神達。ところが操られていた筈の巨神達が自我を持ち、自らを造り上げた大国を燃やし尽くした。」

 巨神達の体から火がつき、油でも染み込ませていたのか肌が焼け付くほどの勢いで燃え盛り始めた。あまりの迫力に自分もモモちゃんも息を吞んで見入ってしまう。

「地上の全ての国を滅ぼしてもなお、炎をまき散らし続ける巨神。生き残った者達にできるのは、ただ祈りながら終末を待つのみであった。」

 ボロボロの格好をした村人が現れると燃え盛る巨神達を見上げながら立ちすくむ。

「これは天罰だ。世界を破壊するほどの力を持った生命を創造し、神を越えたという驕りに対する天罰なのだ。甘んじて受け入れよう。」

 男が膝を地面に付き項を垂れると、突如明るい光が男を照らした。

「あ、あれは何だ!?」

 脇から現れたのは極天龍を模した張りぼて。だが巨神よりも造りが丁寧で豪華だ。その体のあちこちに付けられた棒を多人数で細かく動かす様は、中国の舞龍を想起させる。

「突如天より現れたるは虹色の光を放つ龍。龍は巨神達へ言った。《これ以上の破壊は止めよ》その呼びかけに巨神達は炎の槍を投げ返した。」

 火のついた槍に着いた棒を持ち、極天龍の方へ走って行く操者が突如、踵を変えて巨神へと戻ってゆく。

「龍の元へと向かった槍は向きを変え、巨神へと逆に襲い掛かった。」

 その声に合わせて巨神達の体の一部が欠損して落下した。

「怒り狂った巨神達が一斉に龍に飛び掛かるも、龍の羽ばたき一つで瞬く間に塵へと成り果てた。」

 羽が羽ばたく動作と共に崩れ落ちて行く巨神達。恐らくこの語りのタイミングに合わせて焼け落ちるように調整されているのだろう。

「龍の不思議な力により世界を燃やす炎が消え去った。男が龍に問う。」

「巨神をいとも容易く屠り去った、あなた様は一体?」

 村人が極天龍の前で跪くと尋ねた。

「我が名は極天龍。生き残りし者達よ。我がこの地に住まうことを許すのであれば、この地に生きる者達は我が守ろう。」

「もともと滅びる運命だったところを助けてもらったのです。もちろん構いませんとも。」

 極天龍が咆哮をあげる挙動を取ると、木や花の姿をした村人や動物のメイクをした村人がミュージカルの様に次々と現れた。

「そんな・・・!!灰から植物や動物たちが、自然が蘇ってゆく!おお!極天龍よ!あなたこそこの星の救世主。これより子々孫々、あなたを神として崇め続けましょう!」

 周りにいた村人達も感極まった声と共に「おお!」「神よ!」等と声をあげる。

「こうしてナイドゥニ族は極天龍様を崇め、復活した自然と共に生きてゆくことにしたのです。」

 パチパチパチと拍手をするとモモちゃんも真似をして小さな前足で拍手を始めた。

「勇者様、それは一体?」

「ああ、僕の星ではこういった劇を見て素晴らしいと思ったら手を叩くんです。」

「おお!ありがとうございます。」

 嬉しそうに拍手をする村長に劇中で疑問に思ったことを質問をする。

「巨神達がいた時代はどれくらい昔のことなのです?」

「さあ、私で332代目の村長ですから途方も無いほど昔のことでしょうな。代々受け継がれてきたこの劇ですが、段々と演出が凝ってきて面白いと極天龍様もお褒め下さいました。」

 仮にそれぞれの村長が10年務めたとしても3330年前。そんな昔の出来事が果たして正確に伝わるものなのだろうか。

 赤き巨神というのは恐らく生物兵器。制御が効かなくなり暴走した生物兵器をいとも容易く極天龍が倒したというのも、あれほどの力があれば納得できる。しかし、灰から動植物を復元したというのは誇張し過ぎではないだろうか。きっと世代を重ねて語り継がれてゆく中で脚色されていったのだろう。

「もあ~~ん。」

「モモちゃん眠くなったの?」

 モモちゃんが欠伸をしながら腰の上でうずくまってしまう。それを見た村長が、

「それでは今宵はこれでお開きとしましょう。」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 モモちゃんを抱っこしながら洞窟へと辿り着くと、貰った毛布と卵の殻の残骸で寝床を作る。そこにモモちゃんを寝かせると毛布でくるむ。

「よし。」

 自分の寝床も作りそこへ寝転がる。天井では星が煌めき、そこに地球から見える星座が一つも無い。

「おやすみモモちゃん。」

 そう言って瞼を閉じしばらくすると、何かが胸元でゴソゴソと蠢いている。毛布をめくるとそこにはモモちゃんがいた。

「もんも~ん」

「ん~?モモちゃん。お兄ちゃんと一緒に寝たいの?」

「もん。」

 毛布の中、こちらに顔を向けてそう言うモモちゃんの頭を撫でると気持ちよさそうに目を細めた。

(何が“お兄ちゃん”だ。)

 ペットに対して自分をパパやママ、お兄ちゃんなどと呼んでいるのを気持ち悪いと思っていたが、まさか自分がそうなってしまうとは。

 何度も寝食を共にし、完全にモモちゃんへ愛着が沸いてしまった。腕白なところ、コミカルな表情の全てが今では愛おしい。

「おやすみモモちゃん。」

 そう言いながらモモちゃんの背中を撫でながら瞳を閉じる。久しく感じなかった安らぎの中。眠りにつくことができた。

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